12使徒 ロザリオ
「教会からも使者が!!?」
「…ご安心ください。彼らがあなた方に危害を加えないよう忠告しております。
………ですが、どうぞお気を付けください。この国にいる限りは安全を保証いたしますが、討伐に向かわれた後に関して、教会があなた方に危害を加える可能性は、決して0ではありません。」
「………なぜ教会の者が………?」
「私共評議会議員の中には、教会寄りの考えを持つ者もいるのです。あなた方には面白くない話でしょうが。」
「……奴らが襲いかかってきた際、我々が彼らを返り討ちにしても良いのでしょうか?」
「当然です。ですが、決して彼には気を許さないようにお気を付けください。
では、長旅でお疲れでしょう。今日は私が用意した宿にて十分休息を取ってください。
明日の朝にサンドラが呼びに来ますので、議事堂へまたお越しいただき、そこで作戦についてお話させていただきます。」
その後、ヒルダの案内により宿へと案内された。
豪華、とはいかないものの、古くからある趣深い宿であった。
サンドラたちはそのままヒルダと共に議事堂へと向かうため離脱し、ノエルらは一先ず宿にて休息を取ることとした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明朝、サンドラが宿を訪れ、ノエルらは再度議事堂へと集められた。
そこには各地から募られた冒険者らも大勢おり、リッチの討伐に息巻いているようである。
中にはノエルら魔族を見て警戒する者もいたが、サンドラが間に入ってくれたおかげで一触即発という事態にはならなかった。
集まった討伐隊らにヒルダが挨拶をし、今回の作戦についての説明が始まった。
「皆さん、まずはこうしてお集まり頂いて誠に感謝致します。
皆さん知っての通り、我が国は現在、リッチという災害級のモンスターが突如現れ、多数の犠牲者を出してしまっております。
皆さんにこのリッチを討伐して頂くために、今回の作戦についてお話させていただきます。」
作戦内容としては以下の通りである。
リッチは現在アグロス村に居座り、そこで拠点を構えている。
まず、弓兵部隊に浄化を付与し、拠点周辺にいるアンデッドを四方から無力化させる。
アンデッドらの注意を引き付けたところで、魔道部隊が広範囲に浄化魔法を使用し、アンデッドの数を一気に減らす。
ただし、リッチに関しては並の浄化は効かない。
特にリッチが使用する魔術はどれも危険かつ防御も難しいであろうことから、過去に現れたリッチ討伐のマニュアルに沿って戦闘を行う。
リッチも他アンデッドと同様、HPやMP、スタミナといった概念が存在しない。
ただし、だからと言って魔法が延々と撃たれ続ける訳ではない。
規模の大きい魔法を何度も立て続けに使用すれば、多少のインターバルが必要となる。
まず、弓兵が遠距離でリッチに攻撃を仕掛ける。
魔障壁により全て無効化されるが、この目的は『リッチに攻撃魔術を使用する隙を与えない』こと。
絶え間なく弓で攻撃し続け、合間に歩兵部隊がリッチに向け攻撃を行う。
リッチの魔術に操られた者はすぐさま気付け薬を使用し正常に戻し、すぐリッチの戦闘に復帰させる。
これらは全て時間稼ぎである。
魔道部隊はその間に魔力を集中させ、『大いなる恵み』と呼ばれる特大の浄化魔法を使用し、リッチを浄化せしめよう、というのだ。
その際、歩兵部隊はリッチがいつ高威力の魔術を使用してくるか分からないため、最悪の場合それを受けて死亡してしまうリスクが生じる。
大事なのは弓兵と歩兵が連携し、リッチに反撃の隙を与えずに絶えず攻撃し続ける必要がある。
というのがリッチ討伐の為のマニュアルであった。
「本当にそれだけでリッチが倒せるんだろうな!?」
「魔道士の魔術が効かなきゃ無駄じゃないの!?」
「操られたら気付け薬って、それをどうやって判断するんだ!」
冒険者らからたくさんの質問が飛び交う。
ヒルダはその質問一つ一つに丁寧に受け答えはしたものの、冒険者らにとって満足のいく答えを得られなかったことで、議論が加熱していた。
「諸君、落ち着きたまえ!」
1人の青年が声を張り上げ、壇上へと登り出た。
青い髪を靡かせた好青年風の男であったが、胸元にちらりと見える聖印にノエルらは顔を険しくする。
「いきなりすまないね。僕はサンドアルバ教会12使徒のロザリオだ。今回リッチが現れたという事で、教会から派遣されて来たんだ。」
「12使徒が!?」
「……え……待って……ロザリオ様……!?本物…!!?」
ロザリオを見た女性冒険者たちが沸き立つ。
ロザリオはそれを制して話を続けた。
「リッチを倒すにはマニュアルに従うのも一つだと思うけど、皆が思う不安も分かるんだ。だから、歩兵戦でリッチと戦闘するのは、相当に場馴れしている者が適任だと思うんだ。
それ以外の歩兵部隊は他のアンデッドの討伐に当たってくれないかな?」
「……っつうことは、アンタがリッチと戦うっつうのか?」
「そ、そんな!ならあたしもロザリオ様と…!!」
「待って待って。さすがにキミたちをそんな危険な役回りにはできないし、僕一人じゃさすがにリッチ一体は相手にできない。
だからさ……あなた方に協力を求めようって思うんだ。」
そう言ったロザリオは徐にノエルらを見つめ、それに促され皆も一斉に振り返ってノエルらを見つめた。
「……………」
「……ぅえっ!?お、俺らッスか……!?」
戸惑う一行に注目が集まったが、討伐隊の中にはヒソヒソと話し声が聞こえる。
「キミたちなら、リッチ相手でもそう不覚を取ることは無いと思うんだけど、どうかな?」
「……いいだろう。」
「ちょ!ノエル!?」
「私たちを後ろから襲うための口実かもしれないんですよ…!?」
「ははは。そんな事しないさ。リッチ討伐のために、一旦教会と魔族の因縁は忘れようじゃないか。」
「…おいおい、そんな魔族どもが俺らより強いって言いてぇのか!?」
「うん。彼らはここにいる皆より遥かに強いと思うよ。何より、彼らを率いている男はアステル島にいた火龍を倒したほどなんだからね。」
「……なに………火龍を………!?」
「もし彼らの実力が信じられないなら、直接対決したっていいじゃないか。ま、結果は火を見るより明らかだけどね。」
ロザリオから語られた話が衝撃的すぎたのか、不満そうにしていた冒険者らは皆口を噤み、場内は静まり返っていた。
「よし!ならそれでいこう!よろしくね!……と、その前に名前を聞いてもいいかな?」
「………ノエルだ。」
「…アインッス。」
「………モズ………です……」
「ノエルにアインにモズ、だね。キミたちはマイナにハイゼルにホークだよね。んじゃ、よろしく!」
ロザリオはノエルに握手を求めたが、ノエルはそれを拒むかのよう無言でロザリオを見つめていた。
「………ふぅん。さすがにまだ信用ならない、か。ま、当日はよろしく頼むよ。」
ノエルらを尻目にロザリオは議事堂を後にした。
それを女性冒険者が取り巻きのように後ろから追いかけていた。
「ノエル!あんな奴の言うこと信じちゃって大丈夫なんッスか!?」
「そうです!!絶対何か企んでます…!!」
「落ち着け。奴の提案が尤もだと判断したまで。リッチとの戦闘となれば、奴単騎では勝てんと判断したんだろう。」
「んまぁ、俺らも教会を裏切った処刑対象だろうねぇ。いくらロザリオが強くとも、ここにいる6人全員を相手にするのは、いくらなんでも不可能じゃないかな。」
「いざとなれば俺の『分身』やホークの『交換』がある。だが、伏兵が潜んでいるかもしれん。」
「それでも、彼の魂胆はとにかく、12使徒が協力してくれるなら戦力として心強いわ。」
「あぁ。なので奴の提案は受けつつ、こちらは予備の作戦を考える。」
「では、リッチ討伐に向かわれる方は馬車へご乗車ください!」
議事堂前にはずらりと馬車が並んでおり、ノエルらは会話を中断して早速馬車へと乗り込んだ。