戦争に向けて
使えなかった『固有魔法』とは言え、ノックスは早速アイスクリームの製造方法についてスイーツ店の店主である『ドルチェ』という名の女性を交えて作っていた。
とはいえそこまで難しいレシピではなく、卵黄に砂糖を入れてかき混ぜる。
牛乳と生クリーム、バニラエッセンスを鍋に入れ、ふつふつと沸いてきたところで卵黄と砂糖を混ぜたものを加える。
あとはボウルに入れて冷やし、程よく固まったら1度かき混ぜて再度冷やす。
これで完成である。
他のフレーバーに関しても似たような工程で作り、バニラ、イチゴ、チョコ、バナナ、紅茶のアイスを作りあげた。
早速出来上がった5種のアイスを5段重ねにし、レヴィアへと差し出した。
「……こ……これは……美味そうじゃのう。……どれ………」
レヴィアが1番上のバニラアイスをひと舐めする。
舌から口へと運ばれたアイスクリームはレヴィアの口内で忽ち溶けだし、バニラの風味とアイスの独特な甘みが口中を支配した。
「……これは………これは美味じゃ!!!!……なんという美味しさじゃ………!!!!」
感動したレヴィアは夢中で舐め続け、5段あったはずのアイスは立ち所にレヴィアの胃の中へと消え失せていった。
「…どれもこれも美味じゃ!!!!…早う……早うお代りをよこすのじゃ!!!!」
「あまり食べ過ぎても腹を壊すぞ……まぁ、もう今更だが。」
「レ、レヴィア様はどれが1番お気に召したでしょうか…?」
「……ふむ………どれも甲乙つけ難いが、強いてあげればイチゴのやつじゃな。甘みのなかにもイチゴ独特の酸味が上手い具合に加わっておる。」
「…な、なるほどですな…ふむふむ。」
「ノックスさまー!あたしも食べたーい!」
「あ!ずるい!!おれも!おれも!!」
「あぁ、勿論いいぞ。年齢が若い者順で並んでくれ。決して割り込むなよ。」
「「「「やったーー!!!!」」」」
「ではドルチェ、後は宜しく頼んだぞ。」
「はい!ノックス様とこうしてまたお仕事が出来て光栄です!!またいつでもご協力致しますね!!」
当初はハニコムとプリンだけの取り扱いのスイーツ店に、新たに『アイスクリーム』が出品され、後にこの『ドルチェのスイーツ店』は有名スイーツ店として全国に展開するほど巨大な企業になってゆく、その一端であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『固有魔法』を授かったノエルらは更なるレベルアップを図るために積極的にダンジョンへと潜っていた。
ノックスはと言うと、対教会との戦争に関し、ローシュとジェラートを交えて対策会議を行っていた。
「あれから教会の動きが無さすぎるが…奴らはノックス様の強さに恐れを成しているのならばありがたいのだが……」
「……いえ……ローシュ様…教会は諦めた訳ではありませんよ………」
「ジェラート、報告を聞こうか。」
「……了解です……では………」
ジェラートは積極的に情報収集を行っており、ストール大陸にも複数人使者を送り出していた。
それによると、現在教会は加盟国を交えていくつも会議が行われており、12使徒が加盟国に派遣され、合同訓練まで行わせているとの事だった。
更に、リッチの件にて弱体化したラヴィーナ共和国にもかなりの圧力をかけているらしく、ラヴィーナが教会の加盟国となるのも時間の問題だという。
「こちらからラヴィーナに働きかける事はできないのか?」
「……それは難しいかと………ヒルダ代表が今も尚健在であればそれも可能であったでしょうが、今や評議会議員の連中には、自浄作用が働くどころか悪化の一途を辿り、教会からの甘言に靡く議員で溢れているとの報告があります……」
「……ふむ………やはり、奴らが加盟国を増やし、大軍団を率いる準備をしておるようだな……こうなればノックス様、こちらから教会に先制攻撃を仕掛けてみてはいかがか?」
「……奴らに戦争をする口実を与えてしまわないか?」
「だが、すでに教会はその口実を手にしているとも言えるぞ。ムエルテ島の破壊。ルナ様の救出、及び、枢機卿の抹殺。いくら向こうが悪いと言った所で……」
「ならば今から大艦隊を率いて教会に攻撃を仕掛けるのか?………ふむ………」
「今ならレヴィア様もおる。レヴィア様、ベリアル様、そしてノックス様。この御三方がいる以上、教会の準備をわざわざ待ってやる必要は無いはずだろう。」
「………あぁ…………だが、まずは、ジェラート。」
「はい。」
「教会に向けて書簡を作ってくれ。」
「内容はどのように?」
「『我々イブリース王国は、教会からの圧政には従わない。もしも貴国がそれでも我が国を敵とみなし、軍備を拡大するようならば、我々とて容赦はしない』と。」
「……なるほど……まずは牽制、か。」
「了解しました。」
「そらからラヴィーナへも書簡を。『教会の加盟国となるならば、近いうち貴国は我々の敵国になる。だが、もし教会に与せず中立国を目指したいのならば、我々とてできる限りの協力は惜しまない。』と。
これはラヴィーナだけでなく、他の加盟国にも通達できるか?」
「……やってみましょう……おまかせを。」
「……だがノックス様。それでもし突っぱねられた場合は?」
「それならそれで構わん。だが、加盟国の中には俺たちと戦うのを恐れている者も少なからずいるはずだ。」
「……ふむ………確かに、ワシならばノックス様お1人ですら恐ろしい……だが、教会の準備が揃っていないであろう今こそ、教会本国に攻撃を仕掛けるチャンスではなかろうか?」
「……ふむ………ただ、悪いが2人とも、1度席を外してくれ。」
「了解だ。」
「了解です。」
会議を一旦打ち切り、ノックスは1人執務室に残り思案する。
ローシュの言う通り、教会の準備が完了するのをわざわざ待つよりも、こちらから本国に向けて攻撃するほうが良い。
12使徒を4人抹殺しており、枢機卿も『マーティン枢機卿』、『ウィルソン枢機卿』、『ベネット枢機卿』、『ベスティロ枢機卿』の4名のうち、すでにベスティロを抹殺している。
あれから教皇宛に幾度となく魔族の権利を認めさせる書簡を送ってはいるものの、返答も無く、教会員が幾度もこのイブリース王国に入国しようとしてくるのみであった。
正式な回答が得られないまま手をこまねいているより、本格的に攻め込むべきでは無かろうか。
むしろ、教会は建国したばかりのこのイブリースをなぜ放置しているのか。
いくらノックスや火龍の力を恐れているとはいえ、こちらの住民が集まるのを待っているのではないだろうか。
ノックスは立ち上がり、部屋の外で待機していた2人を再度執務室へと入室させた。
「……それで、考えは纏まったのか?」
「……どちらにせよ、私はノックス様の考えに賛同するだけですがね…」
「あぁ。待たせて悪いな。俺もこういう経験は初めてでな。」
「………では、教会との全面戦争について話を進める。ローシュの言う通り、奴らの準備が完了するまで悠長に待ってやる必要はない。
ジェラートはさっき言った書簡をすぐさま加盟国へと通達。念の為にロンメアやウィンディアへも通達を。」
「了解です。」
「ローシュ。艦隊の準備だ。ダンジョンに潜っている連中には俺が知らせておく。他の兵らに準備をさせ、国民には万が一の避難指示を。」
「了解だ。」
「………ククク………いよいよ全面戦争という訳ですか…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから1週間後、謁見室には兵が整列していた。
兵らはこれから始まる全面戦争にやや緊張の面持ちである。
「皆、今日までご苦労。我らはついに、教会との全面戦争に突入する。
建国から1年半が経過し、教会には何度も休戦交渉や和平交渉の書簡を送っていたが、全て無視されたばかりか、奴らは加盟国を取り込んで我々との全面戦争に向けて着々と兵をかき集めている。」
「我らは、奴らの準備が完了するまでわざわざ待ってやるほどお人好しではない。
この国イブリースに住まう魔族、それだけでなくこの国の全ての住民の安心と安寧のために、我らは断固として教会と対立する。
2日後の明朝、艦隊を率いて我々は教会へと踏み込む。
諸君らの健闘を願う。」
「「「「「はっ!!!!」」」」」




