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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第21章 リッチ討伐派遣
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v.s アンデッド

 アグロス村へと向かう先発隊らの道中は、分かっていたが決して楽な道のりでは無かった。



 前線基地から離れると次第に腐臭が鼻につき始め、次第に敵影がチラホラ見えて戦闘が開始されていた。



 アンデッドとはいえ元は人間であり、死後まもなくアンデッドにさせられ、まだ声帯が残っているアンデッドは口々に「痛い」「苦しい」「助けて」と呻くような声を発していた。


 とはいえ彼らは既にリッチの配下にあり、否応無く討伐隊への戦闘を強制させられている。



 当初は『たかがアンデッド。浄化ですぐに死ぬ雑魚モンスター』と侮っていた者も多くいたが、その考えは即座に吹き飛んだ。



 肉が裂け、食い破られた腹からは腸が垂れ下がり、砕かれた頭骨からは脳が露出。さらにはとてつもない腐敗臭。


 人間であった頃の記憶が多く残っているのか、攻撃仕掛ける冒険者らに発する怨嗟の声。



 甘く見ていた冒険者の中には攻撃を躊躇し、懐から忍び寄っていた別のアンデッドの餌食になる者さえいたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その頃、後発隊として出発したノエルらは、先発隊らが倒したアンデッドを燃やして周りつつ生存者がいないかの捜索を行っていた。



 とんでもない腐敗臭にモズ、マイナ、ホークらは顔を青ざめ、アンデッドを燃やしては吐く、を繰り返していた。



「……君たちは平然としているね。こういうのに慣れているのかい?」



 死体と悪臭にやや顔を顰めながらも作業に没頭していたアインに対してロザリオが突然質問を投げかけた。



「……こんなの慣れてるわけ無いッス……ただ、これより酷い悪臭とか…グロいのとか…そうゆうの見て耐性がちょっとだけあるってだけッスよ……」



 それは、ルミナの家の悪臭と、ウィンディア兵が生きながらにモンスターに捕食されている光景の事であった。


 その経験が無ければ、ノエルはともかくアインも同じように吐いていただろう。



「……ふぅん……でもこの様子だと、先発隊はかなり厳しいかもしれないな。」


「……どういうことッスか……?」


「ここらにいるアンデッドは全てここの住人だったんだ。悪臭に加えてこの見た目だけでもかなりキツいのに、死んでまもなくアンデッドにされたのなら声も発するだろうね。」


「……声………?」


「人間だったころの、さ。」


「………もしかして、それ分かってて後発隊になったんッスか?」


「……言っちゃあ悪いけど、それもあるかもね。今回集まった討伐隊のほとんどは、ハッキリ言って烏合の衆さ。

 僕らの目的はリッチの討伐。それまで僕らは戦闘を回避し、温存しておくのがベストだと思ってね。」


「……そのために………!」



 反論しようとしたアインだったが、それ以上言葉が出なかった。


 ロザリオの言う通り、集まった討伐隊は寄せ集めであり、作戦内容について理解はしているが、連携に関しては不安が残る。


 これほどの惨状で自分たちの精神をすり減らすより、リッチ戦ではあまり期待できない討伐隊に任せたほうが効率はいいのだろう。



 それでも、とアインは思っているが、結局それを言葉に出来ずにいた。



「ともかく、元凶のリッチを倒してしまえば、こんな悲劇は終わりだ。早く彼らを楽にしてあげるためにも、僕らがなんとしてもリッチを倒さないといけないね。」



 軽々しく言い放ったロザリオであったが、その言葉遣いとは裏腹に、ロザリオの目は真剣そのものであった。



「……そういや……あんたは一人でここに来たんッスか?」


「……ん?……そうだけど……?…………あぁ、なるほどね。安心していいよ。前にも言った通り、影から僕の仲間がこっそり君たちを襲ったり、なんて卑怯な真似はしないからさ。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 アンデッドの処理、生存者の捜索を行いながらもアグロス村へと歩を進める。


 死体の中には見た事のある者の顔があり、よく確認するとリッチ討伐に集まっていた冒険者の変わり果てた姿であった。



 その数がアグロス村へと近づくにつれ1人、また1人と数を増やしていく。



 夥しい数の死体の山々。



 あまりの腐敗臭に一行は布を顔に当てがいながら進んでいたが、街道の先には先発隊らが今まさに戦闘している姿が見え始めた。



「……あ……あれは……先発隊の方々でしょうか……?」


「そのようだな。日も落ちてきたし、彼らと合流してこの辺りで前線を張るか?」


「…………………」


「おい、聞いているのか?」



 ロザリオに確認したノエルだったが、ロザリオは手を顎に(かざ)して何やら考え事をしていた。



「……あぁ、すまない。考え事をしていてね。そうだね、サンドラ女史、アグロス村まで後どのくらいかな?」


「…ここからなら、あと半日はかかるかと。」


「……半日、か。じゃあちょうどいいかもしれない。僕らも彼らと混ざり、アンデッドを駆逐してこの辺りで前線を張ろうか。」



 一行は早速戦闘中の先発隊に加わり、群がるアンデッドらの掃討にかかる。



「喰らえぇ!!」



 アインがアンデッドの集団に向け火魔術で焼き払おうとした時だった。



『……なぜ……おれだちを傷つけるんだ……』


『……お願い……この子だけは助げで………』


『…痛いよう……ママ……パパ………どこ………』



 アンデッドらの悲痛な叫びでアインは魔術を躊躇う。


 それはモズも同じであった。



「何してるんだ!!」



 ロザリオがそんなアインらに喝を入れつつ、変わってアンデッドに浄化を付与した剣で切り伏せる。


 それによりたちまちアンデッドから魂が抜け始めるが、その際にも悲痛な断末魔をあげていた。



『……死にだくないよぉ………死にだ……く…………』


『……どうして……………』



 そんなアンデッドらを見て尻込みしていた所へ、再度ロザリオが叱責した。



「正気を持て!!彼らを早く楽にしてあげろ!!これ以上彼らを苦しめるんじゃない!!!!」



 倒しても倒しても次々に迫り来るアンデッドを見て、アインは震える手を握りしめる。



「……くそ…………ちくしょぉぉぉおおおおお!!」



 アインは魔力を一瞬で練り上げ、迫りくるアンデッドらに向けて火魔術を行使し、アンデッドらは炎に巻かれて一瞬で炭と化した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……ふぅぅ……なんとか落ち着いたッスね……みんな、大丈夫ッス……か………?」



 先発隊は皆憔悴仕切っており、たったの数時間でかなり(やつ)れた表情と変わり果てていた。



「……皆、ご苦労さま。とりあえずはここで先陣を張るよ。ケガ人はいるかな?」



 いつもならロザリオの姿を見てははしゃぐ女性冒険者だったが、全員項垂れている。


 質問に答える気力も無いのか、皆その場にへたりこんでいた。


 仕方なくモズは見える限りケガ人の治療をして回り、その間にノエルらは野営を敷いていた。



「……ひ……ひひひひ………あ、あたし………人……殺しちゃった………いひひひひひ……」


「………やめろ………俺は悪くない………もうやめてくれ………来るな……来るなぁぁあああ!!!!」



 先発隊の中にはアンデッドとの戦闘で精神を病んでしまったものも少なからず存在した。


 それも無理もない事だろう。


 ここまで戦闘してきたアンデッドは皆、元は善良な一般市民であり、死後まもなく暗黒魔術により生き返らせたために、言葉を発するのだ。



 『痛い』『苦しい』『助けて』


 それだけならまだしも、中には『なぜ俺たちを殺そうとするんだ』『…おかあちゃん……暗いよ……怖いよ……』など、悲痛な叫び声をあげる者までいたのだ。



「……あなた方はここで休んでいてください。まもなくラヴィーナ兵が到着しますので、離脱者は速やかにこの地域から離脱し、本国へとお戻りください。」



 サンドラの呼び掛けには誰も反応する者がいなかった。


 当初117名いた討伐隊は、すでにその数を84名と減らし、重傷者や精神が崩壊した者などを省き、戦闘できる者は60名ほどしか残っていなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 野営の設営が終わり、皆はテントで休まっている中、後発隊らはその野営の護衛として見張りをしていた。



 皆が野営の設営をしている最中、ロザリオとノエル、ハイゼルは積極的に近くのアンデッドを討伐してくれていたため、周囲にはアンデッドらしき気配は感じられなかった。



 大地に染み付いた腐敗臭はルミナが作っていた消臭剤を撒き、幾分かはマシにはなったものの、時折風で運ばれてくる悪臭が相変わらず鼻についた。



「……さっきはその……ありがとッス……」



 1人見張りをしていたロザリオの元へアインが訪れ、先程の叱責について感謝した。



「……アンデッドと戦うのなんて誰もが初めてのことだから仕方ないさ。なまじ声を発するおかげで、こちらの精神を削ってくる。

 無抵抗な市民を虐殺して気分が高揚する者ならいざ知らず、その点キミたちはまともだということだよ。」


「………なんか………意外ッスね………」


「……何がだい?」


「……12使徒ん中にも、あんたみたいにまともそうなの、って事ッス。」


「はははっ。まともかどうかはともかく、12使徒はみんな個性的な人が多いからね。まぁ、キミたち魔族からすれば、12使徒全員敵なんだろうけど。

 ……ただ、あまり僕と仲良くしないほうがいい。お互いのためにもね。」


「……別に仲良くなりたい訳じゃないッスよ!さっきは躊躇したけど、もう覚悟を決めたッス。」


「うん。それなら僕も安心だ。次は期待してるよ。」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……大丈夫か?モズ?」



 野営の見張りをしていたモズは、先の光景のせいでやや塞ぎ込んでいた。


 それを心配してか、ノエルがモズへと話しかける。



「……大丈夫………なハズなんですけど…………分かっていたつもり…だったんですけど………やっぱり、心に来ます………」


「……どうせなら声を発さない、理性の欠けらも無いモンスター相手のほうが幾分かは楽かもしれない。」


「……ノエルは凄いですよ。あたしなんて、怖くて……怖くて…………どうしてノエルは彼らを躊躇いもなく殺せるんですか……?」


「………殺したくて殺しているわけじゃない。そうしなければ、俺たちだけじゃなく更に犠牲を生み出すことになる。

 だからせめて、俺の手で彼らを止めなければならない。

 ………そう、思ったからだ。」


「………うん………」


「だからこそ、今俺の中に渦巻いているのは怒りだ。なんの罪もない一般人を殺しただけではなく、暗黒魔術で蘇らせ、挙句には奴隷の如く言いなりにさせている。

 この始末は必ずリッチにつけさせてもらう。

 モズにそのサポート、頼めるか?」


「…………分かりました…………!!必ず、リッチを倒します!!」

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