『悪魔の口』からの生還
それから半年が過ぎた。
ノックスはすでに18歳を迎えていた。
季節の頃は春だろう。
今日はついにこの『悪魔の口』から脱出すると決めていた日である。
脱出にあたっては地魔法を行使すること。
『地龍殺し』の称号により、地魔法が格段に増大しており、それに伴って重力魔法の威力も増大していた。
脱出にあたり、重力魔法を壁側へと発動させ、返しになっている崖を登り切ろうというものだ。
この脱出方法であれば地龍を倒してすぐにでも行えたのだが、地龍の肉を消費するのと、スケルトン達を宥めるのに時間がかかってしまった。
他にも地龍を倒す前であっても時間をかけてであれば地魔法で上に向かって穴を掘り進んだり、足元に地魔法で大地を隆起させれば済むのだろうが、地龍の気配を感じてからは確かめずにはいられなかった。
とてつもなく脅威的な気配を感じさせる存在がある以上、地表にもそれと同じくらいの脅威があるかもしれないと考えたためだ。
脱出にはスケルトン達は連れていかないことにしたのだ。
というのも、人里での情報収集が必須となる以上、スケルトンを連れて歩くとかなり目立つ。
彼らはノックスに対しては従順な下僕であるものの、外界ではモンスター扱いされているだろう。
妹を保護するまでは悪目立ちしたくはなかった。
最終的にスケルトン達は納得し、ノックスを見送ることにした。
姫スケルトンは最後まで泣いていたのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして旅立ちの日。
ノックスは自前のカバンに地龍の魔石を初め、いくつか魔石を入れ、干し肉を詰め込んだものを背負っている。
武器は地龍を倒した刀。それとナイフ。
ノックスは改めてスケルトン達に最後の挨拶を交わす。
「お前達、世話になったな。
前にも言ったが、人里にお前達を連れていく訳にはいかない。
いずれまた、お前達に会いに来る。
すでに死んだお前達にこんな言葉を贈るのもどうかと思うが、達者でな。」
姫スケルトンを初め、全スケルトンが泣いていた。
ノックスは挨拶を交わした後、『悪魔の口』を登り始めた。
思えば13年前、始めてここで目を覚ました。
登りながらも今までの苦労を思い返す。
本当に色々な事を経験した。
本当に死ぬと何度も思った。
それでもなんとか生きながらえ、スケルトン達に出会った。
さらには地龍というとんでもない化け物と戦闘した。
……………
思い出を振り返っては込み上げてくるものがある。
だが、これは始まりに過ぎない。
いや、まだ始まってすらいない。
妹を取り返す。
ようやっと俺は、2度目の人生のスタートラインに立ったに過ぎないのだ。