友好同盟
次の日の昼過ぎ。
ノックスらはロンメアとウィンディア両国王とその配下、そこにサンドラ、ローシュやノエルらを交えて会議室にて話をする。
まずはイブリース王国とロンメア・ウィンディアとの友好同盟を結ぶ。
内容としては、不戦協定・相互協力、それと、各種取引内容についてである。
ギルドの設置についてはロンメアとウィンディアが保証人となる形で申請してくれるが、こちらの手続きは少し時間がかかるかもしれないとの事であった。
「…ギルドの本部はどこにあるんだ…?」
「バスツールというストール大陸のちょうど真ん中あたりにある国だ。」
「…ほう……」
バスツール国はストール大陸の中央に位置している。
こちらもラヴィーナ共和国と同じく中立国である。
その後、両国王らを交えてラヴィーナ共和国に現れたリッチについて話し合いが行われた。
「……リッチが現れた…とは……」
「……しかしながらサンドラ殿よ。」
「はい。」
「昨日建国式が行われたこのイブリース王国に早速リッチの討伐依頼とは、少々虫が良すぎる話ではあるまいか?」
「…それは存じております…」
「災害級モンスターの出現となれば逸る気持ちも分かるが、建国したばかりのこのイブリース王国にそのような依頼を行うということはいかがなものか……」
「アルフレッド国王陛下の仰るように、イブリース王国への依頼に関しては私めも少々不躾な願いだと存じております……が、事は急を要し、なりふり構っていられない、という事情も分かっていただきたいのです。」
「現状ラヴィーナ共和国の被害はいかがなものか?」
「既に兵が大勢やられ、街が1つと村が3つ被害に遭い、既に死者は数百から数千かと……」
「……ふむ……その様子では、既にバスツール国にも知らせたのだな?」
「はい。各国ギルドに手配を致しております。」
「……で、ノックス陛下としてはどうするつもりなのだ?」
「……ふむ………」
ノックスは沈黙し考えを整理させる。
自分が直接赴いてリッチを倒すことは可能だろう。
が、そうなると少しばかり国を空けることになる。
発展計画は順調ではあるものの、すべてローシュらに任せっ放しにはできない。
ローシュらが信用ならない訳ではなく、色々と進めていきたい事柄もあるのだ。
となれば、誰かを送るか、もしくは見捨てるか。
見捨てるという選択肢はすぐに棄てる。
ならば、誰かを送るにしても誰を送るのか。
通常のモンスターであれば、ノエルら戦闘要員を派遣すれば片がつく。
しかし、今回はリッチが相手だ。
色々と考えあぐねいていた所へ、ノエルがノックスに話しかけた。
「ノックス様、少しよろしいでしょうか?」
「……ん?なんだ?」
「その役目、私が参らせて頂けませんでしょうか?」
「…ノエルが、か。しかし、相手はリッチ。実戦で見たこともない魔術を使用してくるんだぞ?」
「無論承知の上です。私に足りないものは『経験』。ノックス様のおかげで多少力を付けたとは言え、まだまだノックス様の助力に頼っている弱卒です。」
「…………」
「ノックス様はこの国でまだやらねばならぬ事も多いでしょう。当然、新興国となれば、教会が兵を差し向けてくることも予想されます。
…であれば、ここは私めに一任していただけませんでしょうか?」
「……ふむ……そこまで言うのならば一任してもよいが、そうだな………」
「…よし。ならばこの件はノエル。お前に一任する。同行者の選任も含め、決まり次第すぐに向かってくれ。」
「…了解しました…!!お任せ頂き、ありがとうございます!!」
ノエルはいたく感激しつつ敬礼した。
「し、少々お待ちください!!」
そこへ横槍とばかりにサンドラが割り入る。
「…なんだ?」
「このアステル島に住み着いていた火龍を打ち払ったのはノックス国王陛下とお聞きしております!
なので私としましては…その……」
「ノエルなどではなく俺に来て欲しい、ということか?」
「……ご協力いただけるのは誠に感謝しておりますが……リッチを倒せるとすれば、火龍を倒したというノックス国王陛下以外、有り得ないかと……」
「安心しろサンドラ殿。そのノエルは十分強い。」
「…で、ですが……」
「それとも、俺の配下では不満か?」
ノックスはノエルを侮られているのではと考え睨みを利かす。
その瞬間、会議室にピリッと緊張感が走り、サンドラはそれ以上、反論せずに言葉に飲み込んだ。
「………ご、ご無礼を……!!……では、ノ、ノエル様に……お願い…致します……」
「ガッハッハッ!!噂に聞くサンドラ殿であっても、ノックス陛下の内に秘めたる強さの前には萎縮してしまうか!!」
「安心してよかろう。ノエル殿の強さについては、ウィンディアでも知られておる。」
「ありがとうございます。」
「ではノエル、念の為に俺が『悪魔の口』で戦ったリッチがどんな魔術を使用してきたか、そのあたり後で聞かせておこう。」
「はっ!!」
「……え……?『悪魔の口』に……リッチと戦った……ですと……?」
「あぁ、そういえばまだ言ってなかったな。
俺は過去に『悪魔の口』に住み着いていたリッチと既に戦い、勝利している。
昨日も驚かれていたが、そこらにいるスケルトンらは、大昔にそのリッチの暗黒魔術によりアンデッドとなった者たちだ。」
「……リッチに……勝利した……?」
サンドラは目の前にいる男は、火龍を倒しただけでなく、過去にリッチと単身戦い、勝利したというとんでもないバケモノクラスの男であると認識し、今更ながらに驚愕していた。




