レヴィアの頼み
「いよいよというワケか!!楽しみじゃのう!!」
「急に呼び出されたんで何かと思ったッスね。」
ベリアルとアインはダンジョンに篭もりっぱなしだったが、ノアの協力のもとで2人を探し出し、本作戦を聞かされた。
「それはそうとアイン。お前はまだレヴィアから『固有魔法』を授かっていないな。」
「…んぇ!?『固有魔法』を……授かる……ッスか?」
「俺たちは皆レヴィア様より『固有魔法』を授かっている。レベルが300超でまだ授かっていないのはお前だけだ。」
「……え……み、みんなも『固有魔法』持ってるんッスか!!?」
アインに対し『固有魔法』の付与について簡単に説明がなされたが、当のアインは微妙な表情をしていた。
「……お……俺……レヴィア様怒らせちゃってるし……そんなの授けて貰えないんじゃないッスかねぇ……」
「妾がおらぬと思うて、妾の悪口でも言うておるのか?」
「…ゲッ!!あ、姉上!!」
「…へっ!?い、いやいや!!言ってないッス!!」
「ちょうど良い。貴様ら、妾と手合わせをせよ。」
「…えっ!?いやいや、明後日は出撃するんッスよ!!?」
「そ、そうじゃぞ姉上!こんな時に姉上と戦って消耗しておる場合では無いのじゃ!!」
「……ほう……貴様ら、妾に意見するというのか?」
「ひ、ひえっ…!!」
「……安心してアイン、レヴィア様はきっと分かってくれるわ。」
「……マ、マイナ……そんな事言われたって……」
「うだうだ抜かすな!妾を待たせるつもりか!!」
「「は、はい!!」」
半ば強制的に訓練所へと連れてこられたアインとベリアル。
レヴィアは腕を組んで2人を睨みつけており、2人は完全に萎縮してしまっていた。
「ベリアルよ。まずは貴様からじゃ。」
「……ワ、ワシから………」
泣きそうな表情をしながらベリアルが重苦しい足取りでレヴィアの前へとやってきた。
「2日後に戦争があるが故に、妾とて貴様らと遊んでいるほどヒマではない。そこで、貴様らは妾の攻撃魔術を防いでみよ。」
レヴィアはそう言うと深い霧を立ち込めさせ、視界を奪う。
そして水分身を使用し、ベリアルに向け一斉に攻撃を仕掛けた。
ベリアルは「ふぅ」と息を吐くや、自身を中心に火の竜巻を起こし、火災旋風の如くうねる。
ベリアルはそのまま竜巻に巻かれつつも、うねらせた火災旋風でもって水分身を巻き込ませて瞬時に蒸発させ、その勢いのまま辺り一体を縦横無尽に薙ぎ払った。
「……そこまでじゃ。もうよい。」
突如としてレヴィアが魔術を解除し、立ち込めていた霧が消え去った。
「……んぇ?……も、もうよいのか……?」
「なんじゃ?まだ妾とやり合いたいのか?」
「め、滅相もない!!」
「次はアイン。貴様の番じゃ。」
不思議そうな顔をしたベリアルが戻り、アインは悲壮な表情を浮かべてレヴィアの前に立つ。
「貴様も同じじゃ。妾の攻撃魔術を防いでみよ。」
レヴィアは先と同じく霧を立ち込めさせ、今度は水球をいくつも出現させてウォータージェットをアインに向けて射出させた。
「凍てつけぇぇ!!!!」
途端にアインからとてつもない魔力が膨れ上がり、霧の水分が凍り、ウォータージェットごと水球は忽ち凍りついた。
「……そこまでじゃ。もうよい。」
「……も、もういいんッスか……」
ホッと肩をなでおろしたアインが魔術を解除させる。
「2人とも。腕を上げたようじゃのう。じゃが、もしまた妾から逃げたり、他の者に泣きついたりと軟弱な心を持っておるならば、次は容赦はせぬ。」
「「は、はい(ッス)!!」」
「アイン。貴様に『固有魔法』をくれてやる。」
「……へっ……?……い、いいんッスか……?」
「妾はあまり気が長いほうではないぞ。」
「は、はいッス!あ、有難く頂戴するッス!!」
レヴィアは早速付与術を展開させ、アインに『固有魔法』を授けた。
それにより、アインには『集中』という固有魔法が付与された。
この『集中』は、通常は分散してしまう魔術を一点に集中させる。
それだけでなく、魔力を伴う行動全てが研ぎ澄まされ、魔力感知範囲の拡大や、通常魔術に注ぐ魔力量を底上げさせる効果がある。
つまりは、『集中』により魔術が格段にパワーアップするのだ。
「……す……すげぇ………ホントに『固有魔法』が………ありがとッス!!レヴィア様!!」
「…あ、姉上……ワシには無いのか……?」
「貴様はまた後日だ。貴様の性根は妾が良く知っておる。この戦争で武勲をあげたのならば、『固有魔法』を授けてやる。」
「……い、言われずともワシはちゃんと戦うわい!……ま、まぁ、姉上がそう言うのならば仕方ないのう。」
ベリアルはよほど姉が怖いのか、それ以上何も言わずに大人しく引き下がった。
心配そうに見つめていたノエルたちもホッと肩をなでおろし、お互いの『固有魔法』について情報共有を行ったりしていた。
「悪いが、レヴィアに話がある。お前たちは今日はゆっくりと体を休めておけ。」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
ノックスの一声により皆は解散し、レヴィアと2人残された。
「……さて、皆が居なくなった。もう痩せ我慢はよせ。」
「………なんじゃ………気づいておったのか……」
レヴィアは左腕をノックスに差し出し、魔術を解除すると、ベリアルの火やアインの氷により受けた火傷や凍傷が顕になった。
ノックスはレヴィアに回復魔術を行使し、すぐさまそれらの傷を癒した。
「……手加減してやったというのに、あの馬鹿共め。」
「それだけあの二人がダンジョンで力を蓄えたということだ。」
「……お主は良く見ておるのう。妾のケガを一瞬で見抜き、それを癒すとは。やはり妾の伴侶に……」
「ならんと言っているだろう。」
「……引く手数多と言われたこの妾をフるのはお主くらいじゃ。腹立たしい男よ。」
「これから大事な戦いがある。ベリアルはともかくとして、レヴィア。お前にはこの戦いは関係がない。」
「……フン……言いたいことは分かっておるわ。妾にこの国を守るために戦ってくれるのか、という事じゃろう?」
「……レヴィアは部外者でもあるんだ。わざわざこの国のために戦わなくともいいんだが?」
「部外者とは捨て置けぬな。妾はこの国が気に入っておる。教会がこの国を滅ぼそうとするのならば、妾とて黙っておくつもりはない。」
「…そう言って貰えるのは助かる。」
「じゃが、一つだけお主に頼みがある。」
「あぁ。なんだ?」
「白龍を助けてやってくれ。」
「……ん……?……白龍だと?」
「その通りじゃ。」
「……だが白龍は……」
「人間どもに流布されておる『勇魔大戦』の話ならばモズに聞かされて知っておる。
じゃが、白龍は間違いなく生きておるハズじゃ。」
「……なに……?……何を根拠に……」
「勇魔大戦では、勇者共が白龍を殺しておる。じゃが、それはすでに『継承』を行った白龍であり、勇者共が殺したのは抜け殻となった、元白龍じゃ。」
「……やはり誰かに『継承』させていたのか。そうでなければ今頃は……」
「その通りじゃ。そうで無ければ今頃は大地は木で覆い尽くされ、モンスターで溢れかえっており、人間共の文明は滅んでいたハズじゃ。
奴には1人、娘がおったのじゃ。まだ幼い娘がな。」
「……ということはその娘に『継承』を…?」
「…おそらくはな……そしてその娘は、教会に囚われておるはずじゃ。」
「……分かった。ならばその白龍の救出も兼ねよう。」
「……すまぬな……先代白龍には妾も随分と世話になっておったのじゃ。
よもや、勇者共に先代が殺されておったとは。」
「ノックス様ぁぁぁああああ!!!!」
ノックスとレヴィアの元へ何時になくジェラートが大声を上げて駆け寄ってきた。
「……どうしたジェラート……珍しく慌てて。」
「…ぜぇ………ぜぇ…………し…至急……お耳に……入れなければ……ならない…ことが………ぜぇ……ぜぇ………」
「落ち着け。」
ジェラートは汗を拭って少しだけ息を整えた。
「…ノ、ノックス様に至急お知らせしなければならないことが……!!」
「何があった?」
「……サ、サントアルバに派遣していた密偵からの報告ですが………教会が新兵器の実験を行ったようです……!!
詳しい情報はまだありませんが、ムエルテ島跡地にて、連行された奴隷たちがその新兵器の実験により………爆散した、との報告があります……!!」
「……何……!?」