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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第27章 ヘイル・ロズでの戦い
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ザリーナ v.s ロザリオ


「……やっぱり、こうなってしまって残念だよ。ザリーナ女史。」


「……手を引け、ロザリオ。今ならまだ間に合う。」



 ロザリオとザリーナは少し離れたところで対峙していた。



「そういう訳にはいかないんだよ。」


「もう教会の戦争は終わったのだ!それなのに、なぜ貴様はイブリースと戦う!」


「……僕の、最後の矜恃のためさ。」


「……矜恃だと……?」


「単刀直入に言おう。僕は君が欲しい。」


「……何を今更……」


「君は今まで自分が強くなることにしか興味が無かった。だからこそ君は誰よりも強く、誰よりも美しかった。」


「………………」


「そんな君に僕は惚れた。……けど、君が選んだのはノックス陛下だった。」


「……だから………イブリースと最後まで戦う、と?」


「ま、そういう訳さ。ノエル君に負けてからも、僕は僕の弱さに打ちひしがれたものさ。」


「……勝ち目がないと、分かっていてもか?」


「……強さに屈するくらいなら、最後まで足掻くさ……!!」



 ロザリオは剣を抜いて対峙した。


 ザリーナは軽くため息をついたが、すぐさま剣を引き抜いてロザリオへと向き直る。



「……先に断っておくけど、僕と君の戦闘は不利だよ。僕の固有魔法の前には、魔術は通用しない。」


「承知の上だ。」


「………じゃあ………行くぞ……!!」



 ロザリオは地を蹴りザリーナへと突進し、ザリーナも同じくロザリオへと突進する。


 ガチィィンと剣がかち合い、火花を散らした。


 すぐさま互いに距離を取り、激しい攻防が織り成された。



 時折ロザリオの剣からは纏わせていた火や雷魔術が顕現し、ザリーナへと襲いかかる。


 ザリーナはそれらを的確に魔術で相殺させつつ、反撃にも撃って出る。


 両者の間には凄まじい剣戟と魔術が飛び交っていた。



 拮抗していたかに見えた両者の戦いだった。



「……なぜだい……?」


「………?」



 突如ロザリオが尋ねた。



「……君の実力はこんなもんじゃないはずだ。まさか、僕に遠慮してるんじゃないだろうね?」


「………………」



 ザリーナは否定も肯定もしなかった。



「………そんなんで………」



 ロザリオはさらに力を込めて剣戟を見舞う。



「……そんなことで……僕に勝てるとでも思っているのか!!」



 ロザリオから激しい攻撃がいくつも繰り出されていたが、ザリーナはそれらを的確に対処し、傷1つ負うことは無かった。


 だが、それでもロザリオはお構い無しに攻撃を続けた。



「君だって1番嫌いなはずだ!!どんな戦いであれ、手を抜かれることなど!!」



 ロザリオは怒りからか、剣戟も魔術もやや大振りになっていた。



「僕を止めに来たんだろう!!それなら僕を殺せばいいだろう!!……それでしか……」



 ロザリオの攻撃は尚も無意味に終わる。



「……それでしか、僕は止まらない……!!

 ……止まることが出来ないんだ……!!」


「……ロザリオ……」



 ロザリオは一旦攻撃の手を止め、肩で息をする。



「……なんだい………今更……この僕に同情でもしているのかい?」


「………ロザリオ………貴様が戦う理由は無いはずだ。もうお前を縛るものなど何も……!!」


「……自由だからって……赦されるとでも……?

 ………ハハハ…………」



「僕はずっと教会を信じてきた。教会がどれだけ非道な事をしてきたとしても、それで救われた人も多かったはずだ。」



「……僕はね……あの戦いで死ぬはずだった………にも関わらず、こうして生かされた。」



「……おまけにずっと想いを寄せてた君は、今じゃあイブリースの王妃……」



「………僕は………」



「…………僕は…………」



「………信じてきたもの全てが………僕の元から消えてゆく……」


「……ロザリオ……!!」


「……僕は疫病神さ………教会も……君も…………家族も…………みんなみんな僕の前から消えて行った……」


「……失ったものばかり見るのはよせ……!!」


「………もう終わりにしよう………終わりにしてくれ………

 ………ザリーーナァァァァァアア!!!!」



 ロザリオは地を蹴りザリーナへと突撃する。


 剣に纏わせた魔術が漏れ出し、刀身が陽炎の如く揺らめいている。


 ロザリオの剣戟を躱したものの、とてつもない火力の火魔術が遅れて顕現した。



「……くっ……!!」



 ザリーナは氷魔術にて相殺を図るが、その魔術はすぐさま消え失せた。


 ロザリオが『吸収』を使用したのだ。



 ロザリオは左手でナイフを握りしめ、何やら魔術を纏わせた。


 そしてそのナイフをザリーナの足元へ向けて投擲し、地面に突き刺さる。


 途端にバチバチッと音を立て、蜘蛛の巣のように大地に雷が張った。



 その雷にザリーナが捕まり痺れる。



 その瞬間を逃すまいとロザリオが猛スピードで駆け寄り、渾身の力でザリーナへと剣戟を見舞った。



 ロザリオの剣戟をモロに受けたザリーナは、さらに傷口から火魔術により焼かれ、それは全身を包んだ。



「……ハ………ハハハ…………勝った…………?…………僕が…………?」



 全身が炎に包まれたザリーナが、力無くドサッと大地に倒れ込んだ。



「………勝ったのか…………僕が…………ぼ……く……は……………な……なんて……ことを……………」



 自らザリーナを手にかけてしまったことに、ロザリオは膝から崩れ落ち、握りしめていた剣を落とした。



「……寝言は寝て言え……!!」



 その時、どこからかザリーナの声が聞こえ、ハッとしてロザリオが周囲を確認する。



「私はここだ!!」



 ロザリオが見上げると、ザリーナが自分に向かって落下してくるのが見て取れる。


 だが、ロザリオが反応する暇もなく、ザリーナの剣はロザリオの腹へと深々と突き刺さった。



「……な………ど、どうして………!!?」


「……悪いな。今のは私の固有魔法、『幻惑』。お前がさっき斬ったのは、幻だ。」


「……こ……固有……魔法…………ハハハ………つまりは……僕は君を殺してはいなかった…って言うことか………」


「……もう終わりだ、ロザリオ。これ以上戦ったとて、虚しいだけだ。

 お前が勝っても負けても。」


「…………………」



 ザリーナが立ち上がり、剣を引き抜いた。


 ロザリオの腹にあるはずの刺し傷はすぐさま塞がっており、ロザリオは驚いた。



「……なっ………!?」


「私の剣には、回復魔術を纏わせてあったのだ。固い頭を持つ者にはよく効く。」


「……どうして………?」


「私はお前に死んで欲しくはないからだ。」


「………僕は……君を殺そうと………」


「それがどうした。」


「………………」



 ザリーナに敗北したロザリオは、そのまま仰向けに倒れながら目を閉じた。



「……僕は………ずっと悩んでいたんだ………僕が信じたものは、全て僕の手から消え失せる。」


「………………」


「……どうしようも無かった………最期は騎士らしく、戦いの中で死にたかった………

 …………それなのに、君はそれを許してはくれない。」


「………………」


「……君を殺したと思った時は………嬉しさよりも喪失感しか感じなかった………ハハハ…………つくづく情けない男だよ………」


「……人が背負えるものなど、たかが知れている。悪政を辿る教会の中でも、お前は常に自分の中の正義を貫いてきた。」


「…………かもね…………」


「常に強くあろう、常に正しくあろうというのはどだい無理な事。私とて、過ちは犯す。

 が、それを正してくれる者がいる。私の場合は、それがノックスだった。」


「………………」


「…大事なのは、折れた心をどう立ち直らせるかだ。私もお前も、他人に悩みを打ち明ける事が出来んだろう。」


「………………」


「失う事を恐れ、失った時は自分の責任だと感じる。

 だが、それが本当に『責任の果たし方』か?常に孤独であり続け、本当に大切なものを自ら放棄することが、『責任の果たし方』と言えるか?」


「………………………」


「1人では出来ない事もある。私もお前も、ノックスでさえも。

 人は1人では生きられん。

 どれだけ強がっていても、どれだけ正しくあろうとも、心のどこかで寂しさを感じる。」


「………君も……そうだったって事かい……?」


「……恥ずかしながらな。」


「……その時に君には、ノックス陛下がいた、と……」


「私に生まれて初めての挫折を味わせてくれたのもノックスだがな。」


「…………………」


「ロザリオ。お前もイブリースへ来い。」


「………敵であるこの僕を………?……それに、イブリースが僕なんかを求めるとは到底思えないよ………」


「イブリースが求めずとも、お前が求めるものが、イブリースにはあるだろう。

 そこで己の正義を改めて見つめ直し、何が本当の正義かを見極めろ。」


「…………本当の………正義……か…………

 ……でも、本当にいいのかい……?僕がノックス陛下を襲うことだって……」


「もしそうなら、今度こそ私の手で葬ってやる。」


「……ハハハ…………そうか………」



 ロザリオは暫く黙ったかと思うとスっと体を起こした。



「………あんな思いは………もう十分だ。

 ………ありがとう……ザリーナ女史……いや、ザリーナ王妃。」



 ロザリオは憑き物が落ちたような、少しスッキリとした表情でザリーナへと握手を求めた。



「礼には及ばん。」



 ザリーナもそれに応え、ロザリオと硬く握手を交わした。

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