ギルドへの登録
「今日はあそこの村で休ませて貰いましょう。」
ナバルがそう言った先にはウルカ村という小さな村が見えてきた。
「ロンメアまではあとどのくらいかかるんだ?」
「何もなければ明日の夕刻には着きますよ。」
との事だった。
ロンメア王国と関所の間には旅路を癒すための村がいくつかあるのだという。
「魔石を換金出来る場所などはあるのか?」
「えぇ。ですが身分証はお持ちで?」
「いや、ない。」
「ならばギルドに登録されてはいかがかと。この村でも登録ならして貰えますよ。」
「……悪いが、金を今持ち合わせていない。」
「そう…ですか。まあ今回は助けて頂いた礼もあるので、ここは私が出しましょう。」
「ありがとう。」
ナバルはノックスが文無しなのとギルドに未登録なのに少々訝しんだが、深い詮索をしようとはしなかった。
ノックスもそのことは本当に有難いと思っていた。
(転生したことに関しては言わないほうがいいだろう。だが『悪魔の口』から出てきた事も伏せておくべきか?
出自に関して詮索してこないのは有難い。
かといってそれが全ての人がそうして貰えるはずもないだろう。
出自に関してそれなりの理由をつけておくべきだな。)
そうこう考えてる内に村へとたどり着いた。
「お前たちは先に宿を取っておいてくれ。ノックス殿は私とともにギルドの登録へ向かいましょう。」
「「「はっ!」」」
ノックスとナバルの2人でギルドへと赴く。
ノックスのイメージでは、ギルドではむさ苦しい男どもが屯して新人冒険者に絡んでくることを予想していたが、そういうわけではなかった。
建物の奥に受付がある。
左右の壁にはボードが貼られており、クエストであったりパーティ募集の張り紙など、掲示板として活用されていた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」
受付の若い女性が応対した。
「この方をギルドへの登録を願いたい。」
「かしこまりました。登録料は10ダリルでございます。」
(ダリル…?それがこの世界の通貨か?1ダリルは何円くらい?)
色々とノックスが考えているとナバルが支払いを済ませていた。
「では、登録される方はこちらへと手を置いてください。」
と受付の女性が何やら魔法陣が書かれたボードを出てきた。
「…これは?」
「こちらは登録される方のお名前とギルドランクを管理するためのものでございます。」
「なるほど…」
ノックスは言われるがままボードへと手をかざした。
(もしも魔族であることを騒がれたりしたなら…その時は仕方ない。最悪の場合は……)
と考えている内に手をかざしたボードの上に半透明の表のようなものが現れた。
【名前】ノックス
【ギルドランク】F
【ギルドポイント】0/1000
【犯罪歴】なし
【備考】なし
杞憂だったようで少し安堵する。
「はい、登録は完了です。それではこちらをお持ちください。」
受付の女性がギルドカードを手渡した。
そこには小さい文字で『Guild Card』と書かれており、その下に紫色で『F』と書かれていた。
受付の女性からギルドに関する注意事項などを確認した。
女性は少し物珍しそうな顔をしていたが、後でナバルに聞くと「あまり注意事項を聞く者はいない」との事だった。
まずギルドはSランクからFランクまでの7段階あるそうだ。
受注できるクエストは現ランクから1ランク上、パーティを組んでいるなら2ランクでも良い、との事だった。
これは必ず守らなければならないことでもなく、あくまで目安だという。
もしも高ランクを受注してケガや落命したとしてもギルドは関与しないとの事。
それと補足として、受注できるクエストは現ランクの1つ下まで。
Bランクの者はCランクのクエストは受注できるが、Dランクのクエストは受注できない。
なお、下のランクを受注しようにも、同じランクの者を優先する。
BとCのランクの者がCのクエストを受注したいとマッチングした場合は、Cランクの者が優先される。
次に、犯罪行為。度合いにもよるが、犯罪などを行った場合は2ランクダウンの上、ギルドカードの【犯罪歴】の欄に犯罪行為が記入される。
殺人や強姦などの場合は即ギルド登録が抹消され、当然投獄される。
ギルドの名誉を著しく損なう行為も犯罪行為とカウントされる。
登録の際に使用した魔法陣には『看破』という魔法陣が使用されているため、重犯罪行為に関しては隠し通す事は不可能との事。
続いては昇格について。
昇格はポイント制。クエストランクによりポイントが異なり、Sは100、Aは70、Bは50、Cは30、Dは20、Eは10、Fは5ポイント。
昇格に必要なポイントは、Sになるには10000、Aなら7000、Bは4500、Cは3000、Dは2000、Eは1000ポイント。
昇格するかどうかは個々の裁量。自動的に昇格されるものではないとのこと。
ただし、ギルドランクがB以下の者は、年間のポイントが昇格に必要なポイントの半分をこなしていなければ降格になる。
例をあげると、現在Bランクの者は、Bに昇格するのに必要だった4500ポイントの半分の2250ポイントを取得していなければ降格、ということだ。
不相応ということなのだとか。
ちなみにFランクからさらに降格の場合は再度ギルドへ登録をし直す必要があるらしい。
Aランク以上の場合、年間ポイントが不要な分、クエストもあまりない。
というのも、Aランク以上ともなればそれだけ強力な魔物の退治となり、あまりそこまで頻出するわけではないからだ。
なので彼らはダンジョン攻略を生業としたり、どこかの有力者に雇われて師事したりなど様々である。
以上が注意事項であった。
ちなみにノックスが倒したハウンドだが、ヘルハウンドともなるとクエストランクAなのだとか。
「参考までにだが、龍を倒すようなクエストはあるのか?」
「…え?龍を…ですか…?無いことも無いですが…あれは国家レベルのクエストですので、こちらでは募集はしておりません。」
「はっはっはっ。ノックス殿は野心家ですな。」
「…あくまでも参考までに聞いただけだ。」
ノックスはこの時、この世界のレベルを推察した。
『悪魔の口』で倒した地龍はおそらくはその国家レベルのクエスト。それを単独で倒したなどと知れ渡れば間違いなく騒動になる。
(手加減が難しいな……)
ノックスは自分が異常なまでにレベルを上げてしまったのだと理解した。