耐性訓練
会議がお開きとなり、ノックスはその後、国内の施設についてローシュと共に皆を案内する。
ローシュが感激したシステムということもあってか、下水道設備とダムについてはかなり力が入っており、その熱は両国王やサンドラにも伝わっていた。
「…『ダム』ですかな……これは我が国でも取り入れたい……」
「それだけじゃなく、放水の際のエネルギーをも有効活用できる仕組みは無駄がありませんわ。是非ともこれは我がウィンディアにも取り入れねばなりませんわね。」
「…この下水処理については我々も見習うべきだのう、シアン陛下。沿岸部の不作や不漁も、もしかするとそれが原因やもしれん。」
「ふむ……」
といった具合に皆関心しきりであった。
案内が終わりひと段落していた所へ、今度はオーウェンがノックスの元にやってくる。
「いや〜、ノックス国王陛下、この度は建国おめでとうございます〜!!ワイとしても、陰ながら全力で応援させてもらってたノックスさんが国王陛下になられて、我ながら嬉しい限りです〜!!」
「オーウェン殿。ありがとう。まさか貴殿も建国式に来てくれたとは。」
「当然ですがな!このイブリース王国からの特産品、是非ともワイのほうでもお取引させてもらいたくってですねぇ!」
「さすがに耳が早い。こちらとしても当然オーウェン殿と取引に応じさせてもらいたい。」
「そらありがとうございます〜!!早速街中色々と見せてもらってますけど、ここは魔鉄がようさん出てくるようですなあ。
品質も見たことないくらい高純度やし。」
「それはベリアルとの戦闘のせいだな。ともかく、この国にいる間はゆっくりしていってくれ。」
「そないさせてもらいます〜!!ノックス陛下、今後ともオーウェン商会をどうぞご贔屓に〜!」
「あーー!!ノックス様ーー!!」
「…今度は……ルミナ、か……」
「え?なにその残念そうな顔!ひどくね!第一夫人のあたしに!!」
「……夫人ではない……」
「んなことより!どうしてあたしの研究所が王城内じゃないわけ〜!?」
「……満場一致でな。」
「ひっど!!」
「研究所に関しては仕方ないだろう。爆発でも起きたら王城が傷つき、周りの住民に被害が及ぶ。」
「…ん、うーん……ま、まあ、そ、それは……うん。」
「それよりハイポーション(仮)についてはどうだ?」
「ん、ああ、それね。オーウェンに素材頼んだりしたから、近いうちに量産できるかもね。
…にしても、すごくなーい?あたしのハイポーション、ガンを治しちゃうんだから!!」
「それについては本当に天才的だな。あの薬が量産できれば、ガンで命を落とすことも減るだろう。」
「…ふへへへへ!!」
ルミナはノックスに褒められたことに顔を赤くし、変な声で照れ笑いした。
だが、当の本人のルミナは、いくつもの素材を掛け合わせて作ってみたものの、ケガの治療としてはポーションよりほんの少しだけ効果が高いが、それ以外は副作用も無さげなハイポーション、としてノックスに手渡しただけの物である。
開発経緯としては、怪我を治療するなら『傷ついた細胞と綺麗な細胞を即座に判別し、傷ついた細胞を減らして綺麗な細胞を増やすため』というものである。
本来この世界で使用される治療薬は人が持つ自然治癒力を活性化させるという方法であるため、治療方法が違う。
とはいえ、このハイポーション(仮)は怪我を治療する目的で使用した場合は通常のポーションとあまり変わらない代物となっていたようである。
ましてやそれがガンに効く薬だとも知らなかったのではあるが。
「んねぇ、ノックス様ー!!研究所の件、王城内とは言わないけど近くにしてよぉー!!
もしくは、あたしを王城に住ませて〜〜!!」
話が終わったにも関わらず、ルミナはノックスの元から去ろうとはせずに駄々をこね始めた。
「…おやおやルミナ様、こんな所にいらしたとは…」
「…げっ!?ジェラート!?なぜあたしがここにいると!!?」
「…ククク……俺の情報収集力を舐めないでもらいたい……それよりも、早く例のハイポーションの研究を進めましょう。」
「な!ち、ちょと!!ノックス様ーー!!」
「……それではノックス様、失礼します……」
「……あぁ……」
ようやくノックスはひと段落着くことができると思いきや、今度はベリアルがノックスを見つけて駆け寄ってきた。
「おぉ!ノックスよ!!そろそろアレが完成しておるかもしれんぞ!!」
「……ん……?……アレ……?」
「なんじゃ!もう忘れたんか!?アレと言えばアレ。ダンジョンじゃ!!」
「……そういえばもうそんな頃合か……」
「いやぁ、楽しみじゃのう!!ワシとノックス、それとアルフェウスの3人の魔力が底をつくほど注いだダンジョン!!
恐ろしいほど高難易度に成長しておるかもしれんのう!!」
「…あまりに高難度過ぎて誰も踏破できんかもしれんな。
ま、それはそれでいいんだが。」
「そういえばダンジョンに色々と仕込むと言っておったのう!何を仕込んだのじゃ?」
「転移魔法陣だ。」
「帰るための、か?」
「いや、そのためのものではないが。」
「…む…?…ではなんじゃ?」
「その辺りは明日話そう。ベリアルだけじゃなく、他の者にも説明が必要だし。急遽ではあるが、明日はダンジョンのお披露目としよう。」
「ガハハハハハ!!なら明日を楽しみにしていようかのう!!」
次から次へとノックスに話しかける者が大勢いるおかげで、ノックスはひと段落する暇も無かった。
夜にはノエルらを呼びつけ、リッチとの戦闘に際しての注意事項を伝えた。
「リッチは精神に作用する魔術を多数使用する。単に吐き気を催すだけの物から、幻覚を見せる物。精神に働きかけて自殺をさせようとする物もある。」
「…それらからはどのように対処を?」
「ない。魔障壁を展開させたとて、その類の魔術は通常の火や雷とは違い、目には見えん。」
「……では……耐性を上げるしかない、と?」
「そうだ。」
「んー、でも、全身に魔障壁をぐるっと展開させておけば、防げなくはないッスか?」
「それでどう攻撃する?」
「……あ……」
「精神耐性を上げる訓練……船酔いも確か精神耐性でしたよね?」
「ならば船の揺れに強くなれば…でしょうか?」
「お前たち、食事は?」
「…いえ、まだですが…」
「なら少しやってみよう。」
そう言うとノックスは徐にノエルの頭に手を翳し、魔術を行使させた。
その瞬間、ノエルは凄まじい吐き気を催し、顔を真っ青にしながら口を押えて足をふらつかせながら離れた場所へと行った。
「……え?……な、なにしたんッスか?」
「なぁに、簡単な話だ。次はアイン、やってみるか?」
「へ?へっ!?」
ノックスはアインの返答を聞くまでもなくアインの頭に手を翳し、同様の魔術を行使した。
そしてアインもノエルと同じく、顔を真っ青にして離れた場所へとふらふらと駆けて行った。
「……さて……」
「へっ!?い、いや、俺は大丈………うっぷ!!」
「ち、ちょっとノックスさ…………うっ!!」
「ど、どうかお慈悲を…………ぐっ!!」
ノエル、アインに引き続き、リドル、モズ、ナタリアもノックスの魔術の餌食となった。
5人が戻って来たが、まだ顔を真っ青にしつつ目が虚ろになっている。
ノックスは5人に治癒魔術を行使すると、みるみると顔色が良くなった。
「…ひ……ひどいッスよ…ノックス様……」
「……ぐすん……」
「すまなかった。身をもって理屈を分かってもらうためにはな。
食らってみて何か分かったか?」
「……うーん……船酔いの時と同じ感じ…でしたね。」
「そうだ。人間の耳の中には三半規管というものがあり、それが平衡感覚を司る。他にも脳だ。
それらが強制的に揺さぶられることにより、正常な処理をさせなくする。」
「……ということは、この訓練を続ければ……」
「ある程度までの精神耐性は付くだろう。」
「……えぇ………この耐性訓練……1番嫌いッス……」
「……わ、私も………」
「好きな者などいない。俺もリッチに勝つためにこの訓練を嫌というほどした。
灼熱や極寒、衝撃や斬撃などの耐性は体の外を強化するが、精神耐性は体の中を鍛えなければならない。
強靭な精神を持つためには、それ相応の代価が必要だ。」
「……ノックス様は、精神攻撃魔術を会得されているので?」
「いや、さっきのは単に地魔術の応用で、お前たちの体内にある器官を揺らしただけだ。」
「…なるほど……了解いたしました!必ずやこの耐性を強化し、リッチを葬ってきます!!」
「…ノエル……それってまさか、俺も…?」
「当然だ。リッチが魔術師である以上、アインとモズのサポートが重要になる。」
「うへぇ……やっぱそうッスよねぇ……」
「うぅ……怖い……でも、ノックス様のためならば…!!」
「…ちなみになんですけど、ノックス様がリッチを倒された時のレベルは如何程だったんでしょうか?」
「…そうだなぁ……」
ノックスは腕を組んで思い出す。
「…確かあれは6年前。確かレベルは1000を伺おうかという所だったな。」
「…ろ…6年も前ってことは……ノックス様、12歳でリッチ倒しちゃったんッスね………」
「……ははは……さすがはノックス様だ……」