v.s リッチ
「クソっ!!何体いやがんだ!!」
『助けでぐれぇぇええ……』
『…何で俺たぢを…殺そうとずるんだぁぁああ………』
「うるせぇ!!てめぇらはもう死んでんだ!!文句ならリッチのクソ野郎にでも言いやがれ!!」
シリュウは悪態を付きながらも群がるアンデッドを次々になぎ倒す。
メローネは上空から支援攻撃を行いつつ、上空からリッチの所在を確認する。
「村の中央付近!!あの時計塔の近くにリッチがいるヨ!!」
「みんな聞いたか!!さっさと道をこじ開けんぞ!!」
歩兵部隊がアグロス村を進みつつ、弓兵らは丘から狙撃していく。
その後は魔道兵により次々に浄化し、アンデッドを無力化してゆく。
「…なんて数だ……!!」
当初は400体ほどのアンデッドであろうと考えていたが、リッチはその後もモンスターや動物にまで暗黒魔術で配下にし、それを増やしていたらしく、その数は1000をも超えている。
「そこ!!やべーッスよ!!マイナ!!」
「了解よ!!……ってか、アンタも魔力出力抑えて攻撃しなさいよ!!」
「小言は後ッス!!口より手ッス!!手を動かすんッス!!」
「分かってるわよ!!」
「ケンカしてる場合じゃないですよ2人とも!!」
範囲攻撃にはアイン、局所攻撃にはマイナ、浄化はモズと役割分担をし、3人でアンデッドを次から次へと無力化させる。
ハイゼルは『分身』を使用し、群がるアンデッドを多方向から斬り伏せ、浄化を施す。
更にはホークと連携し、アンデッドを一点にかき集めたのちにハイゼルが分身体と共に一斉に斬りかかって無力化させた。
「……にしても……ホント数が多いねぇ……」
「ホーク!あまり魔力を消費しすぎるなよ!」
「あいよ。ノエルは大丈夫かねぇ。」
「奴なら遅れは取るまい。まずはこのアンデッドらに集中だ!!」
「了解、と。」
ノエルは体制を低くし、『浄化』を双剣に付与させ、アンデッドらの隙間をするりするりと縫うように移動しては無力化させる。
アステル島に初めて訪れた際、ジャングルでの戦闘経験がここでも発揮されたようだ。
同じくロザリオ、ザリーナもノエルに続き『浄化』を付与させ、群がるアンデッドを尽く無力化させてゆく。
「……さすがはザリーナ女史。腕が鈍るどころかさらに洗練されているね。」
「無駄口を叩くな!今はアンデッドに集中しろ!」
「それもそうだね。ノエル君、いけるかい?」
「無論だ!」
「じゃあこのままいくよ!!」
ノエルとロザリオ、ザリーナは群がるアンデッドを蹴散らしつつ、リッチのいる村中央を目指す。
当初は耐え難い腐敗臭も、すでに鼻が麻痺しているのかあまり気にもならなくなっていた。
討伐隊の活躍により、当初1000はいたであろうアンデッドは、その数を半分以下にまで減らした。
何十、何百とアンデッドを無力化させていたノエルらであったが、ようやくリッチのいる村中央付近へと近づく。
「そこから先、100メートルほどにリッチがいるヨ!!」
「了解だメローネ殿!助かる!!2人も聞いたな!!」
「あぁ!」
「皆の者!!これより100メートル先にてリッチがいる!!これより不用意に近づくな!!」
メローネが上空からリッチにあまり近づきすぎないようノエルに向けて注意を促す。
まずは周囲のアンデッドを蹴散らすため、討伐隊は村の外周から中央付近へとアンデッドを追いやる。
追いやられたアンデッドらはわらわらと中央付近へと押し固められ、やがてメローネから合図とばかりに火魔術が上空に打ち上げられた。
それを確認した魔道部隊が、固まったアンデッドらに向けて広域範囲の浄化魔術を使用する。
上空から降り注ぐ広域浄化魔術は、やがてアンデッドの軍勢に襲いかかり、忽ちアンデッドらは無力化されてゆく。
何体かのアンデッドは魔障壁を展開させ防ぎにかかるも、浄化魔術の威力の前には無意味に終わる。
広域浄化魔術により、アグロス村にいたアンデッドのほとんどが無力化され、地面にと平伏した。
とはいえこちらの軍勢も無傷という訳にはいかず、30名余りの死者が出ていた。
見晴らしが良くなり、ようやくリッチの姿を拝む事ができた。
全身が骨、という点で言えば他のスケルトンと変わりは無いが、ボロ布のフードを被り、身体が宙に浮いている。
手には錫杖を持っていたが、人骨を繋ぎ合わせた不気味な形状となっていた。
リッチは討伐隊に囲まれながらも、カカカカと笑うかのように顎を動かしていた。
「弓兵!!一斉射撃を!!」
ロザリオの合図と共に弓兵から無数の矢が放たれる。
リッチはそれら全て魔障壁にて防いだが、その間に歩兵部隊が距離を詰める。
ノエル、ロザリオ、ザリーナは俊足を活かして一気にリッチの間合いに踏み込む。
3人が連携しリッチを攻撃したが、リッチの魔障壁はヒビ1つ入らない。
弓兵の矢が降り注ぐ瞬間に3人は距離を取り、計画通りにリッチに反撃の隙を与えない。
3人に入れ替わって次はハイゼルが分身体でリッチに斬りかかる。
その間に魔道部隊が魔力を練り上げ、範囲を絞って広域浄化魔術の準備をする。
だが、リッチは突如魔障壁を解除したかと思うと、自身を中心に風魔術を行使し、斬りかかっていたハイゼルの分身体を一瞬でバラバラに切り刻んだ。
リッチは浄化が付与された矢が何本も直撃していたはずだが、一切怯むこともなくハイゼルの分身体を切り刻んだのだ。
「……効いていない……!?」
「奴の魔術に気をつけろ!!」
「弓兵!!構うことなく撃ち続けろ!!」
ザリーナの命令により弓兵から何度も矢が射られる。
リッチはもはや弓兵からの矢に魔障壁すら展開する様子もない。
ザリーナは魔力を練り上げ、直接リッチに浄化魔術を撃ち放った。
リッチは上空へと舞い上がり、その攻撃を躱しつつ、眼下にいる討伐隊らを一瞥する。
「まずい!!奴を引きずりおろせ!!」
弓兵が上空にいるリッチに向けて再度矢が放たれるが、気にも留めずにリッチは魔力を練り上げる。
ロザリオやザリーナも浄化魔術を撃ち放つが、上空にいるリッチに届かずに魔術は残滓となって消えてゆく。
リッチの目がギラリと光り、まさに魔術を解き放たんとするその時だった。
「俺の事、忘れないでほしいねぇ。」
ホークが『交換』を使用し、リッチとアンデッドの場所を交換させ、リッチが大地へと突如現れる。
リッチの魔術はそのまま大地へと放たれ、すんでのところで討伐隊に魔術が降り注ぐ事態は防がれた。
リッチが解き放った魔術により、大地が蠢き、やがて砂にと変わった。
「……大地を崩壊させたのか……!?……あれを喰らっていたらと思うと……」
「感想は後だ!!再度上空に逃げられる前に、少しでもダメージを与えるぞ!!」
ザリーナが声をあげたその時、リッチに多数の氷の槍が降り注いだ。
本来スケルトンのリッチには、『浄化』を付与させなければ何度でも復活してしまうため、浄化以外の魔術で攻撃したところで意味は無い。
リッチもそれを分かっているのか、降り注ぐ氷の槍に魔障壁すら展開せず、いい様に攻撃を貰い受けるばかりであった。
だがしかし、氷の槍で貫かれた身体を再生するため、リッチの動きを封じることには成功している。
鬱陶しく思ったのかリッチは頭上に魔障壁を張り、降り注ぐ氷の槍を防ぐ。
そこへ、ドンピシャのタイミングでアインから特大の火魔術が撃ち込まれ、リッチに直撃した。
「ぃよしっ!!マイナ、タイミング完璧ッスよ!!」
アインの火魔術を直撃したリッチはバラバラに砕け散ったが、すぐさま再生するために骨が寄り集まる。
「まだよ!!モズ!!」
「はい!!」
リッチが再生し切る前に、モズがリッチ目掛けて浄化魔術を撃ち放つ。
「皆さんも!!今です!!」
モズの掛け声を皮切りに、魔道部隊が広域浄化魔術をリッチに撃ち放ち、リッチは為す術なく浄化により無力化された。




