ひとり虚しく
モズを包み込んだ光がやがて収束したが、当のモズ本人には特に変化は見られなかった。
万が一に備えていたノックスは少し肩をなでおろした。
「……どうじゃモズよ。何か変わったか?」
「……待ってください……今、ステータスを………」
モズは自身のステータスを確認し、『固有魔法』の有無について調べた。
「………あ………あります……!!ありました!!『固有魔法』!!」
「……本当に、か……!」
「それで、何の固有魔法だ?」
「……ぼ……『防壁』、とあります…!」
「『防壁』ですって!!?」
「……『防壁』……?それはどんな魔術だ?」
「……『防壁』は、如何なる攻撃をも無効化すると言われている最強の壁です………どんな建築物にも適用され、難攻不落の要塞を作り上げることの出来る代物と言われております……!!」
「……ほう……」
「面白いではないか。ならばモズよ。お主のその『防壁』、あの岩に唱えてみよ。妾の攻撃でもビクともしないか試してやろう。」
「……は、はい………!」
モズは早速岩に向かって『防壁』を唱える。
と言っても使った事のない魔術の唱え方など知らないモズはどう唱えれば良いのか分からず、マイナに確認していた。
そうしてようやく岩に『防壁』を唱え、付与させることに成功した。
「……た、多分これでいけました。」
「よし。離れておれ。」
レヴィアは早速水球を出現させ、ウォータージェットを岩に向けて射出させた。
凄まじい水圧で射出されたそれは岩に命中したものの、岩には傷一つ入っていなかった。
「………ほう………妾の攻撃でビクともせんとは。」
「今度は俺が試してみよう。」
続いてノックスが地魔術を使用し、棘を出現させた。
出現した棘にさらに魔力を注ぎ込み硬化させ、回転を加える。
「貫け。」
射出された棘は岩に命中したが、やはりこちらも傷一つ付けられなかった。
「……凄まじいな……刀で斬っていたら折れてしまっていたかもしれん。」
「これが『防壁』の力です。」
「装備品に付与させればどんな安物でも最強の盾となるのか?」
「いいえ。動かせばこの魔術は解除されるはずです。」
確認のためにノックスが岩を持ち上げると、途端に『防壁』が解除されたらしく、落とすと簡単に割れてしまった。
「……こ、これがあたしの『固有魔法』……!!」
「面白そうではないか。ノックスよ。お主も試してみるか?」
「……ふむ………いや、俺は後で構わん。他の隊員に知らせ、レベル300を超え、且つ、『固有魔法』を手にしたい者がいるならそちらから先に付与させてやってくれ。」
「……言うておくが、妾は男には興味はない。お主は別として、他の男どもにまで『固有魔法』なぞ授けるつもりはないぞ。」
「………そうなのか………それは残念だ。もしやってくれると言うのなら、この先、レヴィアには特別にプリンを一生好きなだけ食べてもいいと許可を出すところだったんだが……」
「……プリンじゃと……!?」
「他にももっと美味しい食べ物の案があるんだが……そうか。それなら仕方が……」
「ま、待て!!……ふむ……お主がそうまで言うのならば妾が手を貸してやろう。本当ならばお主を伴侶として迎えてやりたいところだが、プリンも捨て難い。」
「……なら交渉は成立というわけだな。」
「……忘れるでないぞ……この先お主が考案した『すいーつ』とやらは、妾が一番最初に食べる権利。そして、それらを一生食べても良いという事じゃ。」
レヴィアはチョロいな、と、その場にいた誰もが心の内で思っていた。
その後、レヴィアにより『固有魔法』が授けられた。
さすがにまだ1期や2期の兵らはレベルが足らず、そちらはレベルが上がってから、という事になった。
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ノエル
固有魔法 『縮地』
目標に即座に移動する。込める魔力により距離が伸びる。
リドル
固有魔法 『遠視』
遠くにいる対象でも視認できる。
『千里眼』とは違い、対象に触れなくても行える。
ナタリア
固有魔法 『鈍化』
対象の動きを鈍くする。周囲にいるもの全てを『鈍化』させ、魔力の総量に応じて範囲が拡大する。
モズ
固有魔法 『防壁』
あらゆる物が無類の防御壁と化す。対象物が大きければ大きいほど魔力の消費が激しい。
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アインはあれからも未だにベリアルと共にダンジョンへと潜っているため、『固有魔法』については後ほどとなった。
「……これはすごい………!!」
「は〜〜〜!!ホントに遠くまで見れちゃうねぇ!!」
「ノエルとナタリアは近接戦闘に適した『固有魔法』が与えられたな。
リドルは索敵や偵察。モズは防御といった具合か。」
「ノックス様!!ありがとうございます!!」
「礼ならレヴィアに言うんだ。」
「「「「レヴィアさん、ありがとうございます!!」」」」
「ふむ。」
「……それにしても、アインは何処に……?」
「ノックスよ。もしかしてアインにもこれを施せと言うつもりか?」
「……ん?そのつもりだが?」
「断る。どんなに条件を付けられたとて、今の彼奴に『固有魔法』を付与させるつもりはないぞ。」
「……そ、それは……レヴィア様。あれは誤解だと……」
「いや、マイナ。」
レヴィアの仲裁に入ったマイナを制し、ノックスは少し考えた。
「……なるほどな……ならばその判断はレヴィア。お前に任せる。」
「物分りの良い奴じゃのう。それでこそ我が伴侶にふさわ…」
「伴侶にはならん。」
「………………」
「ではレヴィア。俺にもその付与を施してはくれるのか?伴侶となることを引き換えにするなら断るが。」
「………チッ………ならば、見返りは?」
「見返りに、アイスクリームという甘味について、特別にお前が最初に食べる権利を与える。」
「……ん……?……あいす……くりいむじゃと……?なんじゃそれは?どのような『すいーつ』なのじゃ?」
「冷たくて甘く、果物の果肉、または、チョコレートと一緒に固めたものだ。口に入れた途端溶けだし、食した者皆を魅了すると言われているスイーツだ。」
「…な、なんじゃと…!!?…そのような甘味があるのか!!?……ふむ……良かろう。忘れるでないぞノックス。妾がその『あいすくりいむ』を先に食す権利があり、この先もずっと食べて良いということを。」
「断っておくが、独占ではないぞ。レヴィアが食した後は、他の住民にも提供する。」
「分かっておるわ。ならば、すぐに始めるぞ。」
レヴィアはノックスに向けて魔力を練り上げ、付与術を展開させる。
ノックスの足元に魔法陣が現れ、光がノックスを包み込んだ。
……………
やがて光が収まり、ノックスは早速自身のステータスを確認する。
「……はぁ………はぁ………ノ……ノックスよ………お、お主……一体どれ程の潜在能力を持っていると言うのじゃ…………」
レヴィアは膝をつき息が乱れていた。
「……どうした?なぜそんなに疲れている?」
「……お主の潜在能力が……妾の理解を超えておったようじゃ………はぁ………はぁ…………あ、危うく魔力枯渇に陥る所じゃ…………」
「……そんなに……なのか………ならば、アイスクリームは特別に5段重ねにしてやろう。」
「………そ、それで……ノックス様……一体どのような『固有魔法』が……?」
「……ふむ………聞きなれないが、俺の『固有魔法』は『虚空』と書いてある………」
「こ、虚空……?」
「……マイナ、知っているか?」
「……い、いえ………初耳…です………」
「『虚空』という言葉から何か連想できますか…?」
「『虚空』とは、何も無い空間という意味だ。
……まさか………『固有魔法』自体が『何も無い』という意味か……?」
「妾とて分からぬわ。そもそも、人に付与術を施すこと自体が今回が初めてじゃ。」
「……た……試しにその『虚空』、やってみては如何でしょうか……?」
「……ふむ……」
ノックスはマイナから方法を確認し、早速『固有魔法』を行使してみるべく魔力を練り上げる。
右手を翳し、『固有魔法』である『虚空』を試し打ちしてみた。
…………
………………
……………………………
「……?………特に何も起こらない……?」
「……レヴィア……どうなってる?」
「妾に聞かれても分からぬわ。というより、先程お主自身で言うておった通り、『何も無い』ならば、すでに発動しておるのかもしれんじゃろう。」
「……その割にMPが減っていないが………」
「……ま、まあ、ノックス様は『固有魔法』が無くったってお強いですから……!」
「そ、そうですよ!その分、我々が『固有魔法』でサポート致しますから!」
「…………………」
慰めの言葉を掛けられたノックスであったが、使えなかった『固有魔法』について、ひとり虚しく空を見つめていた。




