開戦
『……クス………こえ………』
「こちらはセイレーン号、イブリース、聞こえているか?」
『……チラはイブリー……クス様……』
イブリース本国へと近づき無線機にて通信を行っていたが、ノイズが入りまともに聞き取ることが出来なかった。
リドルが『遠視』を使用して本国の様子を見れる距離まで近づき、ようやっと本国の様子が伝わった。
イブリースは現在、サントアルバだけでなくレイロード、エストリア、ジガルダの3カ国と共同してイブリースに軍勢を送り込み、攻め入っているようである。
いくつもの砲撃により街の至る所からは火の手が上がり、黒煙がいくつも立ち上る。
海上にはアステル島を取り囲むように艦隊が何隻も停泊していた。
「こちらはセイレーン号、イブリース、聞こえているか!」
『……こちらはイブリース。ノックス様!良かった……!!』
ようやく通信が繋がったことにジェラートは安堵した。
「そちらの状況は?」
『サントアルバが連合を成して突如としてこの海域に姿を現したのです。』
「住民の避難は?」
『大急ぎでしたがすでに完了させてます。モズ様の『防壁』により城はまだ無傷ですが……』
「了解した。しばらくそのまま持ちこたえろ。すぐに行く。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ノックスらを見送ってから数日が経ったが、依然としてイブリースには平和な日々が訪れていた。
しかし、突如として連合を成した教国の艦隊が海上に突如として出現し、海上を警備していた兵は慌てて避難命令を出した。
艦隊は何の警告も無しに突如として砲撃を始め、何名かがその砲撃により命を落としてしまった。
大急ぎで住民の避難誘導をしていたが、何隻かの船が無理やり港に乗り上げ、兵らの上陸を許してしまった。
パニックを起こした住民たちとは真逆にラインハルトとアルフェウスは部下のスケルトンを引き連れて早速上陸した兵らと対峙する。
兵らは『浄化』魔術で攻撃を図るも、桁違いの強さを誇るラインハルトには手も足も出ない。
やがて第2陣が上陸を開始し、軍勢となって押しかけて来た所で、アルフェウスが魔力を練り上げる。
それにより、前もって仕掛けていた転移魔法陣に魔力が注がれ、何百という軍勢は立ち所に消え去った。
彼らは、転移魔法陣により自作ダンジョンの最下層へと送り込まれたのだ。
そこにはダンジョンモンスターと化した地龍が鎮座する場所であり、送り込まれた彼らは為す術なく地龍によりその命を散らしたのだった。
正体不明の転移魔法陣を見せつけられた連合軍は上陸を控え、砲撃によりイブリースを攻撃する。
それだけでなく、アポカリプスを用いて照射まで行ったのだ。
放たれたアポカリプスは王城だけは狙わず、周囲のイブリース兵らに撃つ。
アルフェウスは即座に魔障壁を展開させたものの、何十名かの一般人や兵がその餌食となってしまっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……そ、そんな………本当にあんな兵器を撃ってくるなんて………!」
「……クズが力を持つとこうなる、か。」
「……ノックス……様………?」
いつもと違う気配をノックスから感じ取り、皆は思わず固唾を飲み込む。
「全船、全速でイブリース国へ。ベリアル。お前は龍形態となり敵艦隊を駆逐。アポカリプスに気をつけろ。」
『了解じゃ。任せておけい。』
「レヴィアは海中から攻撃だ。エドワード、デュオ、ルイスも同様にレヴィアに続け。」
『良いじゃろう。奴らに目に物を見せてくれよう。』
「セト。」
「…は、はい!」
「今から作る魔術に『保存』を。」
「わ、分かりました!」
ノックスは手のひらからいくつもの風魔術を出現させ、セトに保存させた。
「…ノックス様、如何致しましょうか?アズラエル教皇がいるならあの艦隊の何処かにいるかと思われますが……」
「1隻ずつ確認しているヒマはない。それに奴のことだ。あの艦隊全て調べたところで、おそらくそこに奴はいない。」
「……ではどこにいるとお考えで?」
「近くには居るはずだ。ともかくは、敵艦隊のアポカリプスの排除が優先だ。」
「了解しました。」
その後、船は高度を上げ、最大船足でイブリースを目指した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁて……どうしたものかねぇ……」
艦隊の中の1隻に搭乗していたコウスケはミサとタクト、そしてリョウヤと共に船上からイブリース王国を見やっていた。
上陸した兵らが突如消え失せたことで、転移魔法陣の罠を仕込まれていることが判明し、遠くから砲撃やアポカリプスの照射という遠距離からの攻撃しか取れない。
逆に向こうにはとんでもない強さのスケルトンが陣を張っているため、砲撃もアポカリプスも意味をなさず、攻めあぐねていた。
「あんたの『拡大』で隕石でも落としちゃえば?」
「いやぁ、それならそれでとっくにそういう命令出てもおかしくないじゃん?それが無いのに勝手にするのもなぁ……
ロザリオさんみたいな『吸収』で魔法陣を無力化させるほうが良くね?」
「アポカリプスだって、王城に向けて撃たなかったよな?」
「……確かに。何かあるのかしら。」
「そう攻め急ぐ必要は無いのですよ……」
考えている一同の元に背後からリームスが近づいた。
「リームス様。急ぐ必要は無いって、どういう事です?」
「我々の目的は分断ですよ。こうして攻撃を仕掛けられていながら、ノックス国王が出てこないということは、彼は今不在ということです。」
「……分断が目的?」
「……ってか、ノックスがいないんなら今が攻め時なんじゃ……?」
「……ふふふ……確かにそうですが、居場所の知れないノックス国王を放置し、このままイブリースを陥落させてみなさい。復讐に燃える彼のことを、我々は常に警戒しないといけないのですよ…?」
「……それもそうですけど……」
「ともかく、我々はここで待機ですよ。下手に攻撃しないようにお願いしますよ……ふふふ……」
そう言い残してリームスは立ち去ってしまった。
コウスケらは納得した訳では無いが、とりあえずは勝手な行動はしないよう、そのまま待機する事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま膠着状態が続いてさらに1時間が経過した時、伝令が飛ぶ。
「南より上空を飛行している船がこちらに急接近!!繰り返す!!南方より上空を飛行している船が急接近!!
各員戦闘態勢を!!!!」
「……船が飛んでるだとぉ!?」
「……あ……本当に飛んでる………」
アステル島を取り囲んでいた艦隊はイブリースが作った飛空艇に驚き、遠くに見える飛空艇を指さして浮き足立つ。
各部隊長が兵らに喝を入れ、迫り来る飛空艇への迎撃体勢を取るよう指示が飛ぶ。
その時、飛空艇から1匹の龍が舞い上がり、猛スピードでこちらに向かってくるのが見て取れた。
「火龍だ!!!!」
「このままでは奴のいい的だ!!船を散開させろ!!左舷へ展開!!」
『ガハハハハハハ!!慌てふためいておるわ!!派手に暴れさせてもらうぞ!!!!』




