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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第26章 残党の行く末
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セオドア・ヘイルストーン17世

 ヘイル・ロズ帝国。



 ストール大陸の南にある離島、ミディール島という、アステル島よりやや大きめの離島にて、このヘイル・ロズ帝国があった。


 サントアルバ教国に次いで歴史のある国ではあるが、今まであまり対外的な国では無かった。


 人族を中心としたこの国は、知る人ぞ知る、軍事帝国でもある。


 今までサントアルバから加盟国の打診が無かった訳ではない。


 しかしながら、今まで教会加盟国とならなかったのは、人族中心の国であるという理由以上に、強大な軍事力を保有していたからであろう。



 現在の皇帝はセオドア・ヘイルストーン17世。


 先代の皇帝が病に倒れ、若くしてその息子であるセオドアが皇帝の座に就いたのだ。



 それにより、旧態依然の閉鎖的国家から、若干対外的な国に変わりつつはあるものの、必要以上に外交をしない国に変わりはなかった。




「皇帝陛下。イブリース王国より使者が参られておりますが、いかが致しましょう?」



 セオドア皇帝のもとへ、兵が報告にあがる。



「……イブリースから……?」


「はい。以前締結した『相互不可侵条約』。その打診をわざわざデクスター大臣に御足労いただいた、そのお礼にと。」


「………いいだろう。通せ。」


「はっ!」



 セオドアは窓辺へと移動し、窓に移る風景を眺めながら少しばかり物思いに耽け、軽く笑みを零した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「お待たせ致しました。ただいま皇帝陛下より入国許可が下りました。

 ……ですが、入国前に、手荷物検査をさせていただきます。悪しからず。」


「それはありがたい。どうぞ、お気の済むまで検査してください。」



 今回、ヘイル・ロズ帝国へとローシュが訪れ、護衛としてリドルとホークを伴っていた。


 近くまで飛空艇にて航行し、その後海へと着水して港へと訪れていた。



 番兵らは飛空艇の技術力の高さに目を丸くしていた。



 ローシュたち3人は早速手荷物検査を受け、その後、城へと案内されることとなった。




「わざわざこのヘイル・ロズにまでお越しいただきありがとうございます。申し遅れました、私ヘイル・ロズ帝国国境警備主任のワイアットと申します。」


「ワシはイブリース王国、国王補佐官のローシュと申します。右は第1部隊隊長のリドルで、左は第2部隊副長のホークです。」


「ローシュ殿、ご丁寧にありがとうございます。しかしながら、イブリース王国の誇る飛空艇の技術には目を見張るものがありますな。」


「そう仰っていただき光栄に存じます。」



 ローシュがワイアットに応対している中、リドルとホークはヘイル・ロズ帝国内を見える範囲で見渡していく。



 海上には国境警備艇が何隻も展開されており、海からの侵入はネズミ1匹とて許さないかのようである。



 国内に至っては、さすがは軍事国家というべきか。


 兵は綺麗に1列に並んで敬礼していた。


 兵装は基本的に皆帯刀していたが、中には見慣れない装備を着用している者もいた。


 透明な布のようなものが、中にある鉄製の芯を覆っているものが見て取れる。


 地球で言うところの、ビニール傘のようなものであった。



「……あれはなんでしょう?」



 リドルらに代わってローシュがワイアットに尋ねた。



「……ん?…あれとは?」


「兵が腰に持っておられる、透明な布のようなものです。差し支えが無ければで宜しいのですが。」


「あぁ、大丈夫です。あれは通称『フリッパー』。有事の際には、あの透明な布を広げ、前方からの攻撃を弾く役割があるのですよ。」


「……ほう………魔障壁とは違い、弾くのですな。」


「魔障壁では、相手の攻撃力が高ければ破られてしまいます。フリッパーは、相手の攻撃を受け止めるのではなく、外へ逃がす役割を持っているのです。」


「……ほほぅ………貴国の技術力も、素晴らしいのですな。」


「ははは。そう言っていただき光栄です。

 ……さ、皇帝陛下がお待ちです。こちらからどうぞ。」



 案内された部屋へ入ると、セオドア皇帝と思しき若い男が真ん中におり、その背後に4人の男女が整列している。


 その中には、以前イブリース王国へ不可侵条約を持ち掛けてきたデクスター大臣の姿もあった。



「ようこそ、我がヘイル・ロズ帝国へ。わざわざ遠いところ、お礼にと御足労いただき、感謝する。

 私がヘイル・ロズ帝国皇帝、セオドア・ヘイルストーン17世だ。」


「皇帝陛下に直接お会い出来るとは光栄でございます。私はイブリース王国国王補佐官のローシュと申します。」


「私はイブリース王国第1部隊隊長のリドルです。」


「同じく、第2部隊副長のホークです。」



 その後、背後にいた4人も自己紹介をした。



 1人はデクスター大臣。国王の秘書という立場であり、ローシュと同じポジションのようである。


 1人は壮年の男、第1区統括のブラックウッド公爵。鎧を身につけていても、その屈強な肉体は歴戦の戦士を窺わせていた。


 1人は中年の男、第3区統括のアシュフォード伯爵。見たところ魔道士のようで、装備自体はブラックウッド公爵より軽装であった。


 最後の1人は若い女、第4区統括のウィンチェスター伯爵。兵装を一切身につけてはおらず、黒のドレスを身にまとっていた。



「急な訪問だったのでな。もう1人、第2区統括にドレイク伯爵がいる。そちらは生憎出払っていてな。」


「構いません。こちらが突然お邪魔させていただいたので、こうして皇帝陛下にお会い出来るだけでも感謝しております。」


「……ふむ。それで、要件を聞こうか。」


「先日、そちらのデクスター大臣がわざわざイブリース王国にまで御足労いただき、相互不可侵条約の提案を持参していただいた、そのお礼を持参して参りました。」


「…ほう……それで、お礼の品とは?」


「コチラです。」



 ローシュはカバンから包みを取り出し、中央のテーブルへと差し出した。


 早速ブラックウッドが中を改めた。



「……これは………?」



 包みからはカップ麺やキュア、醤油や味噌など、イブリース王国にて作られた品々が現れた。



「それは我が国イブリースにて作られた特産品でございます。キュアについてはご存知かもしれませんが。」


「……ふむ………確か、ガンを治す秘薬だと伺っているが。本当に効果がおありで?」


「はい。効能に付きましては私が保証致します。」


「……ほう………他の物は?」


「こちらは醤油と申します。砂糖や塩、酢に並ぶ調味料となるばかりか、生魚に付けて食べる事も出来る代物にございます。

 味噌についても醤油と同じく調味料ですが、熱い湯に溶かして食べるととても美味しいものにございます。」


「……魚を生で……ですか……?」


「……ほほう……どれもこれも聞いたことも無いものだが………最後のこの紙製のコップは?」


「こちらは、カップ麺でございます。」


「……カップ麺……?」


「こちらは、先に紹介した醤油や味噌を使用したラーメンという食べ物にございます。」


「……食べ物……?……カラカラしておりますが?」



 ブラックウッドは信じられない様子で、カップ麺を振って中身の音を確認していた。



「信じられないでしょうが、熱湯を注ぎ入れて、3分で食べられるという驚きの品でございます。」


「「「………は………?」」」


「嘘ではありません。」


「ハハハハハ!!面白いでは無いか!!おい、ブラックウッド。1つここで食ってみるがよい!!」


「……はっ。」



 皇帝の命令により、ブラックウッドがカップ麺の蓋を開け、早速魔術で熱湯を作り、カップの中へと注ぎ入れた。



「……ん………なんか……凄いいい匂いが………」



 作られたのは、味噌ラーメンであった。



 部屋の中に忽ち味噌の良い香りが充満し、部屋にいた者から誰となしにゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。



 そうして3分後。



「……で、では………」



 ブラックウッドが恐る恐る蓋を開けると、熱々の味噌ラーメンが顕になった。



「……こ、これは……!!?」


「………信じられない………!!さっきまで固そうだったのに……!!」


「………ほう………!」


「どうぞ、召し上がってください。」


「……で、では………」



 ブラックウッドが箸で麺を一掴みし、早速麺を啜ってみた。



 刹那。



 ブラックウッドはさらに2口3口と麺を啜り、まさに箸が止まらなかった。



「……お、おい、ブラックウッドよ。どうなのだ?」


「……味は……!?」



 ハッとしたブラックウッドは口元をハンカチで拭い、姿勢を正す。



「………今まで食べた事もないほどに美味でした……!!美味だけでなく、こんな代物が3分で食べられるなど……!!」


「……ふむ………ブラックウッドにそうまで言わしめるとは……私も少し頂こう。」



 続いてセオドア皇帝がカップ麺に手を付けると、皇帝も同じく、箸が止まらずに次々に麺を啜り、中のスープも味わっていた。



「どうでしょう、皇帝陛下?」


「……うむ……ブラックウッドが褒めたのも頷ける……良い手土産を頂いたようだ!」


「お気に召して頂き光栄にございます。」


「このカップ麺、そちらは味が違うのか?」


「先程召し上がられたのは、味噌をベースにしたものでございます。他には醤油や塩、魚介をベースとした物もございます。」


「………ほう………聞くだけで垂涎ものだな……」


「これらが、我が国からの感謝の印でございます。」


「……ふむ………ローシュ殿よ、ノックス陛下に感謝を申し伝えておいてくれ。貴殿の計らい、そして、配慮。誠に感謝する。と。」


「ありがとうございます。」


「しかして、よもや我らの国に寄ったのは、それだけではないだろう?」


「…………」



 ローシュは一瞬考えた後、話し始めた。



「……皇帝陛下のお耳にもすでに入っておりますでしょうが、我らは先日、サントアルバ、及び、その連合との戦争を致しました。

 その際、サントアルバ教国の残党、その居所が不明でございます。」


「……ほう……」


「残党にもう戦おうという意思がなければ良いのですが、だからと言って日和見という訳にもいきませぬ。

 現在、連合各国に兵を派遣させ、目下捜索中ではありますが……」


「……つまりは、このヘイル・ロズに匿ってはいやしまいか、というわけか?」



 セオドアはローシュが言わんとしていることを先に述べた。



「……無論、貴国が我らと不可侵条約を結んでいるのは承知の上にございます。

 ……我らとして脅威となるのは、その者らがこの国で匿われ、我らに再度刃を向けぬか?ということでございます。」


「……だろうな。私がイブリースの王であったのなら、私でもその考えに至っていたであろう。」


「杞憂であれば良いのです。我らは、決してヘイル・ロズとの戦争など望んではおりません。」


「それだけの力、技術を有していながら、無用な侵略は犯さぬ、というわけか。」


「それは、ノックス陛下が一番してはならぬ事だと申しております。」


「ふむ。でなければ、こうしてローシュ殿が手土産を持ってくるよりも前に、大艦隊をもって取り囲んでいただろう。」



 セオドア皇帝は窓辺へと移動し、窓からの光景を眺めながら少しばかり思案した。



「……ローシュ殿。私が今、我が国に残党を匿っていない、とここで申しても、それをそのまま信じるわけも無かろう?」



 この質問には慎重に答えねばならないとローシュは考えた。



「……失礼を承知で申し上げますが、すぐに信じるわけにもいきません。」


「だろうな。余程の間抜けかお人好しでなければ、いきなり信じる者などおらん。

 ローシュ殿よ。我らとしても、イブリースとの戦争は望んではおらぬ。それに、その残党を匿うことなど、我が国にとってあまりにも無意味ではあるまいか?」



 ――『無意味』という訳では無い。


 残党の中には、アポカリプスを作り上げたリョウヤ達がいる。


 彼らの技術や知識は、ともすればこの世界に核戦争を巻き起こす。


 しかし、果たしてセオドア皇帝はその辺りまで知っているのか――



 ローシュはここに来るまでに想定していたことを反芻する。



「無意味とお考えであれば、我らとしても捜索は不要でしょう。しかしながら、ノックス陛下は、その残党を野放しには出来ぬとお考えです。」



 ――不要な戦争など望んでおらず、不要な血も流すつもりもないのだと、ここまでは理解してもらえたはず。


 そのノックス様であっても、残党をそのまま放置するという判断はしなかった。


 つまりは、残党は野放しにしてはいけない理由がある。


 そして、その彼らを匿うということがどういう結果を招くのか――



 ローシュの言葉を聞いたセオドアは、しばらく黙考した。



「……ローシュ殿よ。貴国の意図については把握した。我らとしても、出来る限りの事をしよう。」



 セオドア皇帝はそれ以上深くは踏み込まず、会話を中断させた。


 ローシュもこれ以上踏み込むのは無理だと判断した。



「…ありがとうございます。」


「長旅で疲れたであろう。デクスター、彼らを宿へと案内して差し上げよ。この国にいる間、存分にもてなしてくれ。」


「畏まりました。」

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