混沌
ヘイル・ロズ第3区で行われた残党狩り。
結果としてタクト、ミサ、コウスケ、ヒロキ。そしてハデスとヨミが死亡する事となったが、ゲラート、ロザリオ、デュバル、レイカ、そしてリョウヤを捕まえる事が出来、一応の収束となった。
「…さて、そろそろ帰るとしよう。」
「はっ。」
「ノックスよ。褒美としてプリンをたんまりと用意しておくのじゃぞ。」
一同が地下施設から出ようとしたその時だった。
得体の知れない気配が突如現れ、とてつもない魔力を練り上げる。
その気配に気づいた一同は一斉に振り返ると、そこにはハデスの姿があった。
「………奴は………!!」
「……このまま…………帰すわけが…………無かろう………
………不本意だが………致し方あるまい………」
ハデスはうわ言のように呟いたかと思うと、練り上げていた魔力を解放した。
その途端、巨大な地響きか巻き起こり、壁や床、天井に亀裂が入る。
「……なぜ……!!奴は確実に倒したハズ……!!」
ハデスの復活にノエルが驚いた。
ノエルは念の為にハデスが復活するかもしれないと、倒してからすぐに火魔術で荼毘に付したのだ。
にも関わらず、ハデスは蘇り、むき出しの骨へと焼け焦げた肉がまとわりつき、逆再生のように復元されてゆく。
「……来たれ………我が神よ………!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、上階のアシュフォード邸はブラックウッド主導のもと、アンドリュー・アシュフォードの身柄を拘束し、邸宅内にあるさまざまな証拠資料を差し押さえていた。
そこへ地下からレオノーラがゲラートを連行し、ブラックウッドらと合流していた。
「統括、ご苦労様です。レオノーラ、残党のゲラートを連れて参りました。」
「ご苦労であった。ノックス陛下らは地下で?」
「はっ。他残党らとの戦闘となり、私めが一足先にゲラートを連行するようにと仰せつかりました。
……し、しかしながら………ノックス陛下らの魔力量………」
「………あぁ………」
地上階にいた誰しもが、地下から発せられていたノックスらの気配に驚きを隠せずにいた。
「……うーーん……それより、そろそろ始まりそうだね。レオノーラちゃん。それに統括さん。ここから避難したほうがいいかもよ?」
手錠をかけられたゲラートが少しばかり神妙な面持ちでそう言った。
「……残党の言葉を真に受ける必要も無いが……確かにこのままではノックス陛下らの戦闘で崩れるやもしれんな……」
「いやぁ、俺がそう言うのは、そっちじゃないけどね。」
「……なに……?」
ややもすれば地下からの気配が消え、ブラックウッドらもアシュフォード邸から大量の証拠資料の差し押さえが完了する。
が、その時。
突如異様なまでの魔力と共に地響きが巻き起こり、アシュフォード邸の壁に大きく亀裂が生じた。
「全員退避!!」
ブラックウッドが大声で叫び、部下らを退避させた。
地響きはその後、止まるどころかさらに激しさを増し、大地にまで亀裂が走る。
アシュフォード邸は地響きにより崩壊し始め、アシュフォード邸だけでなく周囲の建物にまで被害が及ぶ。
それにより住民がパニックを引き起こし、慌てて逃げる人で貴族街はごった返しになっていた。
上空には漆黒の雲が立ち込め、辺りは突然の暗闇に覆われた。
「……い……一体なにが……!?……まさか、ノックス陛下が……!?」
「……いやぁ、これは違うよ。
……どうやら、あの話は本当だった……ってわけか……」
「……何……?……では、残党の新兵器か……!?」
「ノックス陛下でも、新兵器でもないさ。これはハデスさ。まさか本当だとは思ってなかったけど。」
「……何を知っているのだ……!?説明しろ!!」
「……来るよ……混沌が……」
ゲラートがそう言って天を仰ぐ。
漆黒の雲がアシュフォード邸を中心に渦を巻いていたが、そこから一筋の雷がアシュフォード邸へと落ちる。
凄まじいほどの轟音と共に大地が崩れ、アシュフォード邸は見る影も無くなった。
その衝撃は凄まじく、近隣の住宅が爆風で崩壊し、近くにいたブラックウッドらも衝撃波により吹き飛ばされた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
激しい雷鳴と共に天井が崩壊し、衝撃波はノックスらを襲う。
ノックスはすぐさま皆の前へと立ち、急いで魔障壁を展開させた。
衝撃波に続いて天井からは大量の瓦礫が降り注ぐ。
ノックスは魔力を練り上げ地魔術を展開させ、大地を隆起させて落下してくる瓦礫を受け止めさせた。
他の者も魔力を練り上げ、覆い被さる瓦礫を動かし、なんとか地上へと這い上がった。
地上へと這い出てたノックスはハデスを見やる。
ハデスは肩から3対の黒い翼を生やし、人ではない何かへと変わっていた。
「…ノ……ノックス陛下……ご無事でしたか……!!」
「…ブラックウッド殿。無事なようで良かった。」
ブラックウッドは吹き飛ばされた衝撃により頭から血を流していた。
「……あ……あれは……一体………!?」
「……どうやら、あれがハデスの正体らしい。」
ノックスらが改めてハデスを見やる。
上空にいたハデスは地上を一瞥すると、自分を中心に沢山の兵が敵意をむき出しにしているのが見て取れた。
「………崇高なるこの力の前に………跪くがよい………」
虚ろな表情を浮かべていたハデスだったが、突如巨大な魔力が膨れ上がったかと思うと、四方へ向けて光弾を射出した。
「フリッパー展開!!!!」
ブラックウッドの号令と共にフリッパーを展開させた。
見た目は透明なビニール傘のように見えたが、光弾がそれに直撃しても破れることはなく、軌道を逸らして着弾させた。
ノックスは大地を蹴りハデスへ向けて跳躍し、光弾を刀で捌きながら接近する。
迫り来るノックスにハデスがゆらりと顔を上げると、刀でノックスを薙ぎ払う。
が、薙ぎ払った刀はノックスの左腕を掠め、逆にノックスの刀によりハデスの右腕は宙に舞っていた。
「……さすがは………地龍を屠りし者………だが………我が神の前には塵に同じ………」
ハデスは自分を中心として風魔術を展開させ、追撃しようとしていたノックスを吹き飛ばした。
ハデスは翼をはためかせ、大地へとゆるりと着地した。
「………我が神の前に………跪くがよい…………」
右腕を再生させたハデスが上体を反らしたかと思うと、徐に自分の胸を自分の両手で突き刺した。
そして、左右に胸を開くと、ハデスの体内から何か黒いものが這いずり出た。
「……な……何だアレは……!!!?」
「……何かは知らぬが……ただごとでは無い………!!」
ハデスの体内から這い出た黒いものは、異形であり、黒い靄を中心に足や手が生えている。
それは人型のようにもなり、時にはそれは獣の如く容姿へと絶えず変化している。
黒いものはその後も何体もハデスの体内から現れ、「ほっほっ」と猿のような低い声で鳴いている。
「……ゆけ、『グシオン』………奴らを……我が神の元へ……!」
『グシオン』と名付けられたその黒いものは、ハデスの命令で一斉に散り散りとなり、周囲にいた衛兵らと会敵した。
グシオンはノエルらにも襲いかかり、戦闘へと移行する。
吹き飛ばされたノックスは起き上がり、手で埃を払う。
そこへ、グシオン数匹が一斉に襲いかかった。
ノックスは一瞬で切り伏せたものの、グシオンは「ほっほっ」と笑い声のような鳴き声を上げ、すぐさま再生しては再びノックスへと襲いかかった。
それはどこも同じようであり、切り伏せたはずのグシオンはすぐさま再生しては襲いかかっている。
「……クソっ……!!……コイツら……何度も何度も……!!」
グシオン1体の強さはそこまで強いという訳では無かった。
だが、斬っても再生し、魔術での攻撃も同じくすぐさま再生する。
レヴィアが酸の水で溶かしたりもしていたが、その攻撃でもすぐさま再生されているようである。
「これならどうじゃ!!」
レヴィアは浄化魔術を使用してみたものの、グシオンは平然としている。
「……チッ……!!」
ザリーナはロザリオと共にグシオンをなぎ倒しながら尋ねた。
「ロザリオ!!ハデスは一体何者だ!!」
「……僕にだって分からない……!!
……どう考えても人間じゃないのは確かだが……!!」
「ち、ちょっとぉ!!わ、私らも解放しなさいよ!!」
レイカがザリーナへと懇願する。
「……しかし……!」
「私だって死ぬのはゴメンよ!信用して!!」
ザリーナは少し迷ったものの、このままグシオンを相手にしながらレイカらの身を案ずることなど不可能だと判断した。
「……もしも不穏な動きをするようならば、ノックスに代わって私が貴様を処刑する!!」
「……分かってるわよ……!!だから早く……!!」
ザリーナはレイカ、デュバル、リョウヤの手錠を一旦解除させ、迫り来るグシオンを相手に共闘することにした。