邂逅
教会本部へと足を踏み入れたノックス一行。
窓は全て豪華なステンドグラスになっており、様々な色の光が差し込んでいる。
礼拝堂のような場所には椅子が数多く並んでおり、通路には赤い絨毯が敷かれていた。
礼拝堂の台座には過去の『勇魔大戦』をモチーフとした像があり、当時の魔王の心臓を貫く勇者の像、となっていた。
「…な、なんだね君たちは……!!ここを一体何処だと……!!」
礼拝堂には神父が信者らに言葉を聞かせていたのか、椅子には数多くの教会員らが座っており、ノックスらの侵入に驚いて言葉を失っている。
「アズラエル教皇はどこにいる?」
「衛兵は何をしておるのだ!!神聖な教会に魔族を踏み入れるとは!!」
「……もう一度聞く。アズラエルはどこだ…?」
ノックスが神父を睨み、威圧しながら再度質問する。
「……え、衛兵!!衛兵!!!!」
神父は一瞬ノックスの威圧にたじろいだが、すぐさま大声を上げた。
「……もういい。おい貴様ら。死にたくなければさっさと避難しろ。」
ノックスは手のひらから火魔術を出現させ、その場に居合わせていた教会員らに避難を促す。
教会員らは悲鳴を上げ、一目散に礼拝堂を後にした。
礼拝堂の奥から続々と衛兵が現れ、神父は衛兵の後ろに隠れるようにしてノックスらの始末を命令する。
「……にしても、悪趣味な像だな。」
ノックスは出現させていた火魔術を像に向かって撃ち、跡形もなく破壊した。
「き、きき、貴様!!!!生きてこの場から出られると思うな!!衛兵!!さっさとあの魔族どもを始末しろ!!!!」
像を破壊され、激高した神父が兵に命令を下す。
「いちいち面倒だ。貴様らの言う『神聖な教会』は、貴様らの血で汚してやる。」
ナタリアらが応戦しようとしたのも束の間。
ノックスはすでに術を発動させていた。
衛兵の身体から突如として刃が出現し、内側から体を切り裂く。
その血飛沫が礼拝堂の床や壁、天井にまで飛び散った。
「……ば………馬鹿な………一体何が………!?」
「辛うじて生かしてはある。最後にもう一度聞くが、アズラエル教皇はどこにいる?」
「……き、教皇の居場所なぞ、し、知っておっても貴様になんぞ教えたりするものか……!!」
「ならば結構。貴様に用はない。」
「……ひ………ひぃ……!!」
「おいおい、全員やられてんじゃねぇかよ。」
「…んま、雑魚だから足止めにもならなかったわね。」
ノックスが砂粒縛を発動しようとした刹那、礼拝堂の奥から2人の男女が現れた。
男は白を基調とした服装に身を包み、女は赤を基調とした服装を身に纏っている。
どちらも上流階級層なのか、身につけている宝飾をさらりと着こなしていた。
「……おぉ……!!貴方がたがいらしたとは!!これは心強い!!」
神父が2人の姿を見て態度を急変させ、擦り寄る。
しかし、2人はそんな神父を気にもせずに倒れている衛兵らを一瞥していた。
「……ふーーん……器用なマネをしますねぇ。流石は『センパイ』だ。」
「殺したほうが早いだろうに。あたしらの命は軽々しく奪ったくせに。」
「………何………?」
女から突如魔力が解き放たれたかと思いきや、瀕死で倒れている衛兵らから突如土の槍が飛び出し、絶命させた。
「……なっ……!!?……仲間を簡単に……!!?」
「ふふっ。経験値、美味しく頂いたわ。ま、ほんの微々たるものだけど。」
ノックスの心の中に黒い物が湧き上がる。
この2人こそ、紛れもない。
前世、自分を陥れた後輩と、婚約者の2人であると確信した。
「……やはりお前らも転生してきたわけか。」
「ははっ!ほらレイカ!俺の言った通りだったろ?『ノックスは先輩』だって!」
「…まさか本当に彼だったとはね。にしても、前の名前じゃなくノックスなんて名乗るなんてね。コウイチさん……?」
「まさか先輩が『魔王』だったなんて驚きですよ!それに、こんな世界で『魔王』になったばかりか、魔族どもを率いて国作っちゃうとか笑っちゃうなあ!」
「……ノックス様、此奴らは私めが……!!」
「待てナタリア。コイツらの始末は俺がつける。」
「で、ですが……!!ノックス様を侮辱するなど……!!」
「あっはは!!ノックス『様』だってさ!!慕われてんだねぇ!!またいつかみたいに、部下に足元掬われないよう気をつけないと!」
「…ヒ、ヒロキ様……レイカ様……お2人とも何の話をして……?」
「……あぁ、神父サマ、まだいたんだ。悪いけど、アンタはこの場に相応しくないかな。」
「……え……な、なに……を……?」
ヒロキはそのまま神父の前に立つと、いきなり手刀で神父の鳩尾を刺した。
「……!!!!……がっ………ヒ……ヒロ……キ……様………!!?」
「えーっと……この辺かな……?……お、あったあった。」
ヒロキは神父の体内をまさぐった後、手を引き抜いた。
神父は力なく倒れ込み、そのまま絶命した。
「……うーーん……あんまりこれは役に立たないな。やっぱ、先輩から頂いたほうがいいな。」
「そんなオッサンのなんて、ろくでもないって分かってたでしょうに。」
「いやー、もしかしたら、があるじゃん?これから先輩とやり合おうってんだからさ。」
「……お前たちは下がっていろ。」
「……り……了解しました……!」
「ノックスよ。ワシも手伝うぞ?」
「その通りじゃノックスよ。それに、妾の依頼を忘れたわけではあるまいな?」
「覚えている。だが、この2人は俺の手で始末を付けねばならん。悪いが、白龍はお前たちで探し出せるか?」
「……ふむ………良かろう。じゃが、気をつけるのじゃ。奴らは得体の知れぬ能力を持っておる。」
「あぁ。」
レヴィアたちはノックス1人この場に残し、囚われているであろう白龍を探すために礼拝堂の奥へと進むことにした。
それを阻むでもなく、むしろ、「どうぞ」と言わんばかりにヒロキとレイカは見送っていた。
「……それにしても、当時はかなり驚きましたよ。先輩に拉致られたーって思いきや、訳も分からずこんな世界に飛ばされちゃってさ。」
「更には、目を覚ましたら別人に成り代わってたりね。んま、元のあたしより胸も大きいしスタイルもいいから、願ったりだけど。」
「アズラエル教皇はここにいるのか?」
「ははっ!先輩そればっかりじゃないですか!……まぁ、教えてもいいんですけど。教皇はここにはいませんよ。」
「ならどこにいる?」
「さあ……ねぇ………」
ヒロキはやけに含んだ言い方をした。
その時、ノックスの足下から複数の土の槍が突如として出現する。
ノックスはすぐさま飛び避け、槍を回避した。
「おいおいレイカ!不意打ちなんて、ヒキョーダロー!」
「……チッ……やっぱ素直に当たってくれはしないわよね。ていうか何そのカタコト。」
突如として戦いの火蓋が切られ、レイカは次々に床から槍を出現させる。
「ほうら先輩!!これならどうです!!」
ヒロキは何を思ったのか、レイカに向かって剣を抜いて振りかぶって斬り掛かる。
レイカの首に剣が当たる刹那、突如レイカとノックスの位置が入れ替わった。
咄嗟にノックスは回避行動を取るが、ヒロキの剣が掠り、ダメージを受ける。
「……『交換』……か。」
「……いや〜……今の避けちゃうなんて流石ですねぇ……これ、外したこと無かったんですけど。」
その間にレイカは魔力を練り上げて解き放つ。
途端にいくつもの5センチ大の水の玉がぽこぽこと現れた。
現れた水の玉は鏃の形状へと姿を変えると、ノックスへと狙いを定めてあらゆる角度から襲いかかる。
魔障壁を展開させ飛んでくる水の鏃を防ぎにかかるが、鏃が当たる瞬間、魔障壁が突如として消え失せた。
鏃はそのままノックスの体を掠めていくが、外れた鏃は軌道を変えて再度ノックスへと襲いかかる。
今度は火魔術で水を蒸発させようとしたノックスは魔力を練り上げ、火魔術を行使させたが、ノックスから放たれた火魔術はみるみると小さくなって消失した。
「……『吸収』か……」
「良く調べてますねぇ。さすがは先輩。だけど、俺がいること忘れてもらっちゃ困りますよ、と!」
レイカの攻撃に集中していたノックスへと向け、ヒロキが魔力を練り上げる。
その時、ノックスは突然何者かによって背後から腹を刺し貫かれた。
「!!?」
驚いてノックスが振り返ると、ノックス自身の影がノックスの腹を刺し貫いていたのだ。
「……ぐっ……!!」
影により動きを封じられたノックスへ向けて水の鏃が襲いかかり、ノックスの体を切り刻んでいった。




