ノックス v.s 謎の女
「……ええぇぇぇええええええ!!!!?」
「何を驚いたフリをしておる。妾を見つけたからこそ、かような魔術を撃ち放ってきたのであろう。」
「……なんだアイン……一体どういう……って、えぇぇぇ!!!?誰!!!!?」
様子を見に来たリドルも謎の女の姿を見て驚いた。
その様子に他にも訓練を受けていた兵が集まるが、謎の女は自身の身体を隠すでもなく堂々としていた。
「アインというのか。では早速、妾が相手してやろう。」
「ちょ、ちょちょちょちょ!!ちょい待ち!!潜んでたとか知らなかったんッス!!」
「では何故妾に向け、かような魔術を撃ち放ったのじゃ。」
「そ、それは皆が見たいって言うから…その……」
「フン。他人のせいにするとは臆病な奴じゃ。」
「違うんッス!!本当なんッス!!……ってか、服!!せめて服着てッス!!」
赤面し、腰を抜かしたアインの元へ女が歩み、アインの顔の前で仁王立ちして見下ろしていた。
アインの目の前には女の局部があり、堪えきれずに鼻血を噴き出した。
「……なんじゃ?妾はまだ攻撃しておらんというのに……」
「お、お前、何者だ!!?どうやってここに来た!!」
アインに代わってリドルが女に質問する。
「どうやってと言われても、海からに決まっておろうが。弟がここにおるはずじゃ。」
「…お…弟……?」
「………一体何の騒ぎなの………って……え……裸……!?」
マイナらも集まり、一先ず女にタオルを投げ渡して身体に巻かせた。
「………それで………一体この国に何の用?」
「弟がここにおるはずじゃ。何故貴様らと仲良く暮らしておるのか、気になって来てみただけだったのじゃが、不躾にもいきなり攻撃を仕掛けられたからのう。」
「……だ……だから、それは違うんッス………」
「フン。あれ程の高威力の魔術をただ撃ってみただけなど、言い訳にも程があるぞ。」
「……本当なのに………」
「…アインさん……」
「……先生………かっこ悪い………」
「さて、話はもう終いじゃ。アイン、覚悟するがよいわ。」
謎の女が有無も言わさず魔力を練り上げ、アインに向けて手を翳す。
手のひらから水の玉が現れたかと思いきや、その玉の一箇所から水が途轍もない勢いで噴出する。
噴出したそれはウォータージェットの如く、レーザーのように砂浜を切りながらアインに迫る。
「ひえぇ!!!!」
すんでのところでアインは避けたが、ウォータージェットはアインを追尾し続ける。
女は水球を上空にいくつも出現させ、さらにウォータージェットの量を増やしてアインを追尾させていた。
「止めろ!!これ以上するならば……!!」
リドルらが臨戦態勢に移行しようとした瞬間、女を中心に深い霧が立ち込める。
「邪魔をするで無い。」
発生した濃霧により完全に女の姿が消えてしまう。
女は霧の範囲を拡大させ、逃げ惑うアインをも包み込んだ。
霧により視界を奪われたアインは、どこから来るかも分からないウォータージェットに警戒しつつ、『動きを止めれば死ぬ』と涙目になりながらも必死に逃げ惑っていた。
が、霧の中から女が突如現れたかと思いきや、アインの足を払って転倒させた。
「終いじゃ。」
アインの顔の前で水球が現れ、一点から水が射出された。
アインはすぐさま魔障壁を展開させたものの、幾重にも重ねた魔障壁はウォータージェットの前に為す術なく貫かれていった。
最後の魔障壁を貫いたウォータージェットがアインに迫ろうかとしたその時、アインは何者かに首根っこを掴まれて投げ飛ばされ、難を逃れた。
「……何奴じゃ。妾の邪魔をするとは。」
「貴様こそ何者だ。俺の大事な部下を手にかけようとするとは、覚悟は出来ているのだな。」
「………ノ…………ノ…………ノックス様ぁぁぁぁあああああ!!!!」
投げ飛ばされたアインは、ノックスによって助けられたと自覚するや、助けられた感謝の気持ちが昂ってノックスの足にしがみついた。
「この痴女!!いきなり海からやってきたんッスよ!!俺が違うって言ってるのに殺そうとしてきたって聞かないんッス!!」
「……痴女とはなんじゃ?」
「恥を知れ!!ッス。ノックス様、こんな奴やっつけちゃってくださいッスー!!」
「フン。其奴を庇おうとするならば貴様も妾の敵じゃ。」
ノックスが乗ってきたフライトボードからノアがぴょんと飛び出し、アインの隣に駆け寄った。
「ノアちゃぁぁん!!俺の事心配して来てくれたんッスねぇぇ!!……いてっ!」
アインがノアに抱きつこうとしたが、ノアは猫パンチでアインの頬を殴っていた。
女は再度水球をいくつも出現させると、ノックスに向けてウォータージェットを噴出させた。
「…ウォータージェット、か。」
躱しつつ女の魔術を分析したノックス。
女は再度深い霧を立ち込めさせ、ノックスの視界を奪いにかかる。
複数のウォータージェットに囲まれ、やがてそれが収束し、ノックスを直撃した。
「フン。他愛無い。さて、次は貴様の番じゃ。」
「勝手に終わらせるな。」
「……何……?」
女がノックスを見やるとノックスは自身の周囲に水を張り巡らせていた。
「妾の魔術をそれで防いだというのか…!?」
「水には水だ。」
「…小癪な……ならばこれならどうじゃ!!」
女は再度濃霧を発生させ、ノックスの視界を奪う。
その中から女が突如現れてはノックスに襲いかかるも、ノックスは一閃し薙ぎ払った。
が、ノックスが斬ったそれは本体ではなく、水で精巧に作られた分身体であった。
分身体は斬られると弾け、水が飛び散る。
咄嗟に魔障壁を展開させたが、飛び散った水は魔障壁を溶かした。
どうやら酸の水のようである。
『妾に楯突いた事、万死に値する。』
霧の中から女の声が反響する。
その声とともにいくつもの分身体がノックスに襲いかかった。
ノックスが俊足で移動しても尚、分身体は補足し続ける。
魔素濃度の濃い霧により、感知スキルでは女の居所でさえ掴めない。
更には分身体だけでなく、水球からのウォータージェットまで時折飛んでくる。
仮に女の居所が分かったとて、砂粒縛では捕らえられない。
なぜならば、これほどの濃霧であれば、空気中に舞わせた砂粒に霧が付着し、思ったように操ることが出来ないためだ。
ノックスはふぅ、と息を吐き、そして唱えた。
「焼き尽くせ!」
ノックスの手のひらから小さな火球が発生し、それを上空へと放り投げた。
途端に火球が膨れ上がったかと思うと、途轍もない高温により上空にあった水球が一瞬にして蒸発した。
「切り刻め!!」
更にノックスは自身を中心に竜巻を発生させ、周囲にいた分身体を切り刻む。
攻撃を受けた分身体は即座に破裂するも、竜巻は水飛沫ごと巻き上げていき、周囲の霧をかき消した。
『無駄な事じゃ。妾の魔術を侮るでないわ!』
女は再度濃霧を発生させたものの、女にとってそれは命取りでしか無かった。
ノックスは大地を蹴り、目にも止まらぬ速度で女のいる場所に当たりを付け、風魔術で斬撃を飛ばした。
『……小癪な……!!』
女は飛んできた斬撃を躱したものの、その斬撃から途端に風が巻き起こり、周囲の霧を吹き飛ばした。
『……なっ……!!?』
女の視界には、すでにノックスが眼前まで迫ってきており、空中で身動きの取れない女は為す術なくノックスの刀にて腹を刺し貫かれた。