コリンたちの選抜試験6
試験もいよいよ残りわずか。
ミラがリタイアとなってしまったコリンたちであったが、『もう仲間を失わせない』という決意により、そのお陰か一段と逞しい顔つきとなっていた。
あれからもブラックグリズリーらを罠に掛け、何頭も仕留める事に成功していた。
と言うよりも、何頭ものブラックグリズリーを仕留めたことにより、コリンらのレベルが急上昇し、すでに3人とも100を超えるレベルまで成長していた。
おかげで3対1という状況なら罠を使用せずとも自分たちの武器でブラックグリズリーを倒すことすらできるようにまでなっていたのだ。
積極的にブラックグリズリーを倒していたおかげでコリンたちの食料は潤沢に存在しており、むしろ多すぎて困る程にまでなっていた。
逆に、コリンらとは違って出入口付近で屯していた参加者らは、当然食料問題に直面し、参加者同士で食料を奪い合うという惨憺たる状況と化していた。
それで一時的に空腹を凌いだ参加者はいたが、結果として出入口付近で陣を張っていた参加者は全員脱落となった。
理由は、『タダでメシが食える』と味をしめたブラックグリズリーに再度襲撃に遭ったのだ。
奪い合った食料のせいでブラックグリズリーに与える食料は満足のいく量では無く、モンスターに立ち向かう術を放棄した参加者らは、ただブラックグリズリーらのエサになるしか無かったのだ。
早々にリタイアの救援信号を発信し、近くにいたスケルトンらによって救難され、死者こそ出なかったが全員脱落となってしまった。
現在残っている参加者は皆出入口付近から離れ、積極的に狩りを行っている参加者だけとなっている。
終了まであと数分となり、1週間とは言え長かったサバイバルが終わりを迎えようとしており、コリンらはこの第2試験について振り返りを行っていた。
「……ようやっとこの試験も終わり、か。」
「まだ完全に終わったわけじゃないわよコリン。気を抜くのは早いわ。」
「…そうだね。」
「なんにしてもまあ、振り返ればあっという間の1週間だったねえ。このサバイバルのおかげで、レベルが一気に100以上も上がったし。」
「アイザックはまだモテるために王国兵を目指すのか?」
「トーゼンだろ?………っと言いたいとこだけど、色々と気付かされちゃったからね。」
「……うん。僕らは王国兵になる以上、楽な道を選んでいちゃいけないんだってね。」
「………それもだけどさ……」
「ん?何だよアイザック?」
「俺はカッコイイ男になるって決めたのさ。」
「……なんだよそれ?」
「ほっとけ。」
「2人とも、お喋りはその辺にして、終了までもうすぐよ。最後まで気を抜かないで。」
「へいへい。」
やがて、終了を知らせる合図が鳴り響き、厳しくも辛い第2試験が終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
生き残った参加者らは一度その足で王城へと向かい、大広間に集められた。
当初第1試験を受ける前にはここには300人以上もの参加者で溢れていたにも関わらず、今となっては30人しか残っていなかった。
誰も彼も感覚が研ぎ澄まされ、目付きが戦士そのものと化している。
その中に見知った顔の者がおり、コリンたちを見つけるや否や早速話しかけてきた。
「ほほう…?テメェらみてぇなガキが第2試験を突破するたぁなあ。」
それは何かにつけて絡んできた荒くれ冒険者のコンラッドであった。
前に会った時と同じく、お供に2人の男女もいたが、前とは違って顔つきが険しく歴戦を耐え抜いた戦士のそれであった。
「……それにしても1人足りねえなぁ。もしかしてモンスターにでも食われちまったか?」
「……黙れ…!ミラは生きている!!」
「てこたぁリタイアしちまった訳か……テメェらの事だから、てっきり出入口付近で屯していた連中同様、全員リタイアしたと思ったんだがなぁ。」
「……………」
「……フンッ!まあいい。じゃあな。」
コンラッドはもっと嫌味でも並べるかと思いきや、意外にもあっさりとコリンらから離れていった。
肩透かしを食らっていたコリンらであったが、コンラッドが去った後にお供の2人がコリンたちに会釈をし、くるりと振り返った時に違和感を感じる。
お供2人のうち、女の魔道士の左腕は、肘から先が無くなっていたのだ。
コンラッドほど荒くれ冒険者であれば仲間をあっさりと見捨て、自分だけが合格するような者だと思っていたコリンらだったが、意外にも面倒見は良いのかもしれないなと感じた。
「皆の者!!整列!!!!」
大広間へと入ってきたリドルとナタリアが入室し、ナタリアは開口一番、皆に号令を掛け整列させ、それを見てリドルが皆に労いの言葉を掛けた。
「えーっと、皆さん。第2試験お疲れ様でした。お疲れでしょうが、まずはノックス様より皆さんにお話があります。」
「ノックス様からの有難いお話だ!耳をすましてよく聞いておくように!」
2人が話終わるとノックスが大広間へと現れ、リドルとナタリアは敬礼して後ろへと下がった。
「皆、ご苦労だった。過酷な環境の中、よく第2試験を突破した。
皆はこれから正式にこのイブリース王国の兵となる。
諸君らには、この国に住む住民の安心と安寧のために尽くしてくれることを切に願う。
……だが、まずは……」
ノックスはそこまで言うと整列していた参加者に歩み寄り、コンラッドのお供にいた女魔道士の前で立ち止まった。
「名は?」
「……は、はい!!私は『ジーナ』と申します!」
「ジーナか。今日までご苦労だった。」
そう言って労ったかと思いきや、ノックスは回復魔術を施し、それにより欠損していた左腕が忽ち元通りに復元された。
ジーナは復元された左腕を見て驚き、わなわなと涙を流した。
「あ……あ………ありがとうございます……!!」
「…ノ…ノックス様……!!ありがとうございます……!!ありがとう…ございます……!!」
ジーナに続いてコンラッドまでもが頭を下げ、ノックスに礼を言っていた。
「他にケガ人は?」
その後もノックスからケガ人に治療が施され、参加者らのケガは完全に回復され、皆感謝の言葉を述べていた。
「…諸君ら30名。それと、もう1人特別枠として合格者がここにいる。」
『特別枠』という言葉に皆不思議そうな顔をしていた。
やがて、大広間の扉が開き、特別枠として合格した者が現れ、コリンらは目を疑った。
「……お……おい………あれって………」
「……え………本当に………」
「……ミラ……!!!!」
コリンらの呼び掛けに対し、ミラは軽く会釈をした。
「この者は残念ながら第2試験はリタイアとなったが、第1試験での筆記試験で類まれなる才能を発揮した。」
「…筆記試験……?」
「諸君らも受けた通り、筆記試験には特別問題という問題を設置していた。あの問題はとても高度な算術を必要とし、ましてや他の問題も全て解きながらその問題まで解くには学者ですら難しい。
あろうことか、このミラはそれら全ての問題を見事に解いてみせた。
残念ながら第2試験は失格となってしまったが、特別枠として彼女の入隊も認めることとする。」
ミラは照れくさそうに顔を赤らめていたが、その顔は自分を認めてくれてどことなく嬉しそうにしていた。
ミラはその後促され、整列しているコリンらの元へとパタパタと走って整列に参加した。
「では後日、諸君らは入隊式典が執り行われ、正式にイブリース王国兵として入隊してもらう。
それまで間、ゆっくりと体を休め、十分に休息を取ってくれ。」
「「「「「「はっ!!!!」」」」」」
「では解散とする!皆の家に後日、入隊式典についての手紙を送る!無くさないように注意しろ!」
ノックスが立ち去ったものの、大広間は入隊の喜びと、ケガが治ったことの喜びで皆騒いでいた。
「ミラ!!ミラ……!!良かった……!!良かった……!!!!」
アテナは堪らずミラに抱きつき喜びを分かち合う。
「……みんな、心配かけてごめんなさい…!」
「……特別問題………ハハッ………解いても点数にもならない、なんて……」
「……ノックス様が仰っていたんです……無駄だと分かりながらも難問に挑戦し、それら見事に解き伏せた私の能力は手放すには惜しすぎるって……」
「あの問題にはそういう意図があったなんて……」
「でも、これであたしたち4人全員、晴れてイブリース王国兵ね!!」
「……はぁ………アテナの言ってた通りってことか………やっぱカッコイイなぁ……」
「ん?アイザック?何か言ったか?」
「……なんでもないさ……」
ミラの入隊も決まったことに大喜びしていた一同にコンラッドが現れ、また何か因縁を付けてくるのではとコリンらは身構えた。
「ハンッ!そう身構えんじゃねえ。テメェら、今日は特別に俺が奢ってやる!付いてきやがれ!」
「……は……え……?」
コリンらは有無も言わされずにコンラッドに付いて行く事となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ほぉん?んなことがあったとぁなぁ……そっちも色々大変だったようだな。」
半ば強引に食事に連れていかれたものの、コンラッドは最初の頃とは態度が変わってコリンらの第2試験の内容について聞いていた。
その際に改めて自己紹介を行うと、コンラッドのお供2人はジーナという女魔道士と、男はフェリックスという名の弓使いであった。
「……そっちこそ……ってかなんで僕らに食事を?」
「最初出会った頃は生ぬるいガキだと思っていたがよ。お互いあんな環境で過ごした、言わば戦友みてぇなもんだ。
顔つきもガラリと変わってやがるしな。」
「んまあタダ飯食わしてもらえてこちらとしては有難いですよ。それに、飯がこんなに美味いなんて、きっとサバイバルしてなきゃ分からなかった。」
「ダハハ!!違ぇねぇ!!」
「……少し聞いても……?」
「ん?なんだ?」
「ジーナさんのケガを治してもらったとき、正直アナタみたいな人がノックス様にお礼を言うなんて思いもしなかったわ。」
「言ってくれるじゃねぇか!!…………まぁ、ジーナのケガはよう……」
コンラッドはジーナがケガを負った経緯について詳しく話した。
コンラッドらは早々に出入口付近から離れ、自身の冒険者の経験を活かしてサバイバル生活を送っていたようだった。
当初はサポートメンバーとしてしか見ていなかったジーナとフェリックスであり、ぶっきらぼうなコンラッドの言われるがままに生活していたそうだ。
しかし、とある時。
コンラッドがちょっとした油断のせいでモンスターから不意打ちを受けかけた時、ジーナが身を呈してコンラッドを庇ったのだ。
聞くと、『あなたは自分なんかよりもっと役に立つから』だそうだ。
左腕はモンスターに噛まれてズタズタになっており、何度もリタイアも考えたが、使い物にならない、治療もできないのならと左腕を切り飛ばしたのだ。
普段ぶっきらぼうなコンラッドであったが、この出来事を機に態度を改めたのだ。
「仲間を見捨てるのは王国兵として……いや、人としてやっちゃなんねぇ。ましてやそれが、俺みてえなゴロツキ風情の男のために一生治んねぇケガまで負ったんだからよ。」
「…それで感謝してたのか……」
「こう見えて、コンラッドさんはいい人なんですよ。普段はそうは見えないんですけどね。」
「役立たずだのなんだの言いながら、最後までこんな私を背負ってくれましたし!」
「て、てめぇら!!余計な事言うんじゃねぇ!!」
「でも、見直したわコンラッド。正直、あんたが同じ王国兵になっただなんてちょっと憂鬱だったけど。」
「ケッ!!小生意気な小娘が!!」
「…改めて、宜しく!コンラッドさん!」
「おうよ!!テメェらも、王国兵としてしょうもねぇことしやがったらタダじゃおかねぇからな!!」
コリンたちは互いの健闘を称えつつ、いつまでも楽しく食事をして賑やかに過ごしていた。