発展計画
迎賓館にはたくさんのご馳走が所狭しと並べられ、上座には一際豪華な机と椅子が並べられている。
今日この日のために、職人たちが準備をし、コリンたちも協力した。
特に料理に関しては侍女スケルトンが先頭に立ち、言葉は発せないもののあれやこれやと手際よく料理を作ってくれた。
ラヴィーナからの使者サンドラは王城を見た時もその意匠に驚かされていたが、迎賓館でのたくさんの料理にも目を丸くしていた。
全員がそれぞれ席に座り、ノックスらは上座にて両国王陛下と同卓し、席に着く。
卓にはウィンディア王妃と息子。
さらに、ザリーナも同卓した。
ノックスの隣にはルナが着席している。
皆が席に着いたことを確認したローシュがノックスへと報告すると、ノックスは立ち上がってグラスを軽く指で弾いて音を鳴らす。
「…皆の者、今日まで本当にご苦労だった。まだ国内は発展途上ではあるものの、今日を迎えられたこと、本当に感謝している。
……と、あまり長話は好きでは無い。
……特に、これだけのご馳走を目の前にすれば、特にフェリス殿は今にもかぶりつきそうだ。」
皆の視線がフェリスに向くと、フェリスはハッとした表情を見せ、ナバルに注意されて口元のヨダレを袖で拭いた。
その仕草に軽く笑いが起こる。
「では、乾杯の音頭は、アルフレッド国王陛下、宜しく頼みます。」
「承った!!
皆の者よ、この素晴らしき建国の日。ノックス国王陛下ならびに、イブリース王国住民のこれからの発展に!!乾杯!!!!」
「「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」」
皆が手にしたワインやジュースをグイッと飲み、誰となく盛大な拍手が巻き起こり、祝賀会が開催された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
乾杯が終わったノックスはさっそく目の前にある様々なご馳走に舌鼓を打ち、その度にうんうんと頷いている。
侍女スケルトンの料理スキルの高さを身をもって体感していた。
「…ちょっと、お兄ちゃん…!」
ルナが食事に夢中のノックスに小声で注意する。
ノックスはハッと我に返り、ナプキンで口元を拭いて姿勢を正した。
「……失礼。」
「ガッハッハッ!!良い良い!!ワシも一口食べたが、中々腕の良い料理人がおるようだな!!」
「父ちゃん!これ美味い!ウチでも作って!」
「これこれハーティ。落ち着きなさい。」
「して、ノックス陛下。そちらの御仁はどなたかな?もしや、ご妃で?」
ロンメア国王がルナについて尋ねた時、『ご妃』という言葉にザリーナが咳き込んでいた。
「……し…失礼…しました……」
「ガッハッハッ!!うちのザリーナはその事を気にかけて食事所ではないようだのう。」
「へ、陛下!!」
「紹介が送れました。こちらは我が妹のルナです。」
「ど、どうも、ルナと申します。兄のノックスが大変お世話になっております。」
「世話などとんでもない。世話になったのはこちらのほうだ。
……しかしながら……いつぞやに聞いた妹君か。ということは、ついに…」
「はい。」
「そうかそうか!!それはめでたい!!ザリーナもこれで安心して食事ができるのう!!ガッハッハッ!!」
「…へ……陛下……!」
「ノックス国王陛下に妹がいらしたとはな。
……それにしても、見目麗しい御仁だな。」
「ちょっと、アナタ…!」
「…ゴホン!改めてワシはシアン・ヴェルテ=マンムート。ウィンディア王国の国王である。
こちらは妻のアーリア、そして息子のハーティだ。」
「初めましてルナ様。ノックス国王陛下にこんな可愛い妹君がいらしたなんて。」
「初めまして!」
「どうも初めまして。ルナといいます。」
「次はワシだな。すでに存じておるかもしれんが、改めてワシはアルフレッド・バル・ロンマリア7世。ロンメア王国の国王をしておる。
こちらは我がロンメア王国の第一部統括のザリーナだ。」
「ザリーナです。」
「初めまして。」
「では、本題に移ろう。ノックス陛下よ。」
「はい。」
「…その前に、ワシらは国王という立場で言えば同格。歳の差など気にせず、ワシらに敬語は不要だ。」
「…それもそうで……そうだな。気をつけよう。」
「うむ。それで、貴殿はこの国を今後どう発展させてゆくつもりだ?」
「そうだな…」
ノックスは今後のイブリース王国の発展計画について説明した。
イブリース王国の発展計画において、3つの項目に重点を置く。
その1つ目は教育施設・医療設備。
直ぐに効果が現れる訳では無いが、これから先を見据えた上で必要となる施設を完備させ、貧困問わず誰でもその施設のサービスを受けられるよう拡充する。
2つ目として、農業・畜産・漁業。
食料自給率をこのイブリース王国だけで賄えるよう配備させる。
農業に関しては、この土地では小麦や大豆の他に稲作にも適している環境である。
それと、エレメンタルリザードの家畜化に成功できれば、極上の肉を味わえるだろう。
3つ目として、産業。
このイブリース王国でしか作れない物。あるいは、現在寝かせているダンジョンを活用した観光資源。
このイブリースならではの特産品を生みだし、輸出により利益を生み出す。
大まかにはこの3点を重要視し、街を発展させる計画を話した。
「…なるほど。さすがによく練られてはおるが、3つ目の産業。色々気になったのだが、ダンジョンを寝かせておるとな?」
「えぇ。ベリアルと魔術師スケルトンの協力でダンジョンを拵えたんだ。今はまだ寝かせているが、そろそろ頃合いだろう。」
「なんと!?ダンジョンを自作されたのか!?」
「やり方さえ分かれば簡単だ。ベリアルが昔よく知人と作って遊んでいたようだし。」
「……さすがは八龍……」
「……それで、特産品については何かもう考えておるのか?」
「色々と頭の中で理論的には可能な物の計画はある。例えば、遠くにいる者と会話する物。」
「……なに……!?そんな事が可能なのか!!?」
「理論的には。」
「……他には何があるのだ!?」
「陛下。ノックス国王陛下に失礼ですよ。」
ザリーナがアルフレッド国王に注意する。
「構わない。他にはそうだな……例えば、『ガンを治す秘薬』の販売など。」
「「「「「!!!!!!!」」」」」
その卓にいた皆が驚きの表情を見せ、食事を忘れて顔を見合った。
「……はは……ノックス陛下も人が悪いぞ……ガンを治す秘薬などと……」
「…そ…そうですわよ……そんな薬を作るなんて……」
「可能だ。現に1人、その秘薬にてガンを完治できた。」
「「「「!!!!!?」」」」
皆は驚き、アーリア王妃は思わず立ち上がった。
「それ、一体おいくらでお売りできますの!!?是非ともその秘薬を私めにお売りくださいませ!!お金ならいくらでもお支払い致しますわ!!」
「…アーリア王妃、気持ちは分かるがよさぬか。ワシとてそんな秘薬があるならば、いくらでも支払おうぞ。」
「量産についてはまだ未定ですが、そうまで仰っていただけるならロンメア王国、ウィンディア王国には優先して取引させていただこう。
金額についてもまだ未定ですが。」
「ノックス陛下よ。ならば友好国としての提案を受けて貰える、という事で良いのか?」
「当然だ。ロンメア王国は第1友好国として我が国としても是非とも同盟を結びたい。」
「ノックス陛下!ならば是非とも我がウィンディア王国とも!!」
「えぇ。ウィンディア王国とも同盟を結ばせていただきたい。さすがに酒の席での口約束ではなく、正式に。」
「ガッハッハッ!!良い!!良いぞよノックス陛下!!さすがはワシが見込んだ通りの男だ!!」
「ノックス国王陛下、どうぞ我らがウィンディア王国ともご贔屓に願いますわ。
うちの夫はこんなナリでもあまり喋らない質ですので。」
「よ、よさんかアーリア。」
無骨なシアン国王とは対照的にアーリア王妃はとても社交的な人だなとノックスは思っていた。