ノックス v.s ヒロキ2
「……い……一体どうなってる……!?……まさかハデスまでもが殺られるとは……!!」
離れた所から戦いを見守っていたデュバルとリョウヤ。
異次元の戦いを見せる8人の姿をただ見守ることしかできなかった。
「……にしても、誰も新兵器使わないんですか。せっかく作ってやったってのに。」
自慢のコイルガンを誰も使用しない事にリョウヤは少し残念そうにしている。
「……皆、相手の力量を考え、得意な武器での戦闘をすべきだと判断しての事だろう。お前が悪いわけではない。」
「………それは分かってるんですけどね……ま、いいんですけど。」
「……それより、ゲラートとレイカは?」
「見てないです。………って、あそこにいるの、レイカさんじゃないですか?」
「……なに……?………本当だな。あんな場所で何を………」
2人からやや離れた場所で、レイカがいるのが見て取れた。
が、様子が少し変わっており、よく見ると大口径のコイルガンを手に照準を定めていた。
そして、高威力の雷魔術を一瞬だけ解き放ち、音速を超えた弾丸はソニックブームと共にとてつもない速度で射出された。
ドォンという鈍い音と共に射出された弾丸は、そのままノックスの脇腹を掠めていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ノックスを掠めた弾丸には、リョウヤが作ったフッ酸が仕込まれていた。
脇腹からはとても弾丸が掠めただけの痛みとは思えず、とてつもない激しい痛みが襲いかかる。
激しい痛みによりノックスが思わず膝を着いたのも束の間。今度はヒロキがコイルガンを引き抜いてノックスへ向けて発砲した。
「あばよ、この間抜け!!」
コイルガンから火花が飛ぶと、ノックスへ向けて弾丸が襲いかかる。
ノックスはすぐさま魔障壁を展開したものの、フッ酸による激痛と、弾丸に予め仕込まれていた『吸収』により魔障壁はいとも容易く崩壊した。
そしてそのまま、弾丸はノックスの腹を貫いてしまった。
「……!!!!」
「ハハッ!!こりゃあいいや!!ほらほら、どうしたんですセンパ〜イ!!」
ヒロキは厭らしい笑みを浮かべながら、ノックスの腹や足に向けて何発も銃弾を撃ち込んだ。
「ハハハハッ!!今度は俺がアンタをいたぶる番って訳ですよ!!まだまだこんなんじゃあ死なないでしょ!!」
ヒロキはその後も何発も銃弾を撃ち込むが、決して頭や心臓は狙わなかった。
ヒロキから放たれた弾丸にも同じくフッ酸が仕込まれており、傷口は腐食を始め、激痛が襲いかかる。
「……おっと、そういや、これ以上は俺もやべぇわ。」
ヒロキは手にしていたコイルガンを投げ捨てた。
リョウヤから聞かされていたように、気化したフッ酸を吸い込む危険性について考慮しての事だった。
「……さぁて、死んじまう前に、アンタの能力貰いますよっと……!!」
深刻なダメージを負ったノックスに向け、ヒロキが『強奪』を行使するため手刀を見舞う。
ノックスは激痛に耐えながらもヒロキの手刀を手で抑える。
銃弾により傷口からは血が溢れ出し、フッ酸によりさらに肉を溶かしてゆく。
「………くっ………!!」
「ハハハッ!!なかなかしぶといですねぇセンパイ!!」
普段なら力負けすることなど有り得ないが、ジリジリと押され、ついには馬乗りになった。
「アンタはもう終わりだっ……!!死ねぇぇええええ!!!!」
ヒロキが手刀に腕力だけでなくさらに全体重を乗せ、ノックスの胸元を抉りにかかる。
なんとか抵抗していたノックスだったが、ヒロキの指先が胸へとめり込む。
――が、ヒロキの手刀はノックスの肉体を貫く事が出来なかった。
「……な……なぜっ………!!!!」
力をどれだけ込めようとも、指先は胸にめり込むだけである。
ノックスは馬乗りになっているヒロキに対し、足を使って巴投げした。
「……ハァッ……ハァッ………な……なんでだ……!!?」
「……貴様の固有魔法なら……俺の固有魔法で消し飛ばしたまでだ……!!」
ノックスはそう言いながら自身に回復魔術を施す。
「……はぁ……!?……固有魔法で……消しただと……!!?」
「理屈を説明してやる義理はない。面白い攻撃の餞に、貴様には地獄を見せてやる。」
完全に回復しきったノックスは魔力を練り上げる。
異常なまでの魔力により、ヒロキは冷や汗を滝のように流した。
「……何するのかは知らねぇけどよぉ……俺はアンタの攻撃で死ぬことは……」
「そうかな?貴様は奴隷らにダメージを肩代わりさせていたが、それは無限にある訳では無いだろう。」
「ハハッ!確かに!!だけどよぉ?俺だって間抜けじゃねぇんですわ。大人しく殺られるとお…も……!!」
「もう口を挟むな。」
ノックスがひょいと指で操作すると、ヒロキの体内から無数の刃が突出する。
切り刻まれたヒロキは会話を強制的に中断されたが、すぐに傷は治り始めた。
ノックスはお構い無しにヒロキに向かって何度も何度も砂粒縛により切り刻み、ヒロキの回復速度を上回る。
「……チッ……!!この……!!」
ヒロキがノックスの魔術から必死に逃げようとするものの、ノックスはそれを許さない。
ノックスがさらに砂粒縛を使用していたその時、ついにヒロキの体が自動で回復しなくなった。
「……ようやく『転嫁』先が無くなったか。」
「……テメェ……!!……いくらなんでも……奴隷を殺して悪ぃとか……思わねぇのかよ……!!」
「貴様が死ねば、これ以上の犠牲はなくなる。」
ノックスは地を蹴り抜刀し、一瞬にしてヒロキの首を斬り飛ばしてしまった。
ゴロリとヒロキの首が大地へと転げ落ちたが、その表情はどこかニヤついた表情を浮かべていた。
心臓から送られる血液が無くなり、ヒロキの首から生気が抜けてゆく。
そしてついに、ヒロキは完全に死亡した……かに見えた。
「……!!!!」
死亡したと思われた瞬間、ヒロキの体と首が突如消え失せ、ノックスは感知スキルで辺りを探す。
すると、ヒロキは少し離れた所で復活していたのだった。
「……なるほど………タイタンから逃げおおせたのはあの能力か。」
「ふぃ〜!!『保険』ってのは中々にいい能力だなぁ!!危うくセンパイに殺されるところでしたよ。」
「何にせよ状況は変わらん。貴様が何度も蘇るのなら、その度に俺が殺してやる。」
「まあまあ、センパイ。そんなに目くじら立てなさんなって。それに、『保険』の効果はもう使えないんで、死んだらそれで終わりですから。」
そういう割にヒロキは余裕そうな態度を見せていた。
「なら死ね。」
ノックスは猛スピードでヒロキへと斬撃を浴びせたが、ヒロキは避けることもせずにわざと左腕を斬り飛ばされた。
瞬間、ノックスの左腕までもが突如として斬り飛ばされた。
「……!!?」
「驚きましたぁ?ハハハッ!!俺の『転嫁』先、今はセンパイなんですわ。ハハハハハハッ!!」
そう言うとヒロキは手にしていたノックスの頭髪をハラりと見せつけるように大地へと落とす。
先程組み付いた際、巴投げされる折にノックスの頭髪を数本抜き取っていたのだ。
「いやぁ、本当ならこんなのに頼りたくないんですけどね。でもセンパイ、反則級に強いじゃないですか?だもんで、俺のダメージはセンパイに受けてもらいます。
ハハハハハハッ!!地球の時と同じですよねぇ!!」
ヒロキの腕がすぐさま再生されたが、ノックスの腕まで治ることはなかった。
「あん時の横領も、いやー笑っちゃいました!!レイカにアンタのPCに細工させたんですよ。ハハッ!仕事真面目で皆から頼られてたアンタがたったの一日で軽蔑されてんの、ホントに笑えましたよ。ハハハハハハッ!!!!」
ノックスは治癒魔術で自身の腕を再生させた。
「何とか言ったらどうなんです?ねぇ!ねぇ!!」
そう言うとヒロキは自分の足をナイフで突き刺した。
するとノックスの足にも同じく刺し傷が現れ、そこから血が滴る。
「ほらほらァ!!何とか言ったらどうなんですか!!」
ヒロキはそう言いながら自身の体のあちこちを刺し続け、その度にそのダメージがノックスへと『転嫁』された。
「……フン……さっさと心臓でも突き刺せば良かったものを。悪いがそんな程度の刺し傷など、俺は慣れている。」
「……あぁん?」
「そして貴様は大きな間違いを犯している。それは『転嫁』の致命的な欠陥とも言える。」
「……なんだって……?……痛みで頭でもおかしくなったんですか?」
「例えば、こうだ。」
ノックスはそう言うと魔術を練り上げ、自分の右腕を砂粒縛にて斬り飛ばした。
「ぐぁっ!!?」
すると、ヒロキの右腕もが同じように斬り飛ばされたのだ。
「……そうなるか。となると、俺の思っている以上に『転嫁』とはリスキーな能力だな。」
ノックスが想定していた『転嫁』の欠点。
それは、1度腕を斬り飛ばすなど欠損させた部位に関しては、その後同じ箇所にダメージは与えられない、というものだった。
というのも、ヒロキが最初に左腕を斬り飛ばされて以降、自分で左腕を傷付けることが無かったからだ。
欠損させている部位にダメージを与えたところで、無意味に終わるからだろう。
が、実際には違った。
『転嫁』を受けている場合、その者が受けたダメージが術者へと『転嫁』される。
今回の場合で言えば、ヒロキのダメージがノックスへと転嫁されるが、同時にノックスのダメージもヒロキへと転嫁される、というのだ。
ノックスはすぐさま右腕を回復させ、改めてヒロキへと向き直る。
ヒロキは自身の治癒魔術では右腕を回復し切ることは出来ないようであった。
「ほら、今度はお返しだ。」
ノックスはそう言うとナイフを取り出し、左足の太ももへとズブリとナイフを突き刺した。
「……ってぇぇええええ!!!!」
ノックスはさらに突き刺したナイフをグリグリと抉り、ヒロキはあまりの痛みに悶絶した。
「この程度で悲鳴をあげるとは……『悪魔の口』では格好の餌食だな。」
「……こ、この野郎っ……!!」
ヒロキはお返しとばかりに同じく太ももにナイフを突き刺し、同じようにぐりぐりと抉る。
が、ノックスはやや顔を顰めはするものの、大して動じてはいなかった。
「『悪魔の口』では日常的だったもんで、すっかり慣れてしまっていてな。
モンスターに腕を噛みちぎられたり、魔術で焼かれたり。
1度だけだが内臓も食われたこともあった。自分の内臓や骨が噛み砕かれる音を聞くのは、精神的にもかなり苦痛が伴ったな。」
そう言うとノックスは腹をナイフで引き裂き、手を突っ込んで臟を握力で潰してゆく。
「……ぉ……ぉぉっ……………!!!!」
ヒロキはあまりの痛みに声にならず、腹からこぼれ落ちた内臓がぐちゃぐちゃになってゆく様子を見、痛みにより涙を流した。
「貴様のこの銃。これは新しい痛みだった。貴様は耐えることができるかな?」
ノックスはヒロキが投げ捨てたコイルガンを拾い上げ、今度は右の太ももに一発撃ち込んだ。
「ぎゃぁぁああああああああ!!!!!!」
「……おいおい、たかが一発受けただけだろう?」
ノックスはそう言いながら、今度は腹や肩にコイルガンで撃ち抜いていった。
その度にヒロキは悲鳴をあげていたが、やがてその声もか細くなってゆく。
「……さて、そろそろ終わりにしようか。」
ヒロキは『転嫁』により受けたダメージにより、ひゅうひゅうとか細い息をしながらもなんとか意識だけは保っている状態であった。
ノックスは刀を抜き、今度は自分の心臓を貫いたその時。
「……テメェは………しねぇぇええええ!!!!」
ヒロキがそう叫ぶ。
どうやら直前で『転嫁』を解除させたのだ。
「……ハ………ハハハ………自分で自分の心臓を……貫くなんざァ……大間抜けだっ……!!」
「貴様ならそうすると思っていた。」
「…………なっ………!!?」
ノックスが刀を引き抜いたが、傷口はすぐさま塞がっていた。
ノックスは刀に治癒魔術を纏わせていたのだ。
「今度こそ、永遠に死ぬがいい……!!」
「……や……やめ…………た………たすけ…………!!」
一閃。
ノックスが刀で薙ぎ払うと、ヒロキの首が宙に舞い上がる。
そのまま首は大地へと転げ落ち、視界はノックスを捉えた。
涙でほとんど視界が効かないヒロキ。
彼が最期に見た光景は、自身の生首に対して強烈な蹴りを見舞うノックスの姿であった。




