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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第24章 イブリース v.s 連合国
279/322

アズラエル


「……アルフェウス………」



 アルフェウスの最期の想いを受け取ったノックスは、拳を握りしめた。



 荒ぶる心を沈め、ノックスは城門前へと歩を進めた。




 城門前には5体ものロックゴーレムが暴れており、エドワードやデュオ、ルイスといったスケルトンを筆頭に、衛兵らもロックゴーレムと戦闘していた。



 さらにその上空にはアズラエルがいたが、モズの『防壁』を破れないことに少々苛立っている様子である。




 ノックスは戦闘している皆の中を掻い潜り、ロックゴーレムの巨体を駆け上がり、その先にいるアズラエルを捉えていた。



「……来たか………魔王め。」



 ノックスは勢いそのままに抜刀し、アズラエルへと剣戟を浴びせる。


 アズラエルは空中でそれをヒラリと躱しつつ、カウンターで蹴りを見舞う。


 咄嗟に左腕でガードをしたものの、予想以上に重い蹴りにより吹き飛ばされた。


 だが、ノックスは吹き飛ばされながらも、さらに反撃で火魔術をアズラエルに向けて射出した。



「……くだらぬ。」



 アズラエルはノックスの火魔術を魔障壁で防ぐのではなく、さらに大きな火魔術を撃ち、ノックスの火魔術を打ち返した。


 特大の火球がノックスに襲いかかる。



 ノックスは氷の壁を幾つも展開し、火魔術を相殺させていった。



「あの封印術を解くとは流石は魔王、恐れ入る。だが、悪魔の力を手にしたこの私には到底及ばぬ。

 貴様はそこで、この国の終焉を見守るがいい!!」


「砂粒縛・(しぶき)!!」



 ノックスが砂粒縛を試みる。



「無駄だ!!貴様の魔術は全て対応済だ!!」



 アズラエルは目には見えないほど薄い霧を展開させており、ノックスの砂粒縛を無力化させていた。



「……チッ……!」


「ここは、俺の出番かな!!」



 城門にて防衛に加勢していたホークが『交換』を試み、敵兵とアズラエルの位置を交換する。


 ノックスはそれを見越して交換される予定の敵兵に切り掛かかる。


 すぐさまアズラエルと敵兵の位置が入れ替わり、アズラエルにノックスの剣戟が及ぶ――


 はずだった。



 しかし、入れ替わりは行われず、ノックスの剣戟はそのまま敵兵を両断するだけであった。



「……んえ!!?な、なんで!!?」


「貴様らの下等な策などこの私に通ずるものか。」



 タイミングは完璧だったはず。


 ホークはアズラエルの死角にいたため、『交換』を防げるはずは無いのだ。



 にも関わらず、ホークの『交換』は阻まれた。



「……チッ。忌々しい魔王めが……!」



 ノックスが大地を隆起させてアズラエルに直接剣戟を浴びせようかとした時、アズラエルはノックスに悪態を付いた。



 ノックスは構わず足場を作り上げ、アズラエルの元へと駆け寄る。



 アズラエルは()()()()()()()()()()()()、隆起させた大地を風魔術で切り刻んだ。



「大人しくそこで見ておくがいい。この国の終焉を!!」



 アズラエルは膨大な魔力を練り上げ、上空には巨大な火の玉が現れた。



 そして、見越していたかの如く、モズの魔力が切れて城にかけてあった『防壁』の効果が切れてしまった。



「終いだ。イブリース、そして魔王ノックスよ!!いくら貴様が強者とは言え、こればかりは防げん!!」



 アズラエルが作り上げた火の玉は、まさに空に浮かぶ太陽。


 イブリース王国を覆い尽くさんかというほどの巨大な火の玉。



 無情にも、その巨大な火の玉がイブリース城へ向けて投下された。



「ま、まずいッス!!は、早く相殺を!!」


「言われずとも!!!!」



 アインやマイナだけでなく他の魔道士たちも一斉に火球に向けて氷魔術を撃ち込んで相殺させる。


 しかし、火球は全く衰えることなくイブリース王国に向けて落下してくる。



「くそ!!くそ、くそ、くそぉぉぉおお!!!!」


「ハハハハハハ!!無駄だ!!貴様ら下等な魔族の国など、この私の手で消し去って…………なんだと……………ば……馬鹿な………!!?」



 高らかに笑っていたアズラエルだったが、突如顔色を変えて冷や汗を流す。



「………やはり、見えているようだな。」


「………ノックス………貴様………!!!!」


「消え失せろ!!『虚空』!!!!」



 ノックスが固有魔法である『虚空』を使用するや、巨大な火球が一瞬にして消え去ってしまった。



 この『虚空』は、全ての魔術を『虚空』と呼ばれる空間に飛ばす術である。


 ノックスが封印されてしまった折、この『虚空』により封印術そのものを虚空間へと飛ばして無力化したのだった。



 そして、アズラエルにとっての誤算はそれだけでは無かった。



「貴様は少し先の未来を見ることができるようだな。固有魔法は……『予知』か『予見』か……まあいい。」



 ノックスが更に魔術を練り上げた。


 それにより空中に多数の砂の足場を形成する。



 ノックスは目にも留まらぬ速さでその足場を利用して上空にいるアズラエルへと駆け寄った。



「……魔族め………!!」



 上空から、こちらに向かってくるノックスを睨みつける。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 幼少期のアズラエルは、決して裕福な家系で育った訳ではなかった。


 彼はもともとエストリア王国の生まれであったが、度重なる飢饉に襲われ一家共々各地を転々と移り住む生活を余儀なくされていた。


 貧しいながらも、家族といた時間はアズラエルにとってはかけがえなの無いものでもあった。



 しかしそんな折、とある一団によりアズラエルは一家共々囚われてしまった。




 地下牢へと連れられ、強制労働を強いられる。



 食事は育ち盛りのアズラエルにとって、とても満足のいくものではなかった。


 優しかった母は、息子にと自分の食事を分け与えてくれた。



 そんな地下生活でも、アズラエルにとって唯一の友が現れた。



 彼女の名は『マリア』。



 アズラエルと同い年ほどの少女の割に、随分と大人びており、時折番兵の隙を見てはパンを盗んだり、また、魔術の訓練などもしてくれた。




 厳しい地下生活でも、アズラエルには希望があった。




 だが、状況は一変。



 突如として強制労働が終了し、開放されるのかと思いきや、1人、また1人と怪しげな部屋へと連れ込まれた。



 そして、連れ込まれた者は二度と戻ってくることは無かった。



 アズラエルの両親は、息子を逃がすために番兵へと抵抗し、その隙にアズラエルに逃げるように指示した。



 しかし、抵抗虚しく、両親はアズラエルの目の前で無惨に殺され、さらに、見せしめとして両親の首は地下施設に吊り下げられた。



 アズラエルの心は、恐怖で包まれた。



 マリアがアズラエルと共に逃げ出そうと画策するも、アズラエルには抵抗する意志すら無かった。




 ―いっそのこと、さっさと殺せ―


 と願ってもいた。




 そうして、アズラエルはついに、怪しげな部屋へと招かれた。



 入ったそこには血みどろの台座が置いてあり、周囲には魔法陣が敷かれている。



 更には黒い外套を目深に被った魔道士が数名、アズラエルを見ていた。



 アズラエルは台座に寝かされ、魔道士らが一斉に詠唱を始める。


 魔法陣が光を放つと、一人の男がナイフを手に卑しく笑みを零してこう言い放った。



「さぁて……今度は成功するでしょうかねぇ……」



 生存を諦めたつもりだったアズラエルだったが、死を目の前にして願ったのは『生』だった。



 暴れるアズラエルを押さえ込み、ナイフは無情にもアズラエルの心臓を貫いた。



 指先が燃えるように熱く、目が血走る。



 やがて、アズラエルの意識は深い闇の底へと誘われた。




 だが、アズラエルは死ななかった。




 胸の激しい痛みが引き、目を開ける。


 そこには、先の男と魔道士らが満面の笑みを浮かべていた。



「おぉ……!!……ついに成功しましたか……!!これで魔王様もお喜びになる……!!」



 なぜ生きているのか。



 胸を確かめると、そこにはナイフの傷跡が確かにあった。


 しかし、傷は既に塞がっており、傷跡だけが確認できた。



 混乱していたその時、番兵らを押しのけて部屋に入ってきた者がいた。



 マリアだ。




 彼女はアズラエルを確認すると即座に火魔術で他の者らを攻撃して怯ませ、その隙にアズラエルの手を取って走り出した。




 本来なら、年端もいかない2人が逃げ出せるはずもない。



 だが、この時状況は大きく変化していた。




 ある一団が、魔王城に攻め入り、激しい戦闘を繰り広げていたのだ。




 2人にとってはまたとない好機であり、その混乱に混じって2人は地下牢から脱出を図った。



 いつも気丈に振舞っていたマリアの小さな手は、微かに震えていた。



「…良かった………しん、死んでるんじゃ……な、ないかって……!!」



 アズラエルは、彼女の涙を見たのはこれが初めてであった。


 と同時に、アズラエルはマリアの存在が胸の中で大きくなったのを感じた。



「……なんとしても逃げよう……!!そんで、俺と一緒に……どこか、安心して暮らそう!」


「……アジーのばか!!遅いってば!!」


「……ごめん………」



 2人は地上へと、何年かぶりに出られた。



 眩しい太陽と相反するように、城からは爆煙が立ち上る。



「……まずいな………マリア、早く逃げよう!!」



 アズラエルがそう言いかけた時、アズラエルは何者かに押し倒された。



「……痛………」



 アズラエルが目を開けると、自分の体にのしかかっていたのはマリアであった。



 が、それだけではなく、番兵がマリアごと、アズラエルまでをも槍で串刺しにしたのだ。


 その背後には、地下施設の部屋にいた男もいた。



 槍が引き抜かれ、血が噴く。



 その様子を後ろで見ていた男は、アズラエルの傷口がみるみるうちに癒えてゆくのを見て感嘆の声を漏らした。



「……おぉぉぉ!!!!……やはり……!!私の研究に間違いは無かった……!!『不死』の研究は完成したのだ!!……この者を早く魔王様に献上せねば……!!」


「とはいえゼン様……今はそれどころでは……」


「おぉ、そうですそうです……早く魔王様に加勢せねば。」



 アズラエルは横たわるマリアを抱え、すぐに回復魔術を施す。


 しかし、アズラエルの魔術ではマリアを回復するには至らなかった。



「マリア……!!……マリア……!!!!」


「……良かった………アジーは……無事……なんだね………」



 マリアはアズラエルの胸元を見て薄らと微笑む。



「……マリア……ダメだ……!!約束したじゃないか!!2人で……2人で暮らそうって!!」


「……ごめんね…………その約束………果たせそうに無いや………」


「………なんで………なんで俺なんかを……」


「……アジーは…………とても優しい………一緒にいて………楽しかった……………」


「……そんな………それなら、俺だって!!マリアと……俺なんかより、マリアが!!」


「……ふふ……………ありが………と……う……………ご………め……………………」


「………マリア………?………マリア………!!マリアァァァァアアアアアア!!!!」



 マリアは、アズラエルの腕の中で静かに息を引き取った。



「さてさて、お別れの挨拶は終わりましたか?」


「………らが…………」


「……んん?……なんでしょう?」


「……おまえらが………マリアを……父さんや、母さんを………!!」


「そう睨まれましてもねぇ…ほら、さっさとその子供を連行なさい。」


「はっ!!」


「……る……ない……………許さない!!!!」



 アズラエルは怒りに任せて番兵に突撃するも、レベルも、経験も雲泥の差。



 だが、いくら傷つけられても傷口は立ち所に塞がる。



 ボロ雑巾のようにズタボロになりながらも、アズラエルは歯を食いしばって立ち上がる。



「ガキが……大人しく捕まれ!」


「……はぁ………はぁ………ちきしょう………ちきしょう!!」



 スタミナが枯渇し、今にも倒れそうなアズラエルを番兵が抑え込む。



 今の自分にはどうすることも出来ず、マリアの仇を討つことすら叶わないアズラエル。



 だがその時。



 勇者と魔王が放った魔術が爆発し、その余波でアズラエルは番兵とともに吹き飛ばされた。



 爆発は大規模に及び、大地にはクレーターが形成される。



「……ま……まお…う…さま………どうか………お慈悲を…………」



 番兵は吹き飛ばされた拍子に瓦礫に頭を打ち付けて死亡しており、ゼンと呼ばれていた男は辛うじて息をしていた。


 アズラエルとて無事では無かったが、傷は忽ち塞がってゆく。



 目を覚ましたアズラエルは、目に殺意を宿らせて瓦礫に埋まるゼンの元へと歩み寄る。



「……おまえらは…………魔族は…………皆殺しにしてやる………!!」


「……や……やめ……!!!!」



 アズラエルは岩でゼンの頭をかち割り殺害した。



 改めて魔王城を見上げると、爆発の影響を受けて半壊していた。




 その後、魔王城からなんとか逃げ延び、各地を転々と放浪して生活をしていたが、彼自身あまり記憶に残っていない。



 放浪生活でただ1つ分かったのは、魔族に施された実験によって、自分は『不死』の体を得たということだ。



 その力の影響か、老化の速度は急激に緩くなった。




 彼に残されたのは、膨大な時間であった。




 願わくば、マリアと共に生きたかった。



 幼き少年少女が描いた、ほんの小さな夢。



 その夢が叶う事など決して無い。



 ならば、ならば……




 ……全ての魔族を……




 ………人生を賭け、根絶やしにしてやる………

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