コリンたちの選抜試験4
1夜明け、空が白み始めたころ、森の中を彷徨うコリンらの足元が照らされ始めた。
結局あれから一睡もせず、一行は一言も言葉を発さないままただひたすらに歩き続けていた。
闇に紛れてモンスターが襲ってこないか、常に4人全員が辺りを警戒しながら歩いたせいか、4人とも疲労の色が顔に出ていた。
「……よし、この辺りで一度休息を取ろう。」
皆は黙ってそれに合意し、歩き続けて疲れた体を休めるべく腰を落ち着かせた。
食料問題。
1夜明けたものの、試験はまだまだ続いていく。
更に悪いことに季節は冬。
木の実を収穫して過ごすことにはあまり期待はできない。
ならばモンスターを倒して肉を調達必要があるが、雪が降り積もっているだけでなく、これだけ木が密生している足場の悪い場所で一体どうやってモンスターを狩ればよいのか。
そもそも、ほとんどのモンスターは冬場には冬眠していたりするのではないか。
さまざまな考えがコリンの頭を埋め尽くす。
それはコリンだけでなく他の3人も同じようであった。
「……これから………どうしよう………」
今後の見通しも付かない不安に苛まれ、コリンが皆に聞こえるか聞こえないか程度の声で呟く。
アテナやミラだけでなく、普段飄々としているアイザックですら押し黙ったままだった。
が、アテナがその重い空気を破った。
「……ここでじっと考えあぐねいても仕方ないわ。こうなったら、あたしたち4人でも倒せそうなモンスターを狩るしかない。」
「……って言っても、これだけ木が生い茂っていて、尚且つ雪も積もってるんだぜ?」
「……や、やっぱり他の人たちと固まっていたほうが………」
「それはダメよ。食料の奪い合いに巻き込まれるかもしれない。」
「……ま、順当に考えればリタイアするのも手かもね。モンスターを狩れればいいけど、狩れなくて助けが間に合わないってのが一番最悪なんだし。」
「………それはだめだ………」
小さな声ではあるものの、コリンはリタイアするという案には否定した。
「…どうしてだ?せっかく助けてもらった命を粗末にするもんじゃないんだぜ?」
「それは分かってるよ。でも、もう一度考えて欲しい。僕たちは、何の試験を受けに来たんだ?」
「…………………」
「最初、僕はこの試験を聞いた時、『ノックス様は甘いなぁ』なんて考えてた。
でもそれは違う……甘いのは僕らだ………。
そんな甘えた考えを持つ僕がこの国を守る衛兵になるなんて許されない。
いざという時、誰かに助けてもらえる、なんて考えちゃダメなんだ…!!」
コリンの熱弁を聞いた3人はそれまで塞ぎ込んでいた気持ちを切り替えねばいけないと思い直す。
これから王国兵となるなら甘えた気持ちで挑む事自体が愚かである。
「……はぁ〜……ま、コリンの言う通り、甘かったのは俺らのほうかも、だな。」
「だから言ったじゃない。ノックス様はかなりの策略家だって。」
「……でも……じゃあ食料はどうやって………?」
「食料源ならあいつらがいるじゃないか。僕たちから大量に食物を奪っていった、あいつらが。」
「おいおい、まさかあのブラックグリズリーの大群とやり合おうってつもりか?」
「いくらなんでもそれは無謀よ。」
「そんなことくらい分かってるさ。一体ずつ誘い出して、罠にかける。」
「……罠……ですか………」
「けど一体ずつなんてどうやって?」
「ブラックグリズリーらがちゃんと食料を仲間に分け与えてるか怪しい。中には満足に食えてない奴もいるはず。」
「……なるほどね。」
「…となると、1番簡単な落とし罠がいいかもね。ミラ、作れそう?」
「…は、はい…!いけます!」
「オーケイ。なら俺らはその穴の蓋に使える枝でも集めようか。」
「あら、アイザック。さっきまで弱気だったってのに急にやる気じゃない?」
「モテる男は切り替えも早いもんさ。何より、コリンの言うことだって尤もじゃないか。」
「よし。じゃあ皆、まずは地形を把握して、誘い込む箇所を決めて早速罠を仕掛けよう!」
4人は力強く頷くと、早速森の中を再度探索し、ブラックグリズリーへのリベンジに燃えるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
試験が始まって3日目の午後。
コリンを追いかけるブラックグリズリーらの姿があった。
『ガァゥアアアアアァァァアアアア!!!!』
「コリン!そっちに2体、行ったわ!!」
「任せろ!!アイザック!!」
「言われなくとも、だぜ!」
逃げるコリンを追いかけるは2体のブラックグリズリー。
さらに別のブラックグリズリーはアイザックを追いかけていた。
「…みなさん……もう少しです!!…………そこ!!」
逃げるアイザックの脇からもう一体のブラックグリズリーが不意打ちすべく襲いかかるも、ミラが咄嗟に火魔術をお見舞いする。
「んはっ!!やるねぇミラ!!愛してるぜ!!」
「無駄口を叩いている場合じゃないわよアイザック!」
作成した落とし罠の上をアイザックが目で確認し、その上をヒョイと飛んで後ろを振り返る。
ブラックグリズリーは尚もアイザックを追いかけていたが、突如足元が崩れ落ちたかと思うと、そのまま穴に仕掛けてある槍に串刺しにあった。
だがもう一体のブラックグリズリーは仲間が落ちたことで穴の寸前で停止し、唸り声をあげながらも穴を覗き込んでいた。
「アテナ!!」
「分かってるわ、よ!!!!」
穴を覗き込んでいたブラックグリズリーの背後から力いっぱいアテナが体当たりを行うと、バランスを崩したブラックグリズリーは同じく穴へと転落し、串刺しにされた。
「よし!!コリンは!!?」
コリンも同じくブラックグリズリーを落とし罠に落とすべく誘導していたが、思った以上に天蓋が崩れずに穴に落とせなかった。
「くそ!!崩れない!!」
「ミラ!!コリンを!!」
「はい!!」
追いつかれそうなコリンの元へとミラから支援攻撃が飛ぶ。
ブラックグリズリーにちくちくと攻撃が溜まり、腹立たしそうな目でミラを睨む。
2体のうち一体が体の向きを変えてミラの元へと駆け出して来た。
「アイザック!!今よ!!」
アテナの掛け声と共にアイザックがロープを断ち切ると、ブラックグリズリーの側面から棘付きの丸太が襲いかかり、ブラックグリズリーを串刺しにした。
コリンを追いかけていたほうのブラックグリズリーはその後も追いかけ続けていたが、同じ罠に掛かるまいと少し警戒していた。
コリンは後ろ目でそれを確認すると、反転してブラックグリズリーに向かって突如駆け出し、切りつけた。
ブラックグリズリーもまさかのコリンの動きに対処し切れずに手痛い反撃を受けてしまったが、致命傷とは至らず、ただ怒りを植え付けるだけとなってしまった。
「はぁ……はぁ……ほらほら、こっちにこい…!!」
『ガゥアアアァァァアアアアアアアア!!!!』
ブラックグリズリー怒りの形相でコリンを追いかけたが、すでにそこら中に張り巡らされている罠のど真ん中へと飛び込んでしまっていた。
「アテナ!!!!」
コリンの号令でアテナがロープを複数断ち切ると、ブラックグリズリーの頭上から木の槍がいくつも降り注ぎ、ブラックグリズリーを刺し貫いた。
「はぁ……はぁ…………や……やったか……?」
4体いたブラックグリズリーは全て串刺しにより無力化させ、4体とも見事に倒すことに成功した。
「……は………はははは………やっちまった……本当に……」
「……あ、あたしたちでも………勝った………?」
「えぇ……そうよ……!……勝ったのよ!!あたしたち!!」
4人は現状持てる力を全て出し切った疲れを忘れ、大いに喜びあった。
が、突如として4人は空腹と目眩に襲われ、膝から崩れ落ちた。
最悪なことに、それを待ってましたと言わんばかりに見つめる眼差しがあることに、4人はまだ誰も気づいていなかった。