対イブリース王国会議
サンドアルバ教会にある会議室に集められた12使徒。
普段なら騒がしいはずのこの会議ではあるが、本日はいつもの様にはいかなかった。
集められた12使徒ではあるが、ズーグ、ロウ、スカーレット、ノースの4名の席が空いており、現在は8人まで数を減らしている。
数値でしか分からなかったノックスの強さを本国内でまざまざと見せつけられ、無様にもそのまま逃亡を許してしまったことで、会場内には緊張感が張り詰めていた。
「…それでは、ノックスの件についてだが、どう対処すべきか。」
今日もいつもの様にジオードが取り仕切る。
「……どうすると言われてもねぇ……あちらさんの目的は達した訳だし、不要な手出しをしなければいいんじゃないかい?」
「……それはそのまま放置するとでも言いたいのか?」
「んま、それは好きに取ってくれて構わないけどね。強さがどうのって、分かってた事じゃないか。」
「そういう訳にはいかん。奴にはキッチリと今回の落とし前を付けねば。」
「そういきり立つのも分かるけどさ。じゃあどうするんだい?まさか、正面から戦うわけじゃないだろうね?」
「……無論そうではない。が、教皇様は現在、同盟国に呼びかけ、総動員して戦闘を開始させようとしている。」
「……ふーーん……」
「気に入らないようだねゲラート。なら他に代案でもあるのかい?」
「んま、正直言って、正面からなんて、ノースら4人を軽く殺せるような輩なんて、俺ならゴメンだね。」
「……それは教会への反逆と見なすぞ……!」
「それならどうぞご自由に。」
「ゲラート!!!!」
「……ふふふ……皆さん、少し落ち着かれてはいかがでしょう?」
「……リームス……」
「私も無駄死にはゴメンだというゲラートさんの意見には賛同致しますよ。というよりも、あれ程の強さだと分かっていながら、結局正面から馬鹿正直に挑んだノースが無能というだけですよ……ふふふ……」
「……!?……リ、リームス、貴様…!!」
「当たり前でしょう。ノックスの情報を得るに当たって、私も部下を1人、再起不能に追いやられているのですよ?
そこまでして得た情報がありながら、結局正面から挑むなど愚か者という他ありませんよ。」
リームスはノックスのステータスを『鑑定』で見た後、エンリが『千里眼』でマーキングを行っていた。
その『千里眼』を行使した際、ノックスが異常なまでに魔力を練り上げ、それがエンリに逆流し、エンリの脳に深刻なダメージを与えてしまったのだ。
「ならば、どうやって『封印』するというのだ。ノックスだけでなく、奴が従えていたスケルトンですら災害級であったと聞いておるぞ。」
「…やるとしても、集団で戦うのは分が悪すぎるでしょうねぇ……行うのであれば各個封印でしょうか。」
「………不要だ………」
リームスの説明を遮るように、1人の男が突如発言した内容により場内が一瞬にして静まり、ジオードがその男を睨みつけた。
「……不要だとはどういうことだハデス…まさかノースのように、貴様1人で何かするつもりか?」
「……そういう意味では無い………『封印』を前提に話を進めるのならば、私は不要、という意味だ………」
「……あ、じゃああたいもパスね。そんな難しいことはそっちでお願ーい。」
「……ヨミ……貴様……!!」
「だってつまんないんだもーん!!せっかく久しぶりに来てあげたのに、お菓子も無いし難しい話ばっかりなんだもーん!!」
「ここは子供の遊び場ではないぞ…!!」
「まあまあジオード。いいじゃないか。抜けたいなら抜けるで勝手にしてくれればさ。
その代わり、ここに居ない間に決まった事について後からとやかく文句を言わないでくれれば、ね。」
「それでいーよー。」
「………では……失礼する………」
ハデスとヨミが会議室を後にするのを皆は黙って見送った。
が、わがまま勝手なヨミと、教皇の推薦により加入したハデスのことを、声には出さずとも皆あまりよく思っていないような表情であった。
「……それより…面白い情報を仕入れましてね……」
皆が呆れていた時、リームスが静かに語り始めた。
「…なんだ、リームス?」
「……デュバル氏から聞いた話ですからね。その辺りはデュバル氏からしていただけるかと。」
リームスに促される形でデュバルが静かに立ち上がり、皆に聞かせた。
「…知っているかもしれんが、私の部下には通称・『黄泉がえり組』というものがある。過去に死んだはずの者が突如蘇り、記憶も性格も異なっている、という連中だ。」
「……あぁ。聞いたことはある。」
「彼らは皆一様に『転生』という言葉を使っていた。
……まあ、その事については今はいい。
驚くべきは、彼らは我々の世界には無い知識を保有しているのだ。」
「知識……だと……?どのような知識だ?」
「兵器、と呼ばれるものだ。一度その兵器を使用すれば、簡単に国を滅ぼせる兵器と呼べるもの。」
「「「「!!!!?」」」」
「……ふん……そのような兵器とやらが本当にあるのか?」
「理論については未だ検証段階だが、可能だ。彼らの知識の中には、回避や防御すらできぬ兵器まで存在する。」
「……それは本当か!?……いや、しかしそれを使用して本当にノックスを倒せるのか?」
「まだ研究段階だ。が、完成すれば、いくらノックスが強大とは言え、手も足も出ないままに死ぬであろう。」
「……ふふふ………ではそちらはデュバル氏が先導して開発を進めてください。ただし、我々でも他に有効な手段を模索する必要はあるでしょうねぇ。」
「それはそうだな。では会議を続ける。………」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…それで?これだと出力が足らなくないか?」
「それについてはこっちで補助するしくみさ。運動エネルギーをこの装置で電気エネルギーに変換させ、余剰エネルギーに関しては………」
「…あぁもういいもういい。わかんねぇ。」
「……ったく。中途半端に首突っ込むからじゃん。リョウヤが理系オタクなの分かってたことなのに。」
「オタクとは失礼だな、ミサ。キミだって同じ大学だったはずなのに。」
「あたしはアンタほどオタクじゃないわよ。」
「……それにしても、ようやっと俺らもこうやって伸び伸びとできるってわけか。感謝するぜ。」
「それには及ばないさ。キミらは不当に投獄されていたところをデュバル様が引き取ってくださった。感謝ならデュバル様にしな。」
「そらトーゼン。にしても、合縁奇縁とはまさにこの事だよなぁ。最初アンタらまでこの世界に来てるなんて知った時は驚いたのに、まさかアンタらの先輩まで来てたとは。」
「しかも、それがノースをぶっ殺したノックスっつぅんだからよ。ハハッ!!」
6人の男女がとある部屋で集まり、机の上には難しい理論を書き連ねられた紙がいくつも折り重なっていた。
6人の中にはノックスの元後輩のヒロキと、元婚約者のレイカもいた。
残りの4人は『黄泉がえり組』としてデュバルが引き取った、前世で相手側の車に乗っていた4人であった。
彼らは元は大学生であり、ノックスの前世の母親を轢き逃げし、そしてあの夜、性懲りも無くまた飲酒をして事故に遭ったのだ。
デュバルがロンメアに刺客を放った際、遠くから見ていたのがコウスケとミサ。
研究熱心なリョウヤと、面倒くさがりなタクトの4人である。
全員元の体の持ち主の名前が存在していたが、前世の名前をそのまま使用していた。
「…本当…何の因果だろうね。」
「アンタらはあのノックスに恨みでもあんのか?」
「それは当然よ。あいつのせいでこんな世界に飛ばされた訳だし。」
「…キミたちこそ、ノックスに恨みは無いのか?」
「ハハッ!!俺たちゃ恨みなんてこれっぽっちも感じねぇなあ。なんせ、あのままだと轢き逃げ犯として捕まえられちまうしな。」
「アレはタクトのせいじゃん!あたしらカンケーないし。」
「ミサだってどうせ捕まるんなら今のうちに沢山遊んどこうって乗り気だったじゃねぇか!」
「まぁどっちだっていいじゃん。こっちの世界でいきなり投獄されるとは思ってもみなかったけどなぁ。」
リョウヤらはこの世界に転生後、すぐに投獄されてしまった。
それは、死亡したはずの人間がすぐさま息を吹き返したからである。
では、元の彼らはなぜ死亡したのか。
そして、その疑問は当然元後輩のヒロキらにも当てはまる。
彼らの元の体の持ち主らは、この世界で禁忌とされる所業を行い、それにより自らの命を失ってしまった。
そして、それは図らずも、彼ら6人には有り余る力を付与させてしまっていた。