ノックスv.sヒロキ
「せんぱ〜い、久しぶりですねぇ〜。お元気そうで何よりでーす。」
「……ヒロキ……今度はレイカと一緒じゃ無いんだな。」
「……はっ……あ〜んな尻軽、こっちから願い下げっすわ。」
「……戦う気が無いのなら殺しはしないが、それでも俺たちとやるのか?」
「………はははははっ!!なんすかそれ!!面白い冗談です!?はははははっ!!」
「お久しぶりだね。ザリーナ女史。リッチの討伐以来だね。」
「……ロザリオ……貴様は何故こんなところに……!」
「それは僕のセリフさ。見たところ、キミ1人がノックス陛下らと一緒に行動してるってことは……やっぱりそういうことか……」
「……私はノックスの妻になることを選んだ。そして今日、お前を止めに来たのだ…!」
「それは嬉しいような悲しいような……けど、僕だってこのまま引き下がる訳にはいかないよ。」
「………余計な……お喋りなど……不要だ………」
ハデスが口を開いたかと思いきや、猛スピードでノックスに向かって斬りかかった。
が、ノエルがノックスの前に躍り出て、その剣戟を双剣で受け止めた。
「……貴様の相手は俺だ!!」
「キャハハハハ!!いいじゃーんいいじゃーーん!!さっさとぶっ殺しちゃおーよー!!」
「……ノエルよ。本来なら妾が今度こそ其奴の息の根を止めてやろうかと思うておったが……まあ良いじゃろう。
そこの小さい女よ。妾が遊んでやろう。」
「……はぁ……?……小さい女って……まさかあたいのこと……?」
「他に誰がおると言うのじゃ。」
「かっちーーーん。言っとくけど、あたいはあん時よりとーっても強くなってんだかんね!覚悟しなさいよオバサン!!」
ザリーナはロザリオと。
ノエルはハデスと。
レヴィアはヨミと。
それぞれが分かれて戦闘が開始された。
「ははっ。み〜んな血気がお盛んななこと。言っときますけど、全員前より遥かに強くなってますよ?」
「それはお互い様だ。もう一度確認するが、引き下がるつもりは無いんだな?」
「ははははっ!!口説いですよセンパイ。
………それに…………」
「………それに………俺はアンタを殺すために、色々と力を付けさせてもらったんですよ……そのセンパイの舐めた口……二度と聞けなくしてやる……!!」
ヒロキはそう言うと魔術を練り上げ、ノックスに向かって火魔術で牽制を行った。
ノックスはひょいとそれを避け、お返しとばかりに火魔術を撃ち返した。
ノックスの見立てではヒロキの持つ固有魔法は『交換』『影操作』『奪う系のなにか』。
が、ゲラートから直前で聞いた『タクトとコウスケとミサはヒロキにより殺された』という話を思い出す。
もしもその際、あの時神父に行ったように、その3人も能力を奪われている可能性は大いに有り得る。
タクト・コウスケ・ミサの能力のうち判明しているのは『超速』『不死系のなにか』『拡大』。
ノックスはそれを確認すべく、火魔術を避けたヒロキへと急接近し、左腕を斬り飛ばした。
「……痛っ………!!」
顔を顰めるヒロキであったが、直後ニヤリと笑うとすぐさま左腕が再生した。
「……報告では……それはタクトの能力のはずだが……」
「……へぇ〜……さっすがセンパイ。ちゃあんと調べてるんすね。」
「…………ということは、やはりお前が奪った、というわけか。」
「あんな腰抜け共に腐らせるよかよっぽどいいっしょ。」
「……腰抜け『共』か。となると、ゲラートの言っていたことは確かのようだな。」
「…あの裏切り野郎……つまんねぇこと抜かしたようだなぁ。ま、いいけど。」
「と言っても、さすがにアズラエルのように無限に再生できる訳でもないだろう。
『砂粒縛・瀑』!!」
ノックスはそう言うとヒロキの体を内側から斬り裂く。
血飛沫が舞い散るが、ヒロキの体はすぐさま元に戻る。
ノックスは復元されたヒロキに反撃する暇を与えないよう、絶え間なく砂粒縛により切り裂き続けた。
「……良いんですかぁ……センパ〜〜イ………」
斬られ続けながら、ヒロキが何やら申し出た。
「今センパイが斬ってんの、奴隷の体ですよぉ?」
「……何……?」
「これ、タクトの能力で『転嫁』ってやつなんですけどねえ、自分のダメージを第三者に押し付ける能力なんですよねぇ。
だから、今斬ってんのはなぁんの罪も無い奴隷の体って訳ですわ。
センパイ、知らない他人だからってヒトゴロシは良くないですよ?」
「……………」
「あれ?あはは!攻撃止めちゃうんです?もしかして自責の念にでも駆られましたぁ?」
ヒロキはそう言うとノックスへ向けて攻撃を再開した。
「そりゃあセンパイだって心が痛みますよねぇ!!今俺を斬っても、それは何の罪もない奴隷の体を斬り刻むのと同じですからねぇ!!はははははっ!!」
ヒロキから断続的に魔術が放たれる。
そのどれもが殺人級の威力であるが、攻撃の手が止むことは無かった。
「ほらほらァ!!そんな逃げの一辺倒で、俺の油断でも誘うつもりですかぁ!?」
「……相変わらずうるさい奴だ……!」
ノックスから微量の魔力が解き放たれたかと思うと、ヒロキは突然胸を抑えて苦しみだした。
「………ぐっ………!!………な……なっ………!!?」
ノックスが行ったのは『砂粒縛・絶』。
心臓にのみ致命的なダメージを追わせる、必殺の術である。
「そのダメージが奴隷に肩代わりさせるからといって、俺が攻撃の手を緩めると思っていたとは随分舐められたものだな。」
「……ぐっ……は………ははは………ははははは!!やーっぱセンパイはセンパイだ!!いやぁ、安心しましたよ。無抵抗な俺らを殺そうとしたクズが、今や国王だなんだって慕われて持ち上げられるより、今のほうがずうっとセンパイらしいですよ!!」
『転嫁』によりダメージが回復したヒロキから再度攻撃が再開される。
そのどれもが殺人級の威力であることにノックスは違和感を覚えた。
「ほらほらァ!!何度でもやってみろよってんだ!!」
―おかしい。
復讐で頭に血が上っているにせよ、ここまで無駄に威力の高い魔術を打ち続けて魔力が持つはずはない。
それに………このヒロキはわざとそうしているようにも見える―
ノックスはそう考えながらも、砂粒縛にてヒロキの体を斬り刻む。
しかしヒロキは尚も攻撃の手を休めることは無かった。
しかしその時。
突如ドォンという音が鳴り響いたかと思うと、何かがノックスの脇腹を掠めていった。
「!!!!」
掠めた何かにより脇腹から血が伝っているが、それ以上に焼け付くような痛みにノックスは思わず膝を着いた。
「あばよ、この間抜け!!」
待ってましたと言わんばかりにヒロキがカバンからコイルガンを取り出し、ノックスへ向けて射出した。