ダンジョンお披露目会
明朝。
急遽ノックスらはダンジョンのお披露目会となり、ロンメア・ウィンディアの両国王含めダンジョン前へと集合していた。
道中、ダンジョンの作成方法について皆しきりに聞いていた。
ダンジョンの出入口に到着して驚いたのは、その周辺に装飾が施され、簡易的な宿場まで設置されていた。
「ガハハハハハ!!
なかなかいい感じのディテールに仕上がっておるじゃろ!!ワシの傑作じゃ!!」
どうやらベリアル主導の元、出入口付近の施設や装飾を拵えさせたようだ。
「……にしても……なんか、ちょっと趣味悪いッスね……」
アインの言うように、所々に施されている装飾にはドクロを模した物が散りばめられ、ダンジョン出入口の扉には龍の顔と思しき装飾まで施されていた。
「……まあいい………それで、中に入るのは誰だ?」
ノックスが探索者を募ると、皆が我先にと手を上げた。
「ノックス様の作られたダンジョン、この私めが行かなくて誰が行くというのです!」
「ノックス様の第一夫人の座は渡しません!」
「フハハハハ!!ノックス国王陛下が拵えたというのならば、ワシら統括が行かねばなるまい!!」
「俺とメローネの連携力強化のためにも、ここは誰にも譲らんねぇな!!」
「そうネ!是が非でも探索するヨ!!」
「……待て待て……さすがにそんなにたくさん一気に入れん。各国からそれぞれ代表者1名を選出してくれ。」
その後、各国に別れてそれぞれ代表者1名を選出すべく集合し、話し合いが行われた。
話し合いの末、ロンメア王国からはザリーナ。ウィンディア王国からはシリュウ。
さらに、ラヴィーナ共和国からもサンドラが代表者として選出された。
イブリース王国は多少揉めたが、ノックスの鶴の一声によりノエルとノアが選出となった。
探索者はその5名に、引率としてノックス、ベリアルの2名の合計7名で入ることになった。
「では行ってくる。他の皆は自由に過ごしていてくれ。」
重い扉を開け、中へ進む。
さっそく光の玉を出すためにスクロールを準備したのだが、日光が遮断されているにも関わらず中は薄ぼんやりと明るかった。
「……見えづらいのは見えづらいが、やけに明るいな……」
「……むう……これは、どうやら魔力を注ぎすぎたかもしれんのう……」
「注ぎすぎると明るくなるのか?」
「ガハハハハハ!!これは面白くなりそうじゃ!!お主ら、モンスターにばかり気をつけていると痛い目に遭うぞ!!」
「……どういうことだ…?」
「行けば分かる!ガハハハハハ!!」
やけに楽しそうなベリアルはさておき、ノエルら5名は早くも冷や汗を流している。
というのも、感知スキルが効かないにしろ、念の為に確認した時、今までのダンジョンとは比べ物にならぬ程に高濃度の魔力がこのダンジョンを包んでいたからだ。
警戒しながら先に進むと、1つ目の小部屋にてさっそくモンスターらしき影が見える。
恐る恐る近づくとシルエットが露になり、向こうもコチラに気づいて臨戦態勢となった。
「…ほう……これはエレメンタルリザードか。こんな入口付近に現れるとは。」
「皆!戦闘態勢!!」
ノエルの一声により5名は早速戦闘態勢へと移行し、エレメンタルリザードを相手に戦闘が開始された。
地表にいたエレメンタルリザード同様、俊敏かつ獰猛で、角を光らせては魔術を撃ち放ってきた。
5名はそれぞれの戦術を活かし、即席でのパーティとは言え各々の動きを見極めてはエレメンタルリザードを一体ずつ確実に仕留めていった。
「ほほう。ノエルらの動きに付いてくるサンドラ殿もいい動きをするな。」
「ガハハハハハ!!せっかくじゃからワシも混ざってよいかの?よいじゃろ!?」
「好きにしろ。ただし、外壁は壊すなよ。」
「それについては心配無用じゃ!!というより不可能じゃろう!!
おいお主ら!!ワシも混ぜろ!!」
ノックスの返事を確認するまでもなく、ベリアルはすぐさま戦闘している5名の中に混じって次々に現れるエレメンタルリザードを相手に戦闘を繰り広げていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…はぁ……はぁ……もう、これで…?」
「……どうやら……エレメンタルリザードは……駆逐したようだな……はぁ……はぁ……」
「……ミャウゥ……」
「……くっ……」
「…ゼェ……ゼェ……くそっ……」
「ガハハハハハ!!なんじゃお主ら、もうへばったのか!!」
エレメンタルリザードとの戦闘が終わり、一同はひと段落していた。
「……さすがはザリーナ殿……それに、ノエル殿の実力も……凄まじいの一言です……
……ベリアル殿は……やはり桁違いですが……」
シリュウは何とか食らいついてはいたものの、エレメンタルリザードから手痛い攻撃を喰らい、あわやという所でノックスの魔障壁に助けられていた。
サンドラはシリュウよりも善戦はしたものの、やはりこちらもエレメンタルリザードの連携力の前にチクチク攻撃をもらい、あわやという所でノックスの魔障壁により助けられていた。
「…ノックス国王陛下……私ごときを助けて頂き、感謝の言葉も……」
「……俺もだ……くそっ……危うく死んじまう所だった……」
「構わん。ノエルとノア、ザリーナ殿でもかなり苦戦するほどの相手だ。」
ノックスが5名に治癒魔術を施していた時、ベリアルは部屋の作りをジロジロと見ながら確認していた。
「やはりそのようじゃな!!」
と、不意に大声でベリアルが叫ぶ。
「何がだ?」
「ガハハハハハ!!やはりこのダンジョン、魔物化しておる!!」
「…ん?…魔物化…?」
「厳密には魔物では無いんじゃがのう。見てみよ!!」
ベリアルは部屋から伸びる通路を指さした。
確認すると、2本の通路が枝分かれしているのだが、それは明らかに異様であった。
「……これは……!?」
「お主も気づいたじゃろう!!ワシらはダンジョン作りの際にこの部屋は何度も通ってきておるからのう!!」
「……どういう事でしょうか……?」
「……俺たちが作ったダンジョンと、中の作りが変わっている……
この部屋から伸びる通路は確かに2本だが、作った位置が違う。」
「……え……?」
「ガハハハハハ!!それを魔物化と言うんじゃ!!
この様子だと、最初に作った順路はもう存在せんじゃろう!!」
「…どういうことだ?」
ベリアルはダンジョンの魔物化について詳しく説明する。
このダンジョンは魔素量が極めて高く、使用した魔石もかなりの大きさであるため、ダンジョンそのものが擬似的な魔物と化したようである。
魔物化したダンジョンは、中の様子が随時変化し、通路の数や場所が入れ替わったり無くなったり、あるいは増えたりするのだ。
そのせいで、ノックスらが作成したダンジョンとは全く中の様子が変わってしまっていた。
「ということは、下手をすれば同じ場所をグルグルと回ってしまうこともある、というわけか。」
「ガハハハハハ!!これは面白いのう!!」
「…どこかの部屋がどの通路にも繋がっていない可能性は?」
「それはない。必ずどこかの部屋に通じておるはずじゃ。」
「……それは厄介ですね……一度足を踏み入れれば、下手をすると戻ることすら叶わない……」
「ガハハハハハ!!面白いではないか!!」
「そういえば、壁を傷つけることは不可能だと。」
「魔物化したダンジョンは壁を自己修復するんじゃ。見ておれ。」
そういうとベリアルは壁に向かって火魔術を撃つ。
ドガァァァアアン!!という大きな音とともに壁には巨大な窪みが出来上がったが、見る見るうちに壁が独りでに修復された。
「……す……すごい……!」
「ガハハハハハ!!これが魔物化というやつじゃ!!このダンジョンは意思こそ無かれども、生きているダンジョン、という訳じゃ!!」
「…壁に印を刻むのも無意味、という事ですね。」
「ミャウ…」
「…とりあえず最下層まで下りるぞ。」
そう言うとノックスはカバンからスクロールを取り出して足元に広げる。
「…これは?」
「転移のスクロールだ。最下層に繋がるためのな。」
7名は早速転移のスクロールの上に立ち、最下層へ向けて一気に転移した。




