創造
リョウヤが話していた通り、必要な材料もあれば2~3日もすればコイルガンが完成した。
さらには『ホロウライト』からフッ化水素酸、通称『フッ酸』の製作も完了していた。
それだけでなく、現在は生物兵器の元となる『ディオリウム』というカビを培養させていた。
「……それで、このコイルガンはどう使うのだ?」
「持ち手部分にある受容体に、雷魔術を一瞬だけ流してもらえば、中の弾丸が飛び出します。」
「……ほう……どれ………」
デュバルはコイルガンを構え、的に照準を絞る。
そうして、言われた通り雷魔術を一瞬だけ受容体へ向けて放った。
すると、銃弾が射出され、見事に的へと命中した。
「……ほう………これは面白い……!」
「へぇぇ……そのコイルガン、中々面白い仕上がりじゃん。」
コイルガンのお披露目を行っていた時、その様子を見ていたヒロキがその出来に満足気のようであった。
「これ、もっと高威力にできんの?」
「コイルの巻き数を増やせばもっと高威力になりますね。あとは、流す雷魔術の強さにもよりますけど。」
「へぇ……にしても、地球の銃よりちょっと大型だな……」
「そんなことよりヒロキ。コウスケとミサの行方は?」
あの一件以降、コウスケとミサは逃走を図り、たまたまそれを目撃したヒロキが2人を捕まえようとしたが、あえなく逃亡を許してしまった。という事になっていた。
すでに2人がヒロキらにより殺された事を知らないデュバルらであったが、その話をそのまま信じ込むほど間抜けでも無かった。
2人は既に、ヒロキにより殺されたのだと、そこにいた誰もがそう確信していた。
「いやぁ、見つかんないですねぇ。もしかすると、もう海を渡ってストール大陸にでも逃げたっぽいです。」
何を白々しい、とデュバルは憤るも、ヒロキを敵に回しては自分に勝ち目が無いことは元より承知していた。
2人はヒロキにより殺された可能性が高いにも関わらず、リョウヤは相変わらず研究に没頭していた。
「ただよぉ?こんなの魔障壁で防がれたら意味無くね?先輩のレベル、クッソ高ぇんだぜ?」
「……それについては問題ありません。」
「何がだ?」
「魔障壁といえど、それは魔術の1つです。コイルガンを発動させる際、ミサさんやロザリオさんが持ってる『吸収』を発動できるよう銃本体に仕込むつもりです。」
「へぇ。って事は、魔障壁で防ごうとすりゃ、忽ち吸収されて無くなるわけか。」
ヒロキは改めてリョウヤの頭脳について感心していた。
「……ってかよ、リョウヤのもう一個の固有魔法、『創造』だっけか?
あれがありゃあ、核ミサイルを作るとか簡単に出来ちまうんじゃねぇの?」
「……そんな万能な能力ではありませんよ。」
リョウヤは自身の固有魔法『創造』についてヒロキに説明した。
『創造』といえども、それは無から有を作り出すことは出来ない。
材料が揃って、初めて『創造』により物が完成する。
ただし、化学変化を伴うもの。
例えば、酸素と水素を化学反応させると水になる、という具合のものに関しては、当然ながら化学式を初めとした知識があってこそ成立する。
リョウヤは地球の化学式についてある程度知識はあるが、こちらの世界では地球には無い物質も数多い。
つまりは、こちらの世界にしか存在しない物質を化学変化させるのは、現段階では不可能、ということになる。
「……なんだか難しそうな能力だな……」
リョウヤの説明を一通り聞いたヒロキは、『創造』という固有魔法の扱いは自分にはサッパリ、といった具合であった。
「…まぁ、理化学や物理学の基礎知識が無ければ難しいかもしれませんね。なので、僕からこの能力を奪ったとて、何もいい事はありませんよ。」
「……ははっ。誰も奪うなんて言ってねぇだろ?」
「……そうですか。」
リョウヤはそれっきり作業を再開し、ヒロキはリョウヤに聞こえるか聞こえないか程度の舌打ちをして何処かへと去って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は戻り、ノックスらはヘイル・ロズへと向けてイブリース王国を出発していた。
オーウェンが購入したのは小型の飛空艇ではあるものの、たくさんの荷物を運べるように馬力は高い。
それに伴い魔力も相応に必要となるため、オーウェンは魔道士を3人新たに雇ったりもしていたが、今まで陸路や海路という手段を取り、運搬に時間がかかっていた事を考えれば安いものだという。
船内はすでにオーウェンの趣向があちこちに施されていた。
「……ふむ………やはりネブラ産の紅茶は格別だな。」
「そうですやろぉ!ワイも各地でいろんな紅茶を飲みよるんですけど、やっぱネブラの紅茶は甘みと渋みのバランスが絶妙で一番やと思うてるんですわ!」
「人間は妙じゃのう。その紅茶とやら、妾には苦すぎて飲めたものではないぞ。」
「レヴィアはんは苦手なんですかぁ……そら残念ですなぁ。」
「……それで、ノックス様。少々質問をよろしいでしょうか?」
紅茶を嗜んでいた所へ、ノエルが改まる。
「ヘイル・ロズにて居るであろう残党。特にヒロキ・レイカ・コウスケ・ミサ・タクト・リョウヤについてですが、彼らの第2の固有魔法。ノックス様はどのように推察されておられるので?」
「……ふむ………」
ノックスはまず直接戦ったことのあるヒロキとレイカの固有魔法について考えた。
まず間違いなく保有しているのは『吸収』と『交換』、そして『影操作』である。
このうち、『吸収』についてはレイカが保有している魔法に違いない。
そして、ヒロキが保有しているのは『影操作』に違いない。
問題は、『交換』をどちらが保有しているのか、だ。
ただ、ノックスはそれ以上に妙な違和感を覚えているのも確かである。
ヒロキはノックスと戦闘する直前、そこに居合わせた神父の胸元を手刀で抉り、何かを掴んだような仕草をしていた。
ノックスは紙に黄泉がえり組の連中も含め、考えうる能力を書き出した。
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ヒロキ 『影操作』
レイカ 『吸収』
リョウヤ 『鑑定』『錬金系の能力』
コウスケ 『拡大』
タクト 『超速』『不死系の能力』
ミサ
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「…レヴィア、こんな感じだったか?」
書き出したそれぞれの能力についてレヴィアに確認する。
「……うむ………」
「となると、タイタンがデュバル含め5人を殺したはずが、その死体が無くなっていたというのは、ミサかコウスケのどちらかの能力だろう。
おそらくだが、ミサのもう1つの能力については戦闘向きではない可能性が高い。」
「……ノックス様は、ヒロキとレイカ、その2人のうちどちらが『交換』をお持ちだとお考えで?」
「……おそらく、ヒロキが保有している可能性が高い。奴は『交換』を行う直前、レイカを切ろうとして『交換』させた。」
「……ですが、ノックス様はヒロキの能力はその2つだけでは無いと……?」
「奴が神父を殺した際、『あまり使えない。やはり俺から頂いたほうがいい』という主旨の発言をしている。
そこから考えうることは、奴の能力は他人の固有魔法を奪える能力、と推察される。
ヒロキが使用した『影操作』及び『交換』。これらのうちどちらか、もしくは両方は他人から奪った能力だろう。」
そう言い、ノックスは先程の一覧表に書き足した。
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ヒロキ 『影操作』『交換』『奪う系の能力』
レイカ 『吸収』
リョウヤ 『鑑定』『錬金系の能力』
コウスケ 『拡大』
タクト 『超速』『不死系の能力』
ミサ 『戦闘向きではない能力』
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「どれもこれも厄介そうじゃのう。」
一覧表をまじまじと見つめていた誰もがそう思った。
「……とはいえ、固有魔法には弱点がある。」
ノックスは固有魔法の弱点について解説した。
1つは魔力を消費して行えるものである、ということ。
使用するMPの量が通常の魔術よりも大きくなる。
特に、使用者に多大な恩恵を与えるような固有魔法は、それだけMPの消費量も大きくなる。
2つ目は、アズラエルを倒した時と同様に、固有魔法の付与術を掛けると、死亡する、ということ。
逆に、ヒロキによって行われたように、自分の固有魔法を抜き取られても死亡してしまう。
「つまりは、妾も扱える付与術で残党を始末できるというわけじゃな。」
「あぁ。それはアズラエルの時で実証済みだ。」
「逆を言えば、我々もそれに気をつけねばならない、という事ですね。」
「相手がその方法を知っているかによるが。それに、付与術は発動に時間もかかる。よほど突っ立ったままでない限り、掛かるとは思わん。」
「……ノックス……残党は全員、皆殺しにするのか…?」
ザリーナは神妙な面持ちでノックスに聞いた。
「基本的に全員の身柄を取り押さえる。戦意の無い奴らに関しては、極力不殺でいく。」
「………分かった。」
「みなさーん!!そろそろヘイル・ロズ近海ですぅ!準備はええですかぁ!!?」
オーウェンが皆に呼びかけ、一同は気を引き締め、ヘイル・ロズへと入港していった。




