黄泉がえり組
ルナの血で魔法陣が染まる。
すると、魔法陣から瘴気のような靄が立ち上り始める。
「……おぉ………これぞまさに………!!」
靄は次第にアズラエルの体へと吸い込まれてゆく。
「……ふ………はは…………ふははははは!!!!素晴らしい!!
………力が…………溢れる…………!!!!」
部屋全体が地響きを起こす。
黒い靄はその後もアズラエルの体にどんどん吸収され続け、アズラエルを中心にとてつもない魔力が膨れ上がった。
やがて、魔法陣から現れていた靄が収まり、その全てはアズラエルの体内へと吸収された。
「はははははは!!!!素晴らしい!!!!これが……これが悪魔の力!!!!
………この力さえあれば……ははははははは!!!!」
「……おぉ……アズラエル教皇猊下………なんと素晴らしお力でしょうか……!!」
「良くやったぞリームスよ。貴様にはたんまりと褒美をくれてやる。
……だが、その前にまずこの忌まわしきイブリース国を滅ぼしてくれる!!!!」
アズラエルが魔力を練り上げたかと思うと、部屋が先ほどとは桁違いの地響きが巻き起こる。
どうやらアズラエルは部屋ごと上昇させていたようであり、部屋は地表を突き破って地上へと躍り出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『……む………な、なんじゃこの気配は……!?』
海上にいる敵艦隊を上空から攻撃していたベリアルであったが、突如発生した禍々しい魔力を感知してイブリース国内を見やる。
どうやらそれにはレヴィアや他スケルトンだけでなく、敵艦隊の乗組員までもが戦いの手をやめて見やっていた。
『姉上よ!!この気配は只事では無いぞ……!!』
ベリアルが上空から大声でレヴィアへと語りかける。
「ベリアル!!上から何が見える!!」
『分からぬ!!じゃがこの気配は、ノックスのものとは違う!!』
「それくらい貴様に言われんでも分かっている!ここは妾らに任せ、貴様はさっさとこの気配の出処を確認してくるのじゃ!!」
『……むう………では姉上、ここは任せたぞ!!』
ベリアルは体を反転させてイブリース王国側から発せられている異様な気配について確認に向かった。
「……さて……どうしたものかのう……此奴らの攻撃の手まで止まったということは、此奴らでも知り得ない何かが起こっているということじゃが…………いや、妾の知ったことではない、か。
スケルトンよ!!さっさと此奴らを駆逐してイブリースへと急ぐぞ!!」
エドワードらは「了解!!」と言わんばかりにすぐさま行動に移し、呆然としていた敵艦隊を容赦なく沈めに回っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……こ、これは一体……!!?」
「な、なんかちょーやべぇッス………これ!!なんなんッスか!!!!?」
「落ち着けアイン!!リドル!!気配の出処を確認だ!!」
「……どうやらこれか……!!?……この王城より少し北に……見たこともない物が……ってあれは……ノックス様!!!!」
『遠視』により確認したリドルは、慌てつつも現在の状況を簡単に説明した。
「……!?……ひ、姫ちゃん!!?」
リドルの説明を聞いていたフィオナは真っ先に飛び出してゆく。
「私たちも急ぐぞ!!」
「「「了解!!!!」」」
「了解!!……ってノエル!?」
「…俺は少し調べ物がある。お前たちは先に行っててくれ。後から追いつく。」
「そんな悠長な事言ってる場合ッスか!!早くしないとルナ様とシャロンが……!」
「分かっている。だが、どうしても調べなければならん。」
「アイン、ノエル、何をしている!!」
先を急ごうとするナタリアがアインらを急かす。
「……分かったッス。みんなには言っとくッス!!」
「悪いなアイン。そちらは任せたぞ。」
アインはノエル1人を残し、ナタリアたちと合流して外へと駆け出して行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はははははは!!見よこの力を……!!素晴らしい……素晴らしい!!!!」
「……お…にい……ちゃん…………」
ノックスは封印用の魔法陣に囚われ、指1本動かすことすら出来ず、死に体のルナとシャロンを目の前に何も出来ずにいた。
なんとか封印術を破ろうにも、この魔法陣はノックスの魔力を源泉とする以上、内側からの破壊は不可能であった。
仮に外側から破ろうにも、魔法陣はノックスの驚異的な魔力により保たれているため、外側からの破壊も期待はできない。
「……さて、リームスよ。貴様に褒美をくれてやる。」
「有り難き幸せです…!」
アズラエルはリームスの頭に手を翳すと、アズラエルから禍々しい魔力がリームスを包み込んだ。
「……おぉ………!!………これは素晴らしい………ふふふ……教皇猊下………誠に感謝を申し上げます……!!」
「さてノックスよ。貴様の妹は大いに役に立ってもらった。褒美に貴様にはこの国の終焉を見せてやろう。」
アズラエルはふわりと宙に浮かび上がり、イブリース王国を眼下に見据える。
アズラエルは魔力を練り上げると、手のひらから禍々しい魔術が現れる。
それをそのまま大地に向けて落とすと、空中で弾けてあちこちに散らばる。
途端に大地からボコボコと岩が現れ、人型となって動き始めた。
全身が岩で形成されている巨大なゴーレムである。
ゴーレムはその後も周囲の岩を引き寄せ続け、巨大化する。
「『ロックゴーレム』よ!我らに楯突く輩を一掃せよ!!」
アズラエルが命令を下すと、ゴーレムらの目が怪しく光る。
ラインハルトはゴーレムに駆け寄り腕を斬り飛ばす。
さらにアルフェウスが火魔術をゴーレムに向かって撃ち放った。
しかし、ゴーレムは斬られた腕や火魔術で破壊された部位を立ち所に再生させ、活動を再開させた。
ゴーレムはその巨大な腕を振り回し、周囲の建造物を尽く破壊し始めた。
イブリース国内に複数体のゴーレムが出現した事を皮切りに、沿岸部から続々と連合軍が乗り込む。
『なんじゃあの岩は!!……いや、今はそれ所ではない!』
上空を飛行していたベリアルは突如現れたゴーレムに驚くも、レヴィアに言われた通りアズラエルの元へと向かう。
それを許さんとばかりにゴーレムは自身の体の一部を剥ぎ取り、ベリアルに向けて投げつけた。
ベリアルはすんでのところでそれを回避したが、幾つも投げつけられる岩が体を掠めた。
岩を投げつけてくるゴーレムらを一瞥し、一旦地上へと舞い降りる。
「……岩の分際で調子に乗りおって………消し炭にしてくれるわ!!」
地上で人形態となったベリアルは火の槍を出現させてゴーレムらを切り刻んでは焼き払う。
それによりゴーレムの体の大部分がマグマと化して溶けていった。
しかし、ゴーレムは修復不可能な傷を負わされたとて、大地から岩を補充しては再生を続ける。
「…ちぃっ!!教会で会ったあの人形女と同じか!!」
ベリアルは、『滅氣怒火炎』にて焼き払おうも、ゴーレムは大地がある限り再生を続けてしまう。
幾度となく再生を続けてしまうゴーレムは、決定打こそ無いものの、それはお互いに同じである。
ゴーレムの出現によりベリアル、ラインハルト、アルフェウスは完全に足止めを喰らってしまった。
「ちぃっ!!何度も何度も再生しおって……!!」
ベリアルは、何度も再生を続けるゴーレムに嫌気が差してきた。
「はいはーーい、俺らもいること忘れてもらっちゃ困りますねえ。」
その時、何者かがベリアルの背後から声を掛けてきたと思いきや、突如ベリアルに向けて雷魔術が放たれた。
虚をつかれたベリアルは咄嗟に回避したももの、左肩に雷魔術を受けてしまった。
「……なんじゃあ、お主らは……!!」
「お〜怖い怖い。天下の火龍に睨まれるなんて。」
「……ってか、本当に火龍って人形態になれるのね。」
「スパイからの情報は確かのようだな。お前たち、ゴーレムの攻撃には十分気をつけろよ。」
「うぃーっす!!」
そこに居たのは、デュバル以下、コウスケ、ミサ、タクト、リョウヤの姿であり、ベリアルに対して敵意をむき出しにしていた。
「…スパイじゃと……!?」
「ここで死ぬ貴様には過ぎた話だ。」
「余所見してんじゃねぇぞ!っと!!」
タクトがベリアルの死角から突如現れて攻撃を仕掛ける。
さらにミサがそれに合わせるように氷柱を出現させ、挟み撃ちとなるようベリアルに向けて撃ち出した。
「……甘いわ……!」
ベリアルはそう呟くと、自身を中心に火柱を展開させ、タクトと氷柱の両方を同時にかき消しにかかる。
ベリアルの反撃により氷柱は瞬時に蒸発し、タクトと思われる焼死体がゴロリと転がる。
「この程度でワシを殺せると思うておるとは、随分と舐められたものじゃ。」
「……くくっ……舐めてんのは………そっちのほうだろ!!」
焼死体になったはずのタクトが再度動き出したかと思うと、油断していたベリアルの背後からナイフで刺し貫いた。
「……なっ………貴様………何故生きておる……!?」
「コユーマホーに決まってるだろぉ!俺が死んだとでも思って油断するなんざ、八龍も大した事無ぇなぁ!!」
タクトはナイフを引き抜き、回し蹴りでベリアルを蹴り飛ばす。
そこへゴーレムがベリアルを踏み潰すべく、巨大な足をベリアル目掛けて踏みつけた。




