派遣メンバー
転移の魔法陣が光を放つと、そこから探索組の7名が姿を現した。
「おぉ!!もう帰還されたか!!」
「ノックス様!!おかえりなさいませ!!」
「それで、中はどんな感じだったんッスか!?……って、アレ?」
戻ってきた皆に労いの言葉をかけていたがどうにも様子がおかしく、いつもならはしゃいでいるベリアルですらも静かに落ち込んだかのような表情を浮かべていた。
「……む……?……どうしたのだ?」
「なんてことはない。が、このダンジョンはどうやら魔物化しているようだ。」
「…ま…魔物化……?」
「内部構造が勝手に入れ替わる。中に入れば下手をすると一生出られなくなるかもしれん。」
「…そ、それは…安全なのでしょうか?」
「脱出用の転移スクロールを所持していれば問題は無い。」
「…それで皆さん……浮かない表情を……?」
「……いや、それだけじゃなく、確認のために最深部に行ったんだが……」
ノックスは項垂れている皆に代わって最深部での出来事を説明した。
すると皆の表情が引きつり、最終的には『このダンジョン立ち入るべからず』との立て札をかけることとなってしまった。
「…お兄ちゃん、それでそんなに汚れちゃったのね。それにみんなも。」
「一先ずダンジョンのお披露目会は終了だな…」
「てかそんな危ないモンスターまで生み出しちゃうくらいのダンジョンなんて作んないでよ!みんな怖がっちゃってるじゃん!」
「…い、いや……まさかこんな事にまでなるとは俺も……」
「その地龍が外に出ちゃったりしないの!?」
「そ、それについては確認済みだ。ダンジョン内のモンスターは実体こそあれどもあくまでもダンジョン内でしか生きられないそうだ。」
「…もし出てきたりしてもすぐ消えちゃうってこと?」
「…おそらく…」
「……それならいいんだけど……」
「…まあ、これは侵入者を強制的に送り込むための施設だ。ここならあの地龍が侵入者を八つ裂きにしてくれるだろうし。」
「……はぁ……」
ルナはやれやれといった表情を浮かべてため息をついていた。
地龍をも容易く葬ったノックスにこうまで意見できるルナに、皆は心の中では『ノックス様の暴走を止められるのはルナ様のみだ』と考えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日も暮れ始めた頃、ノックスはノエルに呼ばれて会議室へと訪れる。
どうやら、ラヴィーナ共和国へリッチ討伐に向かうメンバーの選定を終わらせたようだ。
会議室には他にもローシュとサンドラも呼びつけていた。
「ノックス様!お忙しい所、ありがとうございます。」
「遠慮はいい。選定が済んだようだな。」
「はい。リッチ討伐に当たりまして、まずこちらで選定させていただいたのは、アイン、モズ、マイナ、ハイゼル、ホークの6名を選出させていただきました。」
「……ほう……それで、どのようにリッチと戦おうと?」
「選出にあたりまして、まず私とハイゼルが先行しリッチを相手取り、アインとマイナとモズが後方支援。モズは我らに『強化』の上昇効果と武器に『浄化』の付与。ホークは折を見て『交換』を行い、戦闘を有利に進めていくつもりです。
アインとマイナは攻撃魔術により支援してもらおうかと。」
「なるほど。良い選出だ。」
「ありがとうございます。」
「しかし、リッチが暗黒魔術で配下を増やしている可能性がある。その場合は?」
「どちらにせよ、まずラヴィーナ共和国兵との連携が必要かと。比較的安全である他のアンデッドはラヴィーナ兵に任せたい所存です。」
「……ふむ……
…わざわざお前たちだけで一番危険なリッチを相手にする必要も義理もないが……まあいいだろう。」
「そ、そんな……一番危険な任務を、イブリース王国に丸投げという訳には……」
「すでにそちらにもかなりの損害が与えられているはずだろう。その辺りを考慮すれば、最前線に立てるのはノエルらくらいしかおるまい。
それに、ロンメア・ウィンディアからも応援もある。」
「…そういう訳だ、サンドラ殿。」
「ノックス様。念の為にヒルダ代表宛に書簡を渡したほうがよかろう。」
「そうだな。」
「…それではノックス様、選出メンバーは私の提案した通りで宜しいので?」
「構わない。ノエルたちは準備が出来次第、すぐさまサンドラ殿と共にラヴィーナ共和国へ向けて出発し、現地兵と合流し、リッチの討伐にあたってくれ。」
「はっ!!ありがとうございます!!」
「…私からも礼を言わせていただきます。ノックス国王陛下、ご協力、誠に感謝致します!
討伐した暁には、ヒルダ代表もさぞお喜びになることでしょう。ラヴィーナ共和国からの当然報奨金も。」
「理由はともかく、わざわざ建国式にまで足を運んでいただいたサンドラ殿の功績もある。
…それより、先程はすまなかったな。まさか地龍がいるとは思わなくて…」
「滅相もございません!!ノックス国王陛下の勇姿をこの目で見られて、恐悦至極に存じます!!」
「…そう言ってくれると助かる…
……では、ノエルらの準備を進めておいてくれ。」
「はっ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日。
ノエルらは早速サンドラらと共にラヴィーナ共和国へと出発するべく港へ集まり、ロンメア・ウィンディア両国王らも併せて帰国となった。
本当はザリーナとももう少し話がしたかったと思うノックスだったが、かなり慌ただしい日を送っていたためにその場を設けることがついに叶わなかった。
どの道、建国は迎えられてはいるものの、まだまだ発展途上のこの国をそっちのけにするわけにもいかないと承知していた。
「ナタリアさん!抜けがけしたら容赦しませんからね!!」
「ノアちゃ〜ん!俺の事、忘れないでね〜!!」
「それではノックス様!行って参ります!!」
「お前たち、必ず帰ってこい。」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
「アルフレッド陛下、シアン陛下。今後ともこのイブリース王国を、宜しくお願いする。」
「ガッハッハッ!!それはこちらもだぞノックス陛下よ!」
「うむ。いつでもウィンディアに来てくれ。歓迎しよう。」
遠ざかる船を何時までも見届け、慌ただしい建国式を無事に終えたことに胸を撫で下ろすイブリース国民であった。




