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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第26章 残党の行く末
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来訪者

 その後、イブリースとヘイル・ロズとの間に取引が行われた。



 イブリースからはカップ麺とキュア、それと、飛空艇の技術提供。ヘイル・ロズからは魔鉄の精錬、及び、鍛造方法。さらに、ソーサリーマントなどの技術提供である。



 両者の取引を仲介してくれたのは、オーウェン商会であった。



「まさかあのヘイル・ロズと取引されるようになるとは、さすがはノックス陛下ですなあ!!

 これほどの一大取引、このオーウェンに任せてくれたこと、大いに感謝申し上げますぅ!!」



 とオーウェンは快く受け持ってくれた。



 ヘイル・ロズから提供された魔鉄の加工技術については画期的な方法であった。


 自然界に存在する魔鉄は鉄が長年魔素に曝され続けることにより変質する。


 それ以外の製法では、高火力の火魔術により鉄を溶かして精錬する。



 ヘイル・ロズでは、まずは炉が通常の炉とは異なる。



 鉄の融点はおよそ1500度。


 鍛造するならば1200度ほどであれば可能である。



 通常、この世界で使われる炉では、加工ならまだしも、鉄を溶かしうる温度まで上げることは至難の業である。


 ヘイル・ロズでは、通常使用される炭の炉ではなく、炉の上部に黒鉛で作られた電極を配置する。


 そこから融解させる鉄との間に放電させる。


 電気抵抗による発熱を利用するのだ。



 ただし、この場合に使用される電力は相当なものであるため、自然の力を利用する。



 それは、このイブリースでも使用されている水力発電だ。



 ヘイル・ロズもイブリースと同様にダムを建設しており、そこから膨大な電力を引き込むことができている。



 この電気炉により、鉄を簡単に融解させる。



 そして、そこへ今度は魔石を溶かし入れる。



 ゆっくりと攪拌させ、鉄全体に魔石が持つ魔力を馴染ませると魔鉄となるのである。



 あとは出来上がった魔鉄を鍛造するのだが、これにも小型の電気炉を使う。



 魔鉄の鍛造ともなれば通常、大量に炭を投げ入れ、ふいごで目一杯酸素を送り込む。


 そうしてようやく魔鉄が柔らかくなったところで、素早く職人がハンマーで叩く必要があった。



 しかし、この電気炉は、最初の工程について全て省略してしまう。


 汗水流し、入れ代わり立ち代わりふいごで酸素を送り続ける必要が無いほど電気炉の火力は凄まじく、魔鉄の加工を容易にさせたのだ。



 それどころか、この電気炉は魔鉄の鋳造すら可能にさせたのだ。



 この世界からすれば、まさに未来の技術である。



「……これを300年も昔に考えついたゼニオスという御仁は………天才だのう……!!」



 とモロゾフは感嘆していた。



 早速この電気炉をイブリースでも取り入れることとなり、職人らが総掛かりで手掛けた。


 電力源はすでにダムが作られ、余剰電力を溜め込むほどにまでなっていたので電力問題についてはすぐに解消できた。


 何度かの試作型の電気炉を作り出し、ようやくこのイブリースでも電気炉が完成した。




 もう1つのソーサリーマントであるが、こちらはすぐに作成することは叶わなかった。



 なぜなら、素材作りそのものから見直しが必要であったからだ。



 この世界の布は、モンスターの毛皮を使う以外では、糸を織って布にする。



 ソーサリーマントもそこは同じなのだが、糸そのものの作り方がまず違うのだ。



 ソーサリーマントに使われる糸は、『グロブルス』という名の蛾の幼虫が作り出す繭から紡いだ糸を使用する。


 その際、エサとして色々な効果を予め付与させた魔石を細かく砕き、それをエサとして混ぜて与えるのだ。


 それにより紡ぎ出される糸に効果が乗り、それを織ってソーサリーマントとなるようであった。




 これらの技術を確認したノックスは、ゼニオスに対してある意味確信を持った。



 『このゼニオスもまた、異世界からの転生者だろう』


 と。



 ソーサリーマントはまだしも、電気炉についてのほうだ。


 魔鉄ともなれば、火魔術を極めるか、自然界にあるものをそのまま使用する。


 このゼニオスは、魔術の素養を磨くのではなく、科学の知識で魔鉄を作り出している。



 特に、物を加熱させるのに電気抵抗が発する熱を利用するなど、この世界に生きている人間が、果たして考えつくだろうか?


 そして、それを炉に応用するなど。




 一方のヘイル・ロズでは、イブリースから提供されたカップ麺やキュア、飛空艇の技術について舌を巻いていた。



 特に、飛空艇に使用されている『軸受け』の部分である。



 高速で回転運動をするプロペラと、それを支える支柱との間には摩擦が生じる。


 それにより加熱し、変形し、騒音や故障の原因にも繋がる。



 ノックスは、この軸受けにはベアリングを用いていた。


 ベアリングによる摩擦軽減により、発熱や騒音を防いでいたのだ。



 このベアリングに、ヘイル・ロズの技術者らは感銘を受けていた。




 ヘイル・ロズ国内でもカップ麺の存在が知れ渡ると、一大ブームを巻き起こした。



 その後もノックスはセオドア皇帝と書簡でやり取りをしていたが、その際に海鮮のカップ麺の美味しい食べ方についても書いて送っていた。



 半信半疑でセオドアが試してみたところ、ただでさえ上手いカップ麺がさらに美味しく進化したことに感動すら覚えていた。



 幾度かの書簡でのやり取りを経て、ノックスがセオドア皇帝に対して感じたのは、聡明で先見の明があるというだけでなく、新たな知識には素直に受け入れ、その改善点や活用法についてなど、多角的な視点を持っている男だと感じた。


 言うなれば、カリスマ性とでも言うべきか。



 そして、先代の皇帝とは少し違うようであり、ヘイル・ロズを開国し、他の国々との交易も考えているようではあった。


 しかしながら、それをよく思わない者がいることもあるようである。




 ヘイル・ロズとの取引が開始されてから3ヶ月が経った頃、事態が大きく動いた。




 いつものように、オーウェン商会がヘイル・ロズからイブリースへと戻ってきた時のこと。



「ノ、ノックスさん!ちょ、ちょいとええですか……?」



 オーウェンがノックスの元へと訪れ、なにかのっぴきならない事情でもあるかのようである。



「オーウェン殿、どうしたんだ?」


「そ、それがですねぇ……なんとも大変な事になってまして……大急ぎでイブリースへとやって来た次第なんですわ……」



 そう言うオーウェンの背後には、フード付きの外套を目深に被り、何者か判別出来ない者が立っていた。


 その者が近くに人が居ないことを確認すると、フードを外して顔を見せた。



「……ノックス陛下、このような形で顔を合わせることになってしまい、申し訳ありません。私はヘイル・ロズ第1区統括、ブラックウッドと申します……」


「………なに………?」


「失礼は重々承知しております。……ですが……私としても緊急を要する事でありまして……」


「ノックスさん、安心してください。この方は紛れもなくブラックウッド公爵その人ですわ。」


「……その様子だと、人に知られたくないようだな。少し待ってくれ。」



 ノックスは2人を執務室へと案内し、ノエルに部屋に誰も入らせないよう命じた。



「……ノックス陛下。ご配慮、誠に感謝申し上げます。」


「構わん。それより、事情をお聞かせいただいても?」



 ブラックウッドは外套を脱ぐと、壮年にはあまり似つかわしくないガッシリとした体格が顕になった。



「ノックス陛下に、至急お知らせしなければならないと皇帝陛下がご判断下されたのです。」


「……ほう……?」


「先日、ノックス陛下より頂いた書簡に、12使徒、及び、その部下の残党の所在についてローシュ殿にお越しいただきました。

 端的に申し上げます。

 ヘイル・ロズのとある管区にて、その残党らが密かに匿われているのが判明致しました。」


「……何……?」


「その区の統括は、その事実を知っておきながら、皇帝陛下に虚偽の報告をしていたようです。」

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