v.s ハデス&ヨミ 2
「今のうちッスよ!!」
レヴィアによって展開された水の壁で隔絶されたアインたちはそのまま白龍が囚われているであろう奥へと目指すべく扉を破壊し、後ろ髪を引かれる思いで奥へと進んで行った。
一方、残されたレヴィアとベリアルは改めてハデスと対峙する。
ベリアルはすぐさま槍でハデスへと攻撃を仕掛け、槍に纏わせていた火魔術も相まって激しい攻防が為された。
ベリアルが纏わせた火は、槍の通り道に遅れて顕現され、生じた熱によりハデスの服を所々焦がしてゆく。
ハデスは『痛み』を感じていないのか、レヴィアの酸により爛れたり、ベリアルの火により皮膚が焦がされたりしているものの、眉ひとつ動かさず冷静に対処し、隙を見ては反撃も行う。
レヴィアはベリアルの合間を縫う形でウォータージェットを噴出させてハデスに襲いかかり、さすがにハデスは堪らずに距離を取った。
「………ふむ…………両者ともに………相当の実力者…………ふむ………」
「ワシら2人を相手にしながらまだ生きておるとは誇ってよいぞ。」
「抜かるなベリアル。この男は気に食わぬ。」
「もちろんじゃ!ワシも姉上と同意見じゃ!!」
ギロリと睨む2人だったが、ハデスはそれを意にも介さず両断されたヨミに向けて口を開いた。
「………いつまで寝ている………ヨミ………」
「……?………何を言うておる……?……其奴はお主が斬り伏せたのであろう?」
「…………!?」
ヨミはカタカタと動き出したかと思いきや、目をジロリとベリアルらを睨み、その後フワフワと宙に浮かぶ。
「きゃはははははは!!びっくりしたー!?驚いたー!!?」
「……な、何じゃと……!?」
「んもーう、ハデスー!!さすがのハデスでもその2人同時に相手にするのは無理ってワケー!?仕方ないなー!!」
「………やかましい……女だ…………」
「……何がどうなっておる………なぜ生きておるのじゃ……!?」
「ベリアルよ、浮き足立つでない。よく見よ、其奴の体を。」
レヴィアに窘められ、ベリアルはヨミの体を注視する。
すると、ハデスにより斬られた切り口からは血が一滴も垂れておらず、無機質な断面が見て取れた。
「………まさか………其奴は人形か………!?」
「当ったりーー!!」
「本体はどこじゃ!!」
「そんなの教えるわけ無いじゃーん!さあハデスー!この2人さっさと殺っちゃうよ!」
ヨミは分断された上半身と下半身をそのままにし、他の人形と共に襲いかかってきた。
「ならば……これならどうじゃ!!!!」
ベリアルは口から火を噴き、ヨミの人形ごと包み込む。
ヨミは火が当たる手前で人形をバラバラにさせ、各部位を操って空中で自在に浮遊させた。
ヨミ本体はそのまま火に包み込まれるも、他の人形と同様に灰になってもすぐさま元の形状へと戻ってしまう。
浮遊させた各部位はベリアルへ向けて四方から襲いかかり、ベリアルの体にチクチクとダメージが蓄積されてゆく。
ハデスは再度手のひらに魔術を出現させ、先と同様にとてつもない魔力を注ぐ。
レヴィアはそうはさせまいとウォータージェットをハデスに向け噴出させるが、高速で動き回るハデスを捉えられずにいた。
直線上に噴出されるウォータージェットは軌道が読みやすく、本来なら濃霧で相手の視界を奪ってから行われる。
が、濃霧を発生させたとて、それはベリアルの視界を奪うことにもなり、この状況では濃霧を発することは悪手であると判断していた。
つまりは、今この状況ではレヴィアにとってハデスに対して決定打となる攻撃が限られていたのだ。
ハデスは高めた魔力で先と同様に爆風により攻撃させようとしたとき、レヴィアは薄らと笑みを浮かべた。
「不躾な男よ、跪くがよいわ。」
周囲を囲んでいた水の壁からウォータージェットが幾重にもハデスへと襲いかかり、高濃度の酸も相まってハデスの体を醜く溶かした。
不発となった魔術はそのまま残滓となって消えてしまった。
「きゃはは!!ちょっとハデスーー!?きんもーーい!!」
「ワシを相手に余所見とはのう………灰も残さぬ魔術、喰らうがよいわ!!『滅氣怒火炎』!!」
ベリアルから超高温の火炎レーザーがいくつも現れ、空中を浮遊していた人形の部位を捉え消失させる。
そのままレーザーはヨミ本体へと襲いかかり、レーザーにより焼き切られたヨミはバラバラに切り刻まれてしまった。
「……い……いっだーーい………なんてことすんのよう………あたいの体………戻せない………」
『滅氣怒火炎』に曝されたヨミは醜く焼け爛れ、バラバラになり、操っていた人形らは地へと落ちた。
本来ならば斬られたり燃やされても灰となって再生するはずだが、あまりの超高温により再生不能とさせられたようである。
「……ハァ……ハァ………この状態でもまだ生きておるとはのう………それよりも姉上、無事か?」
「誰に聞いておる。こちらはとうに決着が着いておるわ。」
ベリアルが改めてハデスを見やると、酸入りウォータージェットによりハデスは醜く溶かされ、溶かされた腹から腐食した臟が露出して倒れていた。
「……うっ………何度見てもこれはエグいのう……」
「妾に楯突いた罰じゃ。」
決着が着いた所へ、奥の扉を進んでいたアイン達が戻ってきた。
そして、幼い少女がハイゼルに抱えられていた。
「こっちは保護した!おそらく、この者が白龍で間違いはない!」
「上出来じゃ。」
その頃、ノックスもノエルとノアと共にレヴィアらの部屋へと合流した。
「……ほう、そちらも決着が着いたようだな。」
「ノックス様、白龍と思しき少女もこちらに…!」
「ご苦労。」
「……んで、ノックス様……アズラエル教皇は……?」
「念の為に最上階も探してみたが不在だ。恐らく、奴は軍を率いてイブリースへと進撃している。」
「イ、イブリースに……!?」
「俺たちもすぐ帰国する。動けるな?」
「「「「はっ!!」」」」
「……ち……ちょっとぉ………あたいはこのまま置いてけぼりなのー……?……ハーデースーー……助けなさいよーーー………」
「………なんだこれは……?」
バラバラになった人形の口元だけがパクパクとさせているのをノックスが観察した。
「……ヨミという変な奴じゃ。こんな姿でもまだ生きておるようじゃ。」
「……ほう……?」
「……ちょっとあんたーー……見世物じゃないってーのーー………」
「そんな状態でも生きているというのは驚きだな。人形なら操り師がいるはずだが………」
ノックスはバラバラとなった人形に手を翳して操り師を探知するも、その者は見当たらなかった。
「……まあいい……ともかく、急いで帰国するぞ。」
「「「「「はっ!!」」」」」
ノックスらはヨミの残骸やハデスの亡骸をそのままにし、足早に教会本部を後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ハーーデーースーー………いつまでそうしてんのよーーー…………早くあたいを助けなさいよーー………」
「………これは…………私の誤算だ…………」
レヴィアの攻撃により臟が露出し、息絶えていたかと思われていたハデスがゆらりと立ち上がる。
酸により腐食していた体や臟がみるみるうちに逆再生のように引き摺り戻り、ハデスは完全に回復した。
「……アズラエル教皇猊下に報告せねば………あれは紛うことなき八龍………それが2体も…………さらには白龍まで攫われた…………大失態だ………更なる生贄を……捧げねばならぬ………」
「……ちょっとーー?ハーーデーースーー?……聞いてるーー?無視しないでーー!」
立ち上がったハデスはヨミの残骸を一瞥すると、重力魔術によりヨミを一所にかき集めた。
「……やかましい……女だ………」
「……あたいもやられっぱなしなんて許さなーい!今度あいつらに会った時はギャフンと懲らしめてやるんだからー!!」
ヨミの残骸を手にしたまま、ハデスは忽然と姿を消してしまった。




