人助け
彼は『悪魔の口』沿いに歩を進めた。
下から見た時に橋が掛かっているのを薄らと確認できたからだ。
橋があるなら道もある。道があれば人里へと繋がるだろう。
その道中、少なからずモンスターと会敵したが、あまりの力量の差にモンスターは全速力で逃走していく。
そうこうしている内に橋が見えてきた。
ただ、彼は一旦歩みを止めて考える。
(人族からすれば魔族は敵対勢力。無用の混乱は避けたい所だが……)
橋には人集りといくつかの馬車も見える。
どうやら関所のようだ。
しかしその様相は少し異常であった。
気配感知で確認してみたところ、どうやら狼モンスター(ハウンド)の集団に襲われているようである。
「くそっ!ハウンドめ…数が多いぞ!!魔道士は下がれ!!」
「弓兵!左だ!!」
「救護班!!早く来てくれ!!」
どうやら狼モンスターの名はハウンドと言うらしい。
(にしてもかなりの数ではあるもののハウンド相手に手こずっているな。)
「ぐわぁぁああっっ!!!!」
「ドラン!!くそっ!!魔道士!支援を!!」
「こ、こちらももう魔力が…」
「…くっ……!!」
「た、隊長!!北側よりさらにハウンドの集団が…!!」
「なん…だと……」
「も、もうだめです……」
彼らを見捨てるのは容易い事だが、彼とて情報は欲しいところ。それに北側のハウンド集団よりもさらに後方から強い気配を感じる。
ノックスはスピードを活かし、戦いのど真ん中へと足を踏み入れた。
そして軽くハウンド達を一瞥したのち、刀を抜き一瞬で切り伏せた。
まさに一瞬の出来事であった。
満身創痍の衛兵達をまさに襲わんとする12頭いたハウンド達は、いきなり現れた男によって切り伏せ、真っ二つになって死んでいる。
「「「………」」」
何が起こったのか理解出来ずに一瞬沈黙が訪れる。
「……は…?」
衛兵のリーダー格である男は、なんとも間抜けな声を発する。
「早く立て。そこに転がってる男を避難させるんだ。」
「あ、あんた…、一体……」
「早くしろ。2度は言わない。」
「…す、すまない…助かった…」
男が倒れているドランという名の男を担ぎ、それを手伝う他の衛兵達も関所の中に避難する。
それを見送った後、北側より迫ってくるハウンドの方へと目線を移す。
「あ、あんたも早く避難するんだ!北からさらにハウンドが来ている!」
「俺は別に構わない。…それにハウンドだけじゃないようだ。」
「な、なに…?」
衛兵達が北側を見やる。
すると、ハウンドの群れの後方には一回り大きいハウンドを確認した。
「あ、あれは…!」
「ヘ、ヘルハウンド…!!」
衛兵達の顔が見る見る青ざめる。
今まで戦ってきたハウンドの群れとは別集団。血の臭いを嗅ぎつけ、ここへやって来たのだろう。
群れが砂埃をあげて恐ろしい速度で関所へと近づく。
ノックスは徐に左手を突き出し
「燃え上がれ。」
と唱えると、手のひらから拳大の火球がハウンドの群れへと猛スピードで打ち出された。
火球はハウンドの群れの頭上で拡大する。
ハウンド達は突然の事でまともに反応すら出来ていない。
そして次の瞬間
ゴォォオオオオオオオオオッッッ!!!!
と巨大な爆炎がハウンドの群れを包み込む。
『悪魔の口』にて地龍に見舞った火魔術である。
「…な、な………!!??」
衛兵達はほとんど声にもならず驚いた。
ある程度距離が離れていたにも関わらず、その熱が伝わる程だった。
そして数秒間の爆炎が収まると、ハウンドの群れは跡形もなく消し炭と化しており、その中から小石大の魔石が煌々と輝いていた。