ヒルダからの依頼
「ノックスさーん!お待たせしましたー!!」
「おぉ!!待っていたぞドラン殿!!」
迎賓館にて食事会が進むと、サプライズとしてロンメアよりラガービールが大量に振る舞われた。
どうやら国王がドランに働きかけ、ラガービールを大量に土産として持参してくれたようだ。
「うっひょーー!!これこれ!!これ飲みたかったんッスよーー!!!!」
「……ククク……あの冷えたビールをまた飲める日が来るとは……!」
「…むむう……あの苦い酒か……ワシはどうも苦手じゃ……」
「…これ……ビール……?……アインは飲んだことあるの?」
「そういやマイナはまだ飲んだこと無かったッスよね。あれ、チョー美味しいんッスよ!!」
「…普段飲むビールとは違いキンキンに冷えたビールが喉を通ってゆく快感……あれは何度飲んでもクセになる。」
「……ほう……ノエルまで絶賛するなんて興味があるな。」
各員のグラスにビールが並々と注がれる。
普段飲む酒と比べてキンキンに冷えており、グラスに結露した水滴も相まってかキラキラと黄金色に輝く。
「……冷たいビールなど初めてだな……」
「……それもこのような綺麗な黄金色……」
「ガッハッハッ!!このビールを飲むともう他のビールが飲めんようになるぞシアン陛下!!
きっと王妃の口にも合うかと思うぞ!」
乾杯の音頭は済ませたものの、改めてノックスはドランを壇上へと手招いた。
「このビールはロンメアより頂戴した物だ。俺の考えを纏め、そして実現してくれたのが、こちらのドラン殿だ!」
そう紹介されると、ロンメア国王から拍手があがり、皆からも拍手が生まれた。
「…あ……あの……ドランって言います…!
このビールはノックスさん……じゃなくてノックス国王陛下より考案がなされ…俺はそれを形にしてみただけでして…」
「遠慮することはない。ドラン殿がいなければこのビールは生まれなかった。」
「そ、そう言って貰うと光栄ですけど…なんか、恐れ多いというかなんというか……」
褒められたドランは満更でもないようにやけ顔をしていた。
「…ま、まあ、みんな!飲んでみてください!俺の村、ウルカ村で作ってるビールです!!
え、えーっと…じゃあその……か、かんぱーい!!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」」
初めて飲む者は、ラガービールを警戒しながらも口に運び、キンキンに冷えたビールを口の中で堪能し、ゴクリと飲み込む。
飲んだことがある者はゴクゴクとビールを煽っていた。
「……な……なんということだ………」
「……アナタ……これは私らの国にも取り寄せましょう!!」
「ップハーーーーー!!!!最高ッス〜〜!!」
「……なんだか普段飲むビールよりスッキリしてる……美味しい……!」
「……こんな美味いビールをあたしらに黙っていたなんて……」
壇上にいるノックスもゴクゴクとビールを煽り、そのあまりの完成度の高さ故か、炭酸が目にしみたのか、目に薄らと涙を浮かべて
「……美味すぎる……」
と感動し、ドランと握手を交わしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
酒が進み、ノックスは来てくれた他の来賓者のもとへと足を運んでいた。
ルナも精力的に様々な人と交流を図り、関係性を築こうと頑張っていた。
皆、驚異的な力を持つノックスの反面、線が細く、それでいて可愛げなルナとのギャップに驚き、男連中は鼻の下を伸ばしていた。
「ノックス国王陛下、少々お時間を宜しいでしょうか?」
そう声を掛けてきたのはラヴィーナ共和国の使者、サンドラであった。
「…確か、サンドラ殿、だったな。楽しんでくれているか?」
「えぇ、おかげさまで。頂いたお食事も、そしてこのビールも、大変美味しく頂いております。」
「それは良かった。それで、俺に話とは?」
「ロンメア王国とウィンディア王国とは今後、友好同盟でも結ばれるので?」
「あぁ。」
「やはり、ですか。」
「ラヴィーナ共和国はあくまでも中立。この国との同盟となれば教会を敵に回すことになる。
無論、俺達も貴国に被害を与えないよう細心の注意は払うつもりだ。」
「ご配慮、ありがとうございます。
私の国は知っての通り、サントアルバ教国との間に位置しております故に。」
「話の腰を折ってすまなかった。それで、話とは?」
「……少し、宜しいでしょうか?」
「…ん?…あぁ…」
ノックスとサンドラは騒がしい迎賓館から外に出た。
「…失礼しました。ノックス国王陛下。」
「構わない。」
「…本日建国式が行われた貴国に、このような話をするのは非常に無礼であることは承知の上で……」
「回りくどいな。とにかく話してくれ。」
「……それでは……ノックス国王陛下。1つ、貴国にお願いしたいことがあります。
それは、我が国ラヴィーナ共和国にお力添えをいただけないでしょうか?」
「…力添え…だと?」
「はい。こちらは我が代表、ヒルダ様からの依頼書となります。」
サンドラは片膝を付き、カバンから取り出した依頼書をノックスへと差し出した。
ノックスは受け取り、封を切って中身を改めると、ヒルダ代表がノックスへ書かれた依頼内容が書き連ねられていた。
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アステル島の新たなる国王、ノックス国王陛下。
本日、アステル島にて建国式を迎えられた貴殿らの功績、誠におめでとうございます。
この素晴らしき日だというにも関わらず、私本人ではなく代理人をお送りしたことをまずはお許しください。
今現在、我が国ラヴィーナでは、現状を大きく揺るがす事態となり、私共や他の代表らもこちらに専念しなければならぬ事となりました。
差し出がましい依頼であるとは重々承知しておりますが、どうしても貴殿の力が必要であり、このような文をお送りさせていただくこととなりました。
我が国を揺るがす事態。
それは、リッチが現れたのです。
ご存知かもしれませんが、リッチはスケルトンの上位種であり、あらゆる魔法の使い手でございます。
国際法に死体処理が追加されてから我々としても、死体の処理に火葬を行ってきたものの、どこからか現れたリッチにより、兵の大部分を喪失してしまったのです。
今日のこの晴れやかな舞台にも関わらず、このような依頼をお送りしたことをお許しください。
願わくば、貴殿の助力を得られんことを。
ラヴィーナ共和国代表評議会議員 ヒルダ
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「…リッチ…か。」
「失礼は重々承知しております。ですが、我々としても、なりふり構っていられる状況ではなく…」
「この依頼は俺の国だけに?」
「いえ、周辺の国々にもやギルドにも討伐依頼を行っているはずでございます。」
「それは教会へも、か?」
「………それは………」
「いや、いい。災害級と称されるリッチが現れた以上、俺たちと教会の確執などどうでもいい。変なことを聞いたようですまない。」
「…い、いえ!そんな…」
「いつまでに返事がほしい?」
「2、3日中にいただければ、と。」
「分かった。」
「…しかしながら、ノックス国王陛下、少し聞きたい事が。」
「…ん?」
「スケルトンを配下にしているのを確認しましたが……もしや、暗黒魔術を……?」
「あぁ、あれか。それは違う。彼らはスケルトンだがスケルトンではない。」
「…はい?」
「詳しくは明日話そう。明日の昼過ぎにに王城へと来てくれ。」
「……か、かしこまりました。
では、よきお返事をお待ちしております…!」