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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第26章 残党の行く末
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発明王ゼニオス

 デクスター大臣の案内により、ローシュたち3人はヘイル・ロズ国内を簡単に紹介された。



 最初こそ気を張っていた3人だったが、街並みは至って普通であり、住人らもごく普通に生活を送っているようにも見受けられた。


 建築物については、こちらの国でも基本はレンガ造りの建物が多く立ち並んではいるものの、直線的な道路があまり無いようにも感じられた。


 わざと入り組んだ道路にすることで、万が一敵兵が攻めて来た時でも城に攻め込む時間を稼ぐのが目的であろう。



 ローシュとリドルを見た住人は、魔族の2人に物珍しさからか、かなり注目を浴びていた。



「……それにしても、ヘイル・ロズ帝国の城下町、かなり活気づいておられるようですな。」



 ローシュが案内役のデクスターに話しかけた。



「いえいえ。いつものことでございます。」


「…デクスター大臣。この国での特産品などはなにかありますでしょうか?

 イブリースに帰国する際、何かしらお土産を買いたいのですが。」


「……そうですねぇ……ここヘイル・ロズの特産品といえば、トウモロコシを使った物でしょう。特に、バーボンというウィスキーは人気が高うございます。」


「……ほう……それは気になりますな。」


「食以外でしたら、魔鉄製品なども多く取り揃えております。」


「……魔鉄を……?」


「左様です。詳しい技術に関しては申し上げる訳にはいきませんが、我が国では、魔鉄を加工する技術に富んでおります。」


「……なるほど……デクスター大臣、ありがとうございます。」


「……さて、到着致しました。すでに話は通しておりますので、御三方はこちらの宿にてご緩りとお寛ぎください。」



 案内されたのはヘイル・ロズでの一際大きい宿であり、宿の支配人と思しき男が店の前で挨拶をしていた。



「ようこそ。この度は、我が『リンドバーグ・ホテル』をお選び頂き、誠にありがとうございます。

 私は当ホテルの支配人、アルベルト・リンドバーグと申します。」


「アルベルト殿、こちらの御三方はイブリース王国より遥々とお越しくださいました。」


「これはこれは、デクスター大臣。それに、なんと、最近噂によく聞くイブリース王国から遥々と!

 では、存分に心ゆくまでお寛ぎ頂きますよう、我々も精一杯のおもてなしをさせていただきましょう。」


「よろしく頼みます。……では、ローシュ殿、それにリドル殿にホーク殿。私はこれにて失礼致します。」


「ありがとうございます、デクスター大臣。」



 デクスターと別れた3人はそのままホテルの中へと案内される。


 3階建てのホテルの最上階へと案内され、部屋に入ると豪華なシャンデリアやステンドグラス、細部にまで豪華な装飾が施されており、3人は思わず息を飲んだほどであった。



「御三方にはコチラ、当ホテルの特別室にてお寛ぎください。」


「……これほど豪華な部屋とは……」


「ありがとうございます。では、何かありましたら、何なりとお申し付けください。」



 アルベルトが退室したのを確認すると、リドルもホークもそれまでの緊張から解き放たれ、ソファにドサッと腰を落とした。



「……はぁぁ………疲れた。」


「リドル。お前は特に何も話しておらんだろう。」


「…い、いやぁ…まあ、そうだけど。」


「……にしても、こんなに豪華なホテルに案内されるなんて、こりゃあ役得だなあ。」


「まだ気を緩めるには早いぞホークよ。」


「んん、そりゃあ分かってはいますけどねぇ。」


「……ローシュは、セオドア皇帝をどう見る?」


「……ふぅむ………今日話した限りでは、まだ何とも言えぬ。だが、若そうに見えてかなり頭が切れるお方のようにも感じられたな。」


「…セオドア皇帝も、コチラの意図に早くに気づいてましたからね。それに『匿うにしても無意味ではないか?』って質問も……」


「……おそらくは、ワシらから残党らの脅威をある程度聞き出そうとしていたのだろうが……」



 ローシュは自身の考えをまとめあげ、リドルらに説明した。




 1つ、単純にリョウヤらの脅威を知らないだけ。


 これならば先の質問の意図も単純である。

 大した脅威もない人間を仮に匿っていたとしても、イブリースにとってすぐにどうこうなるわけでもない、と。



 2つ、リョウヤらの脅威を知りつつも惚けている。


 こちらが問題のほうである。

 リョウヤらの能力を知りつつ匿うということ。


 軍事国家ヘイル・ロズならば、リョウヤらの持つ知識や能力を高く買う。



 現在、ヘイル・ロズ帝国にとって一番の脅威となるのはおそらくはイブリース王国であろう。



 先に相互不可侵条約を締結させておき、自国ではリョウヤらの知識や能力を使って核兵器を作り、量産する。



 ……が、それはあくまでもイブリース側に立って考えた場合である。



 ヘイル・ロズ帝国の側に立って考えれば、八龍のうち地龍、火龍、水龍、白龍が存在するイブリース王国はかなり危険な存在でもある。



 その国が、いつ変な気を起こしてヘイル・ロズに攻め入ってくるかが分からない。



 ノックス自身、侵略戦争はするつもりも必要も無いと考えているが、それが仮にセオドア皇帝の耳に入っていたとしても、すぐさまそれを信用する訳にもいかない。



 強すぎる力は、新たな力を呼ぶものだ。



「……と、ここまでがノックス様のお考えだ。」


「……め……めちゃくちゃ考えてるんですね……」


「……となれば、仮にヘイル・ロズがリョウヤらを確保したとしても、素直に身柄を引き渡す訳は無い、と?」


「その可能性は高いだろうのう。」


「……んじゃあ、この先どうするんだ?この国にリョウヤらが居て、匿われ、新兵器の開発を裏でこっそりと行っているのを見過ごせってわけか?」


「だからこその今回の訪問だ。セオドア皇帝がどこまでワシの意図を汲んだのかは定かではないがな。」



 ローシュの意図。



 イブリースは不可侵条約を締結しているヘイル・ロズに攻め入るつもりはなく、むしろ友好な関係を築きたいと願っている。


 しかしながら、イブリースはリョウヤらの知識や能力は大変に危険であり、決して野放しには出来ない存在だと認識している。


 その上で、仮にこのヘイル・ロズ帝国で匿い、新兵器の開発等を行っていると仮定した場合。


 それは、不可侵条約の破棄も検討に入れるかもしれない。



「その楔を打つために、我々はこうしてヘイル・ロズ帝国に来たのだ。」


「……なるほど………」


「…で、でもさ、その新兵器。完成したとしても、必ずしもイブリースに使われると限ってはないのでは?」


「他国に使用したとするなら尚更だろうのう。そういった兵器は、ボタン1つで何万人もの命を容易く奪う。それも、女や子供を巻き添えにな。」


「………確かに、アポカリプスみたいな兵器が蔓延したらと思うと……正直ゾッとする。一瞬で何倍にも体が膨れ上がって爆散するもんだからな……」


「……そういや、リドル。お前の『遠視』で何か見つけたりはしてないのか?」


「……一応、はな。でも、この『遠視』は外から見えるものなら見えるが、建物の中まで見える訳じゃあ無いからなぁ。」


「……だよなぁ。」


「一先ずは、様子見とするぞ。せっかくこうして特別室にて案内されたのだ。見れる範囲で国内を見回りつつ、3日後には帰国とする。」


「「了解です。」」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後、ローシュらはそれぞれヘイル・ロズ帝国内を見て回る。


 とはいえ、自由に歩き回れる訳もなく、案内人として『エディー』という男が3人を案内した。



 軍事国家とも言われていたヘイル・ロズであったものの、国民の暮らしぶりに特に違和感も無く、また、聞くところによると徴兵といったような制度も特に無いようであった。


 言い換えれば、至って普通の国であった。



 ただ少し違うといえば、他の国では見られない服を着用していた。


 それは、マントである。



 首元から足首まである長いマントを、皆が皆着用していたのだ。



「……昨日も少し気になったのですが、皆、マントを着ているようですな。これがこの国の服装として一般的で?」


「いえいえ。あれは『ソーサリーマント』と言いまして、マントの生地の中に様々な魔術効果を齎すのです。」



 ローシュの問いかけにエディーが答える。



「……ほう……」


「俺らの隊服と同じ感じですかね。」


「ほう?あなた方の服も?」


「まあ、こちらのは魔術を流し込むと色が変わるって代物ですけどね。」


「あらゆる戦闘の場面でも、迷彩できるように作られておりますな。」


「……なるほど………ヘイル・ロズでは、主に魔法反射や防火に特化しておりまして。」


「……それはたまげましたな……我らイブリースでも、防御に特化した隊服を作る案があったのですが、如何せんそれを仕込むとなると服が厚くなりすぎてとても着れたものではないと。」


「……それに、確か魔鉄製品も多く取り扱っているとか。」


「はい。ソーサリーマントも、魔鉄の改良技術も、全て1人の偉大なる技術者が齎してくれたのです。」


「……偉大なる技術者……?」


「はい。その方の名は『ゼニオス』様。この国ではその名を知らぬ者はおりません。」


「……ゼニオス殿……か。ぜひともお会いしてみたいものだ。」


「……生憎、それは叶いません。ゼニオス様はすでに300年以上前に亡くなられております故に。」


「………300年………!?」


「そ、そんな昔に作ったって!!?」


「ゼニオス様の持つ技術はどれもこれも革新的であったと伝えられております。彼ほどの天才は、今日まで見たこともありません。」


「……しかしながら、そのゼニオス殿というのは、このヘイル・ロズにだけ名が通っておるのですかな?

 ……失礼ながら、外ではその名は聞いたことすらありませんでしたので。」


「……それも無理はありません。このヘイル・ロズは知っての通り、閉鎖的な国であります。

 特に、ゼニオス様ほどの技術者ともなれば、その技術を巡って無用な争いにも発展しかねないのかと。」


「……強大すぎる力は、新たな力を呼ぶ……ですか。」


「……貴国の兵が装備していたフリッパーも?」


「左様です。今日のヘイル・ロズにある先鋭的なものに関して、そのほとんどはゼニオス様の発明でございます。」



 その後もエディーの案内でこの国の各所を見て回った。



 案内人のエディーはとても博識であり、店に並ぶ品や料理、学校や病院などの施設の場所全て記憶しているようであった。



 生真面目そうな見た目通りの人柄ではあるものの、全てにおいて嫌な顔1つ見せずに真摯に受け答えてくれるエディーに感心しきりであった。




 そして、入国から3日目。



 一通り国内を見て回ったローシュらは帰路に着く。



 見送りのためにわざわざデクスター大臣と第1区統括のブラックウッド公爵まで出向いてくれていた。



「短い間の訪問でしたが、これほどまで丁重にもてなしていただき感謝の言葉もございませぬ。

 どうぞ、セオドア皇帝にもお伝えください。」


「いえいえ。こちらこそ、わざわざイブリース王国から御足労いただきありがとうございます。

 皇帝陛下も、あれからカップ麺の虜になったと申されておりました。」


「ほほう。であれば、行商人に伝え、定期的にカップ麺をお送り致しましょうか?次からはさすがに無料という訳にはいきませぬが。」


「ほ、本当ですか!!?…………ゴホン…………そ、それはきっと陛下もお喜びすると思います。」


「………では、ブラックウッド公爵の分もお送り致しましょう。」


「それは有難い!!いやぁ、お恥ずかしい話、この歳になってあれほど美味い物がまだ世の中にあったなど知りもせずでして。」


「それは私もです。」


「ローシュ殿、リドル殿、ホーク殿。またの訪問をお待ちしております。それから、こちらはノックス陛下にお渡しください。」



 ブラックウッドは部下から書簡を受け取り、それをローシュへと手渡した。



「かしこまりました。」


「では、道中お気をつけて。」


「ブラックウッド殿。わざわざお見送り頂きありがとうございます。それでは。」



 ローシュらが乗り込んだのを見て、飛空艇は出港した。



 岸から離れたところで、飛行形態へと移行し、プロペラの回転と共に浮上し、大空の彼方へと飛び立っていった。

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