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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第25章 結婚式
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乾麺

 サンドアルバ連合との戦争が終結し、半年が過ぎた。



 イブリース王国にはすでに戦争の爪痕はどこにも残ってはおらず、開戦前よりもさらに発展を遂げていた。



 入国希望者は日に日に増え続け、今ではイブリース王国には3万人もの居住者がいる。



 居住者は、イブリース王国の上下水道の完備だけでなく、各家庭には水洗式トイレや風呂まで完備されていることに感動していた。



 イブリース王国がここまで豊かになったのは、『キュア』『トイレ』『飛空艇』。


 この3つが大きな要因である。



 特に3つ目の飛空艇に関しては、1機で何千万ダリルもの金が舞い込んでくるほどであった。


 中には新しいもの好きな貴族なども購入を希望してきたりもした。



 『キュア』や『飛空艇』の陰に隠れがちな『トイレ』ではあるが、こちらは手頃な値段で買え、1度でもお尻を洗われたことのある者は、もう他のトイレでは満足することが出来ず、購入を希望する。


 購入者の家でトイレを借りた者が、自分の家にも、と購入を希望する。という具合に、常に安定して売上を出していた。



 さらに、最近では『醤油』と『味噌』が更なる売上を齎してくれていた。




 ルナは、ノックスから聞いた地球の製品で次に着目したのは、即席麺。


 つまりは、インスタントラーメンである。



 当初は、麺を乾燥させるために、1度茹でた麺を天日干しさせていたのだが、こちらは思惑通りにいかなかった。


 なぜなら、熱湯を入れて3分で出来上がるというノックスの言葉を思い返すと、こちらの乾麺ではそんな短時間では麺に戻らなかったり、麺がちぎれてふやけたりもしていた。


 ルナだけでなくルミナやミラ、シャロンたちも頭を悩ませていた所へ、ノックスはさりげなく助言を行う。



 それは、夕食時。



 ノックスの希望で出されたこの日の夕食は天ぷらであった。



 ノックスは徐にえび天をつまみながら、


「……ふむ……良く揚がっている。やはり揚げたてが1番だな。時間が経つと水分を含んでふにゃふにゃになり、衣のサクサクが無くなってしまう。」


 と料理を褒めた。



 続けて、


「ふにゃふにゃになった天ぷらも、再度油で揚げるとサクサクになるそうだな。衣に含まれてしまった水分を高温の油が飛ばしてくれるのだろう。」


 と言った。



 当初はサクサクの天ぷらへの戻し方なのかと誰もが思い、誰もそこまで気にも留めなかったが、ルナに天啓が舞い降りる。



「………油で…………水分を………………!!!!」



 ハッとしたルナは残った天ぷらを掻き込み、急いで研究室へと駆けていった。



 ノックスの助け舟により、麺の乾燥方法を油で揚げる方法へと変え、早速麺から作り始める。



 含ませる水分量によって、油で揚げた際にどれ程違いが生まれるか。

 熱湯を注いだ際に、戻り具合はどうなのか。


 それらをこと細かく分析した。



 スープの乾燥については熱風を当て、乾燥させるシンプルな方法だ。



 あとは容器。



 大量生産するに至り、容器を一々陶器で作る訳にもいかない。


 そこで着目したのは、『紙』であった。



 通常の紙のなかに微粒の魔石を練り込む。


 それにより、容器内の熱を持ち手に伝わらないようにする。




 ここまでして、ようやくインスタントラーメン、もとい、カップ麺が完成した。




「お兄ちゃん!!早く来て!!!!」



 執務室にルナが勢いよく現れた。



「……ん?…どうした?」


「いいから!!早く早く!!」



 ルナにせっつかれて研究室へと連れてこられたノックス。



 そこには、マグカップ程の大きさの紙コップが机に置かれていた。



「………まさか………これは………!!?」


「お兄ちゃんが前に言ってた、インスタントラーメンってやつ!ついにその第1号が出来上がったの!」



 ノックスはカップ麺を手に持ち、まじまじと見つめる。



 微粒の魔石を練りこんだ紙のおかげか、手にしっとりと馴染む。


 カップのフタを剥がし、中を確認する。


 中には乾麺のほかにスープの元となる粉の他に乾燥させてある薄くスライスされたチャーシューや白菜などの野菜が見て取れる。



「……で……では…………」



 ノックスは早速熱湯を注ぎ入れ、フタをして3分待つ。


 フタの隙間から立ち上る湯気には、ラーメン独特の良い香りが鼻腔をくすぐる。




 3分が経過し、逸る気持ちを抑えつつフタを捲る。



 そこには、地球でも見た、カップ麺が湯気と共に現れた。



 乾麺は3分でしっかりと麺に戻り、具材も全てしっかりと戻っている。



 あとは味。



「……いただきます……!」



 ノックスは箸で軽く中をかき混ぜた後、麺をつまみ上げ、啜った。



 縮れた麺にスープが程よく絡む。


 醤油ベースで作られたスープが麺や具材の味をさらに引きたてつつ、味に深みを齎す。



 ノックスはただ無言で、この世界で初めてのカップ麺をスープまで平らげた。



「……ど……どうだった……?」


「………しっかりと湯で戻っていて、それでいて味付けも文句は無い……!!

 完璧だ!!!!」


「ぃやったぁー!!」


「素晴らしい!!さすが自慢の妹だ!!」


「…へへ………そう言われると照れるけど……」


「……しかしながら、この麺は日干しでの乾燥か?」


「んーん。最初は日干しでやってみたんだけど、上手くいかなくって。それで、夕食に食べた天ぷらで思いついたの!」


「……ほう……?天ぷらで?」


「そそ!要は、麺の持つ水分を飛ばしちゃえばいいってことだったから。」


「…なるほど……さすがだな!」


「…ちょっとぉぉ、あたしらも手伝ったんですけどー?」



 そこにはルミナとミラ、シャロンの姿があった。


 ミラが数値化していたのであろう、具材ごとの様々な数値が黒板にビッシリと書き連ねられ、ルミナの机には書類がどっさりと山積みになっていた。


 ルミナはぶっ通しの研究で性根尽き果てていたようであった。



「ルミナもミラも、そしてシャロンも。良くこのカップ麺を作り上げてくれた。これならば兵糧としてだけでなく、長期の保存。ちょっとした夜食として使えるだろう!」


「お、お褒めいただき、あ、ありがとうございます!」


「ありがとうございますー!」



 ミラとシャロンはぺこりと礼をした。



「これの量産は可能か?」


「可能だよ!構造自体はシンプルだから、水分量とかスープの比率とか、レシピさえ知ってれば誰でも!」


「色んな味で作ってみたんだよ!ノックスお兄ちゃんが食べた醤油の他に、味噌とか塩とか!」



 シャロンが指さした場所にはいくつものカップ麺が並んでいた。


 側面にはそれぞれ『味噌』や『塩』。他には『海鮮』や『オニオン』、『コンソメ』など、あらゆるスープ名が手書きされていた。



「……こんなにも種類を作ったのか……」



 とノックスは関心していた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の夕食時。



 ノックスの計らいによりノエルらもカップ麺を味わった。



 皆、熱湯を入れて3分待つだけで完成するなど、新手の魔術ではないかと疑っていた。



 3分が経ち、フタを開けると熱々のラーメンが出来上がる。


 皆は目を疑っていた。



 皆は初めて見るカップ麺に興味津々のようであり、早速食べていた。



「……これは……!!?」


「……し……信じられない………というか……美味しい……!!」


「……あんなカッピカピだったってのに………なんで!?」


「……器も……単なる紙で出来た物なのに、持っていても熱くない……」



 と、皆からは大絶賛であった。



「では早速、このカップ麺を商店に並ばせ、国民の意見も取り入れつつ、量産体制へと移行させよう。

 安定化できれば、すぐさま兵糧として採用させる。」


「「「「「了解!!」」」」」



「……にしても、ルナ様ってホント凄いッスね……麺を乾燥させて、熱湯で戻して完成させる……こんなの、誰も思いつかないッスよ……」


「お兄ちゃんから聞いてたからね。日本にあるカップ麺っていうのに、お兄ちゃんも世話になったって。」


「……日本………パネェ………」


「それでも、詳しい理論についてなど話しては無い。あれこれ試行錯誤して完成させたのは、ルナを始め、ルミナ、ミラ、シャロンのおかげだ。」


「……そ、そう言って貰えると……照れちゃうな。」



 誰となしに拍手が巻き起こり、ルナは照れながらも嬉しそうにしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……お兄ちゃん……ちょっといい?」



 部屋で1人のノックスの元へルナが扉をノックした。



「……ルナか。どうしたんだ?」



 扉を開け、ルナを招き入れたが、ルナは少し恥ずかしそうにしていた。



「……えっとね……その……カップ麺作ってる時にさ……お兄ちゃんは知ってたんでしょ?」


「……ん?……なんの事だ?」


「その……麺の乾燥方法について。」


「………なんの事かさっぱり………」


「ほら!天ぷら!!天ぷらで…しかもお兄ちゃん、『水気を飛ばすのは油で揚げるのがいい』みたいな事言ってたやつ!

 あんなタイミングで天ぷらなんて、都合が良すぎるって思うもん!」


「……ほう………俺がたまたま食べたかっただけだがなぁ。」


「……ふーーん……」


「『発明』では無く『発見』から始まるもの。たまたまあの日の夕食が天ぷらで、俺は揚げたてのサクサクとした天ぷらが好きだっただけだ。

 それに気付き、利用しようと考えたのは、他でもない。ルナの『発見』だ。」


「……そう言って褒めたってなぁんも出ないけど。ってか、知ってたんなら最初から教えてくれたって良かったのに……」


「いやあ、おれはしらなかった!!」


「んもう!お兄ちゃんの馬鹿!」


「おれはしらなかったんだ!!」


「………………」


「そうムクれるな。せっかくだ。ルナに海鮮のカップ麺の、めちゃくちゃ美味い食べ方を教えてやる。ここだけの秘密だぞ。」


「……なに……?」


「海鮮のカップ麺。あれは熱湯を注いで作るより、水で薄めた牛乳を温め、それを注いで作ってみろ。俺は日本でこの食い方をしたとき、なんでもっと早くこの食べ方にしなかったのかと後悔したほど。」


「……牛乳……?……それ、ホントに美味しいの?」


「それがな、めちゃくちゃ美味い。」


「……信じられないんだけど……」


「なら試してみるか?ここにちょうど、海鮮のカップ麺と、牛乳がある。」


「…………なんで海鮮のカップ麺を、お兄ちゃんが部屋に持って帰ってるの………?」


「え!えっと……そ、それはだな……」


「それまだ試作段階のやつなのに!んもう!!」



 ルナに海鮮のカップ麺を取り上げてられてしまった。



「これは没収ね!ちゃんと完成したら、いくらでも食べてくれて構わないけど!…通りで数が合わないと思ったら……んもう!!」


「ル、ルナ!!頼む!!その子は置いてってくれ!!」


「だーーめ!!」



 ルナはノックスの制止を聞かず、そのままプイッとそっぽを向いて部屋を後にしようとした。


 ノックスは夜食の楽しみを取られたのと、ルナの機嫌が治らないことに少し悲しい表情をしていた。



「じゃあね!お兄ちゃん!!」


「………はい………」


「……それと………色々とありがと……!」



 部屋から出る途中、ルナは最後にそう言って扉を閉めた。




 その後、ルナは自室に戻ってから、ノックスの言ったように水で薄めた牛乳を温め、カップ麺へと注ぐ。


 そうして、出来上がったカップ麺を、恐る恐る啜る。



 その瞬間、兄がこっそりと夜食として食べようとまでするほどの代物であると理解した。



「………なにこれ…………美味しすぎる…………!!」



 カップ麺を作る際、嫌という程味見をしてきた。


 当然ながら、海鮮味のカップ麺もである。



 それがどうだろう。


 熱湯の代わりに牛乳を入れたこのカップ麺は、もはや別物と言って差し支えない。



 ルナは夢中でカップ麺を食べ、気付けばスープも飲み干してしまっていた。





 その後。


 このカップ麺は商店に並び、物珍しさもあってか国民は挙って買いに来た。


 たったの3分で本格的なラーメンが食えるという、新しい魔法なのかと誰もが疑うレベルであった。



 瞬く間にカップ麺は世間に受け入れられ、こちらも醤油や味噌と同じく国境を簡単に越えて行くこととなるのであった。

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