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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第20章 開発
227/322

有人飛行

 イブリースの建国式から早1ヶ月。



 季節は冬にさし掛かろうとしている。



 街づくりの様子もかなり進んでおり、大通りの中央には公園と時計塔が建てられた。


 それを中心に網目状に道路が作られ、居住区画・商業区画・工業区画と分けられて建物もかなり増えていた。



 また、学校や病院、衛兵の駐屯地など、さまざまな施設も完成していた。



 ここ1ヶ月でロンメア・ウィンディアとの交易も盛んに行われており、それに伴って観光客も増え、イブリース王国は徐々に人気を増やしていった。



 友好国の証としてイブリースから早速ハイポーション(仮)は『キュア』という名に改めてロンメア・ウィンディア両国に送られた。



 後で聞いた話によると、ウィンディア王妃のアーリアは、自身の母がガンに蝕まれ、生死の境を彷徨うほど危険な状態であったにも関わらず、キュアを与えたことで、忽ちガンが消え去り、回復したのだと言う。


 危篤状態にも関わらず、ガンが消え失せ意識を取り戻した母を見たアーリアは驚きのあまり腰を抜かし、人目も憚らずにわんわんと泣いたそうだ。


 やせ衰えた体であるため、すぐに全回復とはいかないものの、苦しみを取り去り、死の淵から救ってくれたノックスに多大なる敬意と感謝を述べていた。



 その噂も相まって、このイブリースには多数の来訪者が訪れるようになったのだ。



 来訪者はキュアが目的だったのだが、あまりにも設備が行き届いたこの国、特に、水洗式トイレに痛く感動しており、移住を申し出る者も少なくなかった。



 バスツール国よりギルド登録もなされ、イブリース王国支部が建設された。



 それにより、観光客だけでなく冒険者らも入国しており、また、上下水道設備に関心したロンメア・ウィンディアから視察もきていた。




 所変わって、ノックスはこの日は新たな企画を実現すべく、あらゆる職人らやルナ。ジェラートやルミナなどを集めて議論していた。



「皆、集まってもらってありがとう。今回の案に関して早速皆の知恵を貸してもらいたい。」


「それで、ノックス様。その案というのは?」


「『空を飛ぶ装置』についてだ。」



 また突拍子もない思いつきに皆が動揺し、場内がザワついた。



「ノ、ノックス様、いくらなんでも空を飛ぶというのはさすがに不可能なのでは…?聞いたことも無ぇですけど…」


「……いや、高出力で風魔術を下方向に向けて射出させ続ければ可能じゃないかな?姿勢制御の問題があるけど。」


「人単体で飛ぼうとしてもほぼ不可能なことですぞルミナ殿。仮にそれで上空へと飛び上がれたとて、着地の際に下手をすれば命を落とすことも…」


「いや〜、まぁ、そらそうなんだけどねぇ。」


「……そういえば俺が教会にいた頃、面白い文献を読んだことがある。」


「ん?なんだジェラート殿?」



 ジェラートは教会で読んだ文献の内容について思い出せる範囲で皆に説明した。



 その内容についてだが、過去に空を飛ぼうと考えた技師がおり、さまざまな角度から研究を行ったのだそう。



 鳥が飛ぶ原理や理論。魔術を使用する方法。



 ただし、そのどれもに当てはまった問題点があり、出力制御、それと、やはり着地の問題点である、



 結果としてその技師の夢はついぞ叶う事がなかった、とジェラートは説明した。



「……ふーむ……すでに前人が研究した上で不可能だと判断したようだが……」


「諦めるのは早い。出力が原因だと言っていたが、風魔術を下方向に向けて安定して射出し続ける、というのは高度な魔力制御があってしても安定しない、というのは俺も経験済みだ。」



 ノックスは『悪魔の口』にいた頃、すでにその方法を試したことがあった。


 自分の足の裏から風魔術を射出し続ければ、空を飛ぶことも簡単なはずだろうと。


 しかし、一時的に高く跳躍することは可能であっても、姿勢制御となると話が変わる。



 両足から射出する風魔術の量を寸分違わず打ち出せるよう安定し続けなければならず、それが上手くいったとしても今度は重心が少しでもズレると落下してしまう。


 仮にそれらが上手くいったとしても、実用性は0である。


 ホバリングが上手くいったとしても、上空を自由自在に、とはいかなかったのだ。



「…では、何か秘策でもあるので?」


「…お前たちは、独楽(こま)というのを知っているか?」


「……こま……?」



 皆は一斉に顔を見合せたが、誰も独楽について知るものはいなかった。



 そこでノックスは土魔術で簡単に独楽を製作し、机の上で回した。



「これが独楽だ。」


「「「……ほう……」」」



 皆は回転して独りでに回り続ける独楽を眺めていたが、当然として疑問が沸き起こる。



「……ノックス様、独楽というのは分かりましたが……これが何の意味が……?」


「回転する物体は姿勢が安定する。回転が早ければ早いほど安定し、回転が遅ければ……」



 ノックスの説明に合わせるかのように、独楽は勢いを無くして転倒した。



「……ふむ……」


「で、ですがこれと空を飛ぶことと、一体どういった関係が……?」


「では、この独楽の側面に羽を付け、その羽で下方向に風を起こせばどうなる?」


「「「「「!!!!!!」」」」」


「……かっ回転してる間は安定して空を飛び続けられるってこと!!?」


「その通り。ただし、その装置が1つだけだと反作用で本体に逆方向の回転力が加わってしまう。

 そこで、片方の装置は右回転、もう片方は左回転の装置をつけ、本体側が回転してしまう力を相殺させる。」


「ち、ちょっと待ってくだせぇ!!それはもしかするともしかするですぜ!!」


「あぁ!これならいける!いけますよ!!」


「くぅーー!!さすがはあたしの夫だねー!!」


「…妻では無い。」


「……こりゃあすげぇ……確かにその理論が正しいのなら、空を飛ぶことも夢じゃない……ククク……」


「いやしかしですぞ、回転、と簡単に言われましても、どのような術を仕込めばよいのやら…」


「風で羽を扇いで動かすか……」



 議論が加熱してきたものの、羽を回転させる仕組みについてはみな魔術を使用する、という方面で議論していた。


 ノックスは机に紙を広げ、モーターの仕組みについて簡単に図説した。



「鉄に銅線をぐるぐる巻きにし、周囲を磁石で囲うだけで、回転装置が出来上がる。銅線に電気を流せば理論的にはそれで回転するはずだ。」



 ノックスは学生の時に習ったモーターの知識を引っ張り出し、皆に説明した。


 仕組みと言ってもノックスの説明したモーターは非常に簡素な物であるが。



 理論を聞いてもにわかには信じられないという職人らは、その後材料をかき集めて作成にあたる。


 急遽の製作ではあったが、雷魔術を銅線に流すとモーターがぐるぐると回転を始め、職人らは目を丸くしていた。



「なっ!?ど、どういう原理なんです!?」


「鉄が電磁石となり、磁石のN極とS極が引き合ったり反発したりするせいで回転する…だったはずだ。」


「……す……すげぇ………」


「……でもノックス様……何でこんなこと知ってるんです?」


「え、えぇっと…それはだな……」


「あー、お、思い出した!お兄ちゃん、アレだよねアレ!昔お父さんが作ってくれたアレ!アレと同じだね!」



 答えに詰まるノックスに、ルナがさっそく助け舟を出してくれた。



「あ、ああ!そうだ!昔父がこれに似たようなものを偶然作っていたんだ!」


「はぇ〜……」


「そうそう!お父さんすごく発明好きでね!色んな発明品が家の中に転がってたんだよ!」


「あ、あぁ。そうだったなぁ。懐かしい。」


「さすがはお二方のお父様……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後も改良に改良を重ね、モーターとプロペラが完成した。



 当初は飛行用にと作られたそれらであるが、船にも応用が効くと考えられ、大型のモーターの製造にも着手していた。



 とはいえ当初の目的通り、飛行するための試作機が出来上がった。



 作りは非常に簡素な物で、木で作られた長方形のボードをバツ印の形に交差させ、それぞれの両端に穴が開けられ、モーターとプロペラが設置されている。


 電力を流すためにモーターから伸びた銅線は中央付近の台座へと伸び、台座へ電気を流すとモーターが回る仕組みとなっている。


 それだけだとただ上空に浮き上がるだけの物であるため、台座にはレバーも設置され、倒すことにより出力が調整されて前後左右に動けるようになっていた。


 この代物は『フライトボード試作機』と名付けられた。



 テストフライトとしてノックスが搭乗する。


 ノックスが搭乗するのは、万が一バランスを崩して落下しても、ノックスならば問題ない、という判断のためだ。



 ノックスは胸の高鳴りを抑えつつ、フライトボード試作機に乗り込み、皆が見守る中台座に魔術を行使する。



 魔術を受けた台座から即座に電力がモーターへと伝わり、プロペラが高速で回転して飛翔。



 したかと思いきや、凄まじい風を巻き起こし、ノックスを載せたフライトボードは一瞬にして遥か上空の彼方へと消え失せた。



「「「「「ノックス様ぁぁぁああああ!!!!!」」」」」



 完全に想定外の事態に地表にいた職人らは大慌てしていた。

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