ワンサイドゲーム
ノックスらがイブリース王国を出て5日足らずで、サントアルバの警戒水域にまで到着していた。
本来風の力で動く帆船とは異なり、イブリースの船には大型モーターが仕込まれているおかげで風を受けるより遥かに早い速度で航行していた。
「リドル、何か見えるか?」
「えぇ、えぇ。見えますね。向こうもこちらに気付いたようで、早速船を展開させてます。」
リドルの固有魔法『遠視』により、敵船の様子を伺っていたが、それは向こうも同じくこちらを見つけ次第戦闘隊形へと移行させたようだ。
「こちらはセイレーン号、アルファ船聞こえるか?」
『こちらはアルファ船、どうぞ。』
「敵船がこちらに気付き船を展開させている。早速本作戦を実行する。レヴィアは行動に移せ。」
『了解じゃ。しかし不思議じゃのう。こんな機械からノックスの声がするとは。』
『レ、レヴィア様、今はそれどころじゃ……』
『貴様に言われずとも分かっておるわ。』
ノックスの指示で早速レヴィアが海中へと潜行し、3隻と並行する。
「ベータ船、聞こえるか?」
『あ!こ、こちらはベータ船ッス!ど、どうぞ!』
「そう緊張するなアイン。予定通り行動に移す。まもなくレヴィアが霧を発生させる。こちらの合図で、アインはベリアルと共に行動を移せ。」
『り、了解ッス!』
その言葉通り、レヴィアが早速霧を発生させたようであり、ノックスらを乗せた船の周囲は忽ち濃霧で覆われる。
それにより視界が0となるが、それは向こうにとってもノックスらの船が霧に包まれ見失った。
「ではベリアル。龍形態へ。すぐさまアインを乗せ上空へ。」
『了解じゃ!暴れるぞアイン!!』
霧はその後も拡大を続け、それと並行してノックスとレヴィアは予定通り、船の周囲に水を張り、船ごと海中へと沈降させる。
「…う、うわわわわわわ………ほ……本当に海の中に………!!」
「…こ、こりゃあたまげた……!!」
巨大な水球に包まれた船はそのまま海中へと沈降してゆき、それと同時にベリアルが龍形態となってアインを乗せて上空へと舞い上がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「敵船団に突如霧が発生し、消失しました!」
「……ふん……小癪な真似をしおって。構わん。アポカリプスを霧の中に撃ち込んでやれ!」
「了解しました。総員!アポカリプス起動準備!!目標は、霧の中にいる敵船団!!薙ぎ払え!!」
「「「「はっ!!!!」」」」
船上にはかつてムエルテ島で使用したのと同じ兵器が搭載されていた。
が、そこにはリョウヤらの姿は無かった。
「アポカリプス、準備が整いました!!」
「奴らに目に物を見せてやれ!!アポカリプス……撃てぇっ!!!!」
アポカリプスが起動し、すぐさま『拡大』を行使する。
射出口から青白い光が発生し、高濃度の放射線レーザーが霧目掛けて照射された。
照射されたアポカリプスにより、霧の水分が一瞬で高熱を帯びる。
海に接触した部分は即座に沸騰し、水蒸気爆発を起こしたのか大きな水柱を作っていた。
「……あ………あ、あれは……!!!?」
霧の中から火龍が現れ、上空へと舞い上がるのを確認する。
「ひ、火龍を確認!!」
「怯むな!!アポカリプスをあの火龍に向けて射出しろ!!」
「し、しかし、飛んでいる相手にそう簡単には……!」
「ならばもう少し近づかせろ!!魔道部隊、火龍の注意を引かせろ!!」
「はっ!!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…ふぅぅーーー……なんとか避けれたッスねぇ……んじゃ、このまま行くッスよ、ベリアル!!」
『ガハハハハ!!振り落とされるでないぞ、アイン!!』
アインを乗せたベリアルは大空をやや大回りに旋回しながら敵船団に向かって徐々に距離を詰めてゆく。
時折魔道部隊から魔術が飛んできてはいるものの、空を自在に飛び回るベリアルを捉えることは出来るはずも無かった。
「…よぉぉし……そろそろ、反撃ッス!!」
ベリアルの背から狙いを定め、アインから魔法銃による攻撃が行われた。
ベリアルの火魔術が纏われた銃弾は、射出後にとてつもない高熱を帯び、敵船の船首に着弾するや、忽ち巨大な火柱を上げた。
「……うっひょーーー……やっぱこの銃すっげぇぇ……」
『ワシの火魔術のおかげじゃ!!アイン、ぼさっとせず、もっと撃て!!じゃが、くれぐれも姉上には当てるなよ!!』
「分かってるッスよ!!」
アインはすぐさまリロードし、2発目、3発目と敵船に向けて魔法銃を撃ち込んでゆく。
着弾するや大炎上を引き起こし、敵の船員は忙しく駆け回っているのが見て取れる。
徐々に近づくベリアルに対し、教会がアポカリプスを撃とうとしたその時、海中から水の球がぽこぽこと突然現れた。
そして、船員が疑問に思ったのも束の間。
水球から超高圧で射出されたウォータージェットにより、アポカリプス周辺にいた兵らは声を上げる間もなく脳天を貫かれ絶命した。
「……な、何が一体……!!?」
レヴィアはその後、沈めた船を浮上させ、ノックスも続いて船を浮上させた。
「……い……一体どうなってる………!!……な、なぜ魔族どもの船が……!!?」
そこから先は、ノックスの描いた通りのワンサイドゲームとなった。
ベリアルとアインはその後も次々と上空から敵船団に攻撃を仕掛ける。
ノエルはノアとナタリアと共に船に乗り込む。
海中からはレヴィアが攻撃。
それにより、10隻以上いたはずの敵船団は全滅し、捕虜となった者と指揮官がアポカリプスを乗せた船へと集められた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「貴様がこの船団の指揮官だな。」
「……ち……畜生……!!」
ノックスは捕えられた指揮官の元へと現れ、尋問する。
「これが貴様らの新兵器とやらだな。開発者はこの船にいたのか?」
「……………」
「原理や仕組みは?」
「……………」
「何も話さないつもり、か。」
「殺すならさっさと殺すがいい…!!貴様ら魔族どもに、何一つ情報はくれてやらん!!」
「なるほどな。まあいい。貴様らが無能にもこいつを使用してくれたおかげで確信は持てた。こいつは水を即時に沸騰させる効果があり、受けた者は一溜りもない、というわけか。」
ノックスはつかつかとアポカリプスに向かって歩き出し、装置の外観をまじまじと見つめていた。
「ノックス様。此奴らを如何致しましょう?」
「……ふむ……それは此奴らに決めてもらおうか。」
ノックスは再度指揮官らの目の前に戻り、捕虜らを一瞥した。
「本来捕虜への暴行や拷問、殺戮は許されない。
貴様らが捕虜として大人しくしているなら、殺さずに生かしてやる。
しかし、どうしても死を望むというのなら、即刻申してみろ。」
「魔族どもめ……!!我々が貴様らに屈すると思うな!!殺すなら殺せ!!」
「よかろう。」
ノックスは刀を抜き、一瞬で首を断ち切った。
断ち切られた生首がゴロリと転がり、それを見た捕虜らの表情には恐怖の色が窺えた。
「次は誰だ?」
ノックスの問いかけに誰もが口を閉ざし、死を志願する者は現れなかった。
「よかろう。ならば貴様らは殺さないでおいてやる。ただし、聞かれたことには素直に答えろ。いいな?」
「……ほ……本当に……命だけは助けてくれるのか……?」
「同じことは言わん。」
「……わ……分かった……」
その後、捕虜の口から新兵器についての情報が語られた。
作成したのはデュバルの配下にいる『黄泉がえり組』と呼ばれる者らであること。
新兵器の名は『アポカリプス』であること。
撃たれた対象者は即座に血が沸騰し、爆散すること。
更に続けてノックスは尋ねる。
「教皇は今本国にいるのか?」
「……わ……我々は知らない……ほ、本当だ!!」
「……なるほどな……」
「お、俺たちからも…聞かせて貰ってもよいか…?」
「なんだ?」
「…お前たちは……これから教会を滅ぼしに行くつもりか……?」
「教皇が対話に応じないのならば、致し方ない。」
「た、頼む…!!本国には、俺の家族がいるんだ!!」
「……俺なんて……この前婚約したばかりなんだよ………頼む………俺を殺しても構わないから、婚約者だけは………!!」
「勘違いするな。俺は貴様らの命や、家族の命など欲しくはない。
コイツらを連行しろ。」
「「「「はっ!!」」」」
捕らえられた捕虜らはセイレーン号にある牢へと収容され、一行はそのままサントアルバへと最大船足で向かい始めた。




