さすがは兄妹
その後皆を集め、改めてレヴィアを紹介した。
男連中はレヴィアの妖艶な外見に顔を緩ませていたが。
ただ、アインだけは頑としてレヴィアの滞在には反対気味であった。
「だ、だってこの女、俺を本気で殺そうとしたんッス!!しかもこの女のおかげで新兵たちが軽蔑したような目で見てくるし……」
「アインよ。妾は決して貴様の愚行を許したわけでは無いぞ。」
「ほら!!チョーやべぇんッス!!この痴女!!」
「無駄じゃぞアインよ………姉上は思い込みが激しく、1度決めたことを曲げん性格じゃ……」
「……ベ、ベリアルも苦労したんッスね……」
「レヴィア様は水龍とお聞きしましたが、やはり水魔術に長けておいででしょうか?」
「当たり前じゃ。妾の扱う水魔術は、何人たりとも破ることは出来ん。……ノックス以外はな……」
「なら、私にもレヴィア様の水魔術をご教授いただけませんか?」
「……ほう?しかしながら、タダという訳にはいかぬぞ。それに訓練と言えど、妾は一切手は抜かぬ。」
「構いません。では、代わりに私がレヴィア様には、この国をご案内差し上げます。きっと、レヴィア様のお気に召す美味しい物をご案内差し上げましょう。」
「……ほう……それは楽しみじゃ。其方、名を何と申すのじゃ?」
「マイナと申します。」
「あ、それならあたしもいいでしょうか!?」
「其方は?」
「モズです!」
「よかろう。」
「…あ……それじゃあ俺も参加したいなあ……」
「妾は男には教えぬ。」
「……えぇ………」
「……ってか2人とも……マジッスか……?……ってか、ベリアルより人気ッスね。」
「アイン!余計な比較をせんでよいわ!!」
レヴィアはマイナとモズに連れられ、早速国内を案内するために王城を後にした。
その際、ベリアルはアインと共に陰で何やらヒソヒソと話し合っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……な……何と美味な……!!その名の通り、ぷるぷるで蕩けるような甘さでは無いか……!!」
レヴィアはマイナとモズに連れられ、最近出来たスイーツ店を案内していた。
そこで作られているプリンを一口頬張ったレヴィアは、美味しさのあまり感激していた。
「これ、今では凄く人気なんですよ!あたしも大好きで1週間に3回は食べちゃいます!」
「……このプリンとやら。サハギンの肝のようにプルプルしておるが、味は別物じゃのう。」
「……それと比べられても分かりませんけど……」
「確か、ノックス様のアイデアにより生まれた代物だと聞いてます。」
「……ほう………あの者は強さだけでなくこんな美味しい物まで作っていたのか………益々手に入れねばならぬ。」
「……言っときますけど!ノックス様のお嫁さんになるのはあたしなんですー!」
「ほう?モズもあの男を狙っておるのか。マイナもじゃろう?」
「…わ、私はノックス様と結婚したいなどと考えたことはありませんよ。」
「強き者の伴侶になるのは生物としての本能のはずじゃが?」
「……ノックス様は偉大すぎて私などでは釣り合いが取れません。身の丈に合う相手を望みます。」
「ならば妾が鍛え、ノックスと釣り合いが取れるようにしてやろう。」
「…え、えーっと……そ、それより、不躾な質問だと承知してますが…」
「…なんじゃ?何でも申してみよ。」
「レヴィア様のレベルは如何程なのか、と。」
「そんな事か。妾のレベルは1800くらいじゃ。」
「「……1800……!?」」
「……す、すごい………ベリアルさんでも1400くらいだとお聞きしたのに……」
「……彼奴め……あれから100程しかレベルが上がっておらんではないか……やはり妾が鍛え直さねばならぬようじゃな。」
「……あの……レヴィア様、お一つだけ宜しいでしょうか……?」
「なんじゃマイナ?何でも申せ。」
「アインの事ですが………彼がレヴィア様を攻撃した、と仰っていましたが……あれは本当に誤解かと思われるのです……
彼はああ見えて素直で、攻撃的な性格の持ち主ではありません。」
マイナは恐る恐るではあるものの、誤解を解くべくレヴィアに訴えかけた。
それを聞いたレヴィアはふふんと鼻で笑った。
「マイナよ。それくらい妾でも分かっておるわ。今頃はベリアルと共に力をつけるべく、訓練しようなどと結託しておる頃じゃろう。」
「……まさか、それを分かってて、でしょうか?」
「そうなるとはまだ分からぬ。妾はアインという男をまだよく知らぬ。
じゃが、他人に泣きついてみっともない姿を晒したまま、奮起せぬ男なぞ、ノックスの傍には不要じゃ。」
「……レヴィアさん……お厳しいんですね……」
「もしもそのままその姿勢を変えぬというのならば、今度こそ容赦なく妾が直接叩き直してくれる。」
「…あ…あはは………」
モズは苦笑いしたものの、マイナは大丈夫かと不安そうな表情をしていた。
その後もレヴィアに国内を案内し、様々な施設に足を運ぶ。
妖艶なレヴィアの姿を見た住人がゾロゾロと集まったりもしていたのだが。
特に、レヴィアをトイレに案内し、使用方法を説明し、早速使わせてみると、中から
「あ゛ぁぁん…!!」
という嬌声をあげ、その後トイレから出てきたレヴィアの顔は紅潮していた。
「…こ、これは誰が作ったのじゃ……?……まさかこれもノックスか……?」
「こちらはノックス様の妹君であるルナ様が主導して製作されたものです。」
「…ル、ルナじゃと……?……そうか……」
「……お気に召さなかったんでしょうか……?」
「……初めての感覚であって少々驚いただけじゃ。
……それにしても、彼奴に妹がおったとはのう。」
その後もレヴィアは人間が作った料理に感動していたりと、イブリース国を満喫していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アインよ。分かっておると思うが、姉上はお主を許してはおらぬぞ。」
「……誤解だって……言ってるのに………」
「姉上は1度決めたら考えを改めぬ厄介な性格をしておるのじゃ………」
「………どうしよう…………」
「………こうなったら、アインよ。ワシらでダンジョンに潜り、レベルを上げるしか無かろう。」
「……今から強くなろうったって、そう簡単にはいかないッスよ………」
「泣き言を言うでない!こうなってしまった以上、ワシらの取れる選択肢は限られておる!
一生ノックスに泣きつくか、姉上に絞られ続けるか。それとも強くなるのか、じゃ!」
「………やるしかないって事ッスか………」
「そうと決まれば話が早いぞ!姉上不在の今のうちに、ワシらはさっさとダンジョンに潜るぞ!」
「ち、ちょっと待ってッス!色々仕事もあるんッスよ!ノエルに言っておかないと…」
「善は急げじゃ!!早うノエルに話を付けてくるのじゃ!!」
ベリアルとの相談が終わったアインはすぐさまノエルの元へと訪れ、しばらくダンジョンに籠る旨を伝えた。
必死にダンジョンへ行きたいというアインの訴えに少々驚いたものの、
「お前がご褒美も無いのにそこまで必死ならば、仕事の件は何とかしてやろう。ノックス様にも俺が説明しておいてやる。」
と、背中を押してくれた。
「ノエル、ありがとッス!!戻ってきたらその分ちゃんと取り返すッス!!
あ、それと、くれぐれも俺らがどこに行ったかは言わないでくださいッス!!」
そう言い残し、アインは早速ベリアルと共にダンジョンへと潜って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕暮れ時になり、案内を済ませたレヴィアが王城へと戻ってきた。
戻ってくるなりレヴィアはルナを探し始め、王城にある研究室へと案内された。
研究室の扉を開けると、そこにはルミナとミラ、シャロン。それと、ルナの姿もそこにあった。
どうやら新しい研究についての理論を話し合い、ミラがその理論を数値化しているようである。
「ルナはおるか?」
「……あ……はい………あたし…だけど……?」
「……ほう……お主がノックスの妹のルナか。兄とは違い、随分に可愛らしいではないか。」
「……へっ……?」
「ちょっとちょっとー?今新しい研究の会議中なんですけどーー?オタクさん、どちらさまーー?」
ルミナは会議を中断され、少々不機嫌そうにレヴィアに迫る。
「妾はレヴィア。ベリアルの姉であり、水龍じゃ。」
「…ふーーん……見てわかるとーり、今とーっても忙しいワ・ケ!扉に札立ててあったでしょーが…んもう全く………って、ん?………すい…りゅう……?」
ルミナはレヴィアを改めて見やると、突如冷や汗を滝のように流した。
「ぎょぇぇええええええ!!!!す、すすす、水龍ーーー!!!?」
「やかましい女じゃのう。ちと黙っておれ。妾はルナに用があるのじゃ。」
目を白黒させて慌てふためくルミナを尻目に、レヴィアはルナの元へとツカツカと歩み寄った。
「お主が発明したというあのトイレ。誠に素晴らしき物であったぞ。」
「……へっ……!?……えっと……は、はい……」
「強いては、お主を妾専属の使用人にさせてやろう。喜ぶがよい。」
「……え…えっと……お断りします…」
「光栄に思うのじゃ。龍族の中でも1、2を争うほど美しいと称された妾の専属の使用人になれるとは、人族にとっては………って……え?」
「…あ、えっと……お断りします。」
「…………妾の……」
「ごめんなさい。」
「………何故じゃ!!………何故貴様ら兄妹は妾の申し出を断るのじゃ!!」
「レ、レヴィア様、落ち着いてください!!」
「そんな上からじゃ誰だって嫌がりますよぉ!」
「…………おのれ…………!!……妾に恥をかかせるとはさすがは兄妹…………血は争えぬようじゃな……!!」
睨みつけるレヴィアとは裏腹に、『さすがは兄妹』と言われたルナは少し嬉しそうな表情を浮かべていた。




