建国式
ノックスらがアステル島に帰還して1ヶ月。
王城は職人が納得できるまで細部にも拘ったため、当初前倒しとなっていたものの、ようやく完成となった。
改めて見やると、レンガ造りの王城は荘厳さを帯び、特徴的な4本の尖塔が左右対称に配置されている。
とはいえ前世の地球に比べ、重機など存在しないこの世界であるにも関わらず、ここまで完成が早いのは、魔術があるのもそうだが、やはりスケルトンが休みなく働き続けたことが大きい。
ノックスは彼らに休むよう何度も提言したのだが、『まだいけます!!』と言わんばかりに敬礼しては作業に没頭していた。
街のほうもかなり発展し、鍛冶屋や食事処もすでにテントではなく立派な建物が出来、住居としてもいくつか長屋が作られている。
元衰弱病の人族も『何か力になりたい』と、王城建設だけでなく、農作業などにも従事してくれていた。
シリュウとメローネは一旦ウィンディアへと報告に帰国したが、すぐさま沢山の物資と共にアステル島へと戻ってきた。
聞けば、ウィンディア国王がロンメア国王と協力し、沢山の物資をアステル島の発展のためにと用意してくれていたのだ。
そうして今日この日。
晴れて建国式の日を迎えた。
ロンメア王国からはアルフレッド・バル・ロンマリア7世国王。
各部隊の統括ザリーナ、ワーグナー、ハルバート。そこにそれぞれ部下たちも引き連れている。
その面々の中にはナバル、ホランド、フェリス、ドランも見て取れた。
久々の再会にフェリスはさっそく大はしゃぎしていたが、ナバルにより首根っこを掴まれていた。
ウィンディア王国からはシアン・ヴェルテ=マンムート国王。妃と息子のハーティも来ている。
各部隊長や部下たち。
さらには行商人のオーウェンも同伴していた。
建国式に参列する来賓の中には見慣れぬ顔も数名いた。
入国の際に確認すると、ウィンディアより南に位置するラヴィーナ共和国からも使者が来ていたようだ。
「初めましてノックス殿。私めはラヴィーナ共和国より遣わされた、ヒルダ代表補佐の『サンドラ』と申します。以後、お見知り置きを。」
そう言ってノックスの前に現れたサンドラは、歴戦の女王さながらの出で立ちであり、部下の筋骨隆々とした男共に全く引けを取らない。
名前と声を聞かなければ男と見紛うほどである。
「これはご丁寧に。ラヴィーナ共和国から使者がいらしたとは。」
サンドラはノックスと握手を交わしたのち、部下がサンドラに書簡を手渡した。
「こちらはヒルダ代表からの書簡であります。」
「……ほう……」
ノックスはサンドラから書簡を預かるとその場で改め、内容を一読する。
文面は、アステル島での建国を祝う文面であるが、基本的にラヴィーナは中立国を掲げるものであり、他国同士の争いには介入しない旨が書かれている。
もし、これを破ろうものならば、ラヴィーナ共和国は貴国を敵国と見なし、攻撃も辞さないという旨がオブラートに包んで書いてある。
「…ふむ…貴国の態度はもちろんこちらも承知している。こちらとしても、貴国を争いに巻き込むつもりもない。
ただし、貴国が教国と手を取り、我らと敵対するなら話は別だがな。」
「…我らは教国にも属しておりませぬ。無用な争いは避けるべき、と、方針を定めております。
ノックス殿のお気に障ったのならば、悪しからず。」
「構わん。建国式のついでにこの国を見て回るといい。
それで貴殿がこの国の方針についての見聞をヒルダ代表に報告してくれればいい。」
「寛容な対応、ありがとうございます。」
「ローシュ。彼女らを案内してやってくれ。」
「承知した。」
サンドラたちは下船し、ローシュの案内で城の中へと招かれていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
来賓らの迎え入れを終えたノックスらも場所を移し、中央ホールへと足を運ぶ。
中央ホールにはすでに来賓が着席しており、配下の魔族やスケルトン、元衰弱病の人族、マイナたちもすでに整列している。
ノックスはルナの見立てで拵えた正装で登場し、ノックスが現れると皆一斉に敬礼した。
こんなにもたくさんの人の前で話すことなど前世でも無かったノックスは、胃がキリキリと痛むほどに緊張していたが。
「皆の者、今日までご苦労であった。
思えば、このアステル島に来てから数ヶ月でこのような建国式を迎えられたこと。ロンメア王国、ウィンディア王国の助力。誠に感謝している。
この場を借りて、礼をしたい。
ありがとうございます。」
ノックスは来賓席に着席していたロンメア国王とウィンディア国王に深々と頭を下げた。
応じるかのように両国王も軽く頭を下げた。
「さて、今はまだこの名無しの国。この国の理念について皆に知らせたい。
1つ。この国は『自由』を重んじる。魔族が自由に暮らせる国というだけでなく、我らが理念に応じるならば、誰でも自由に安心して暮らせる国。我らはそれを目指す。
1つ。この国は『尊厳』を重んじる。各種族の尊厳は守られなければならない。当然、この国が他国に脅かされようものならば、我々は断固としてそれと戦う。
1つ。この国は『義』を重んじる。これは、人として正しい道という意味であり、か弱き者がいれば手を差し伸べ、悪には敢然と立ち向かう心を持つ。
以上がこの国の理念である。」
多少震える手でカンペを読みながら、ノックスは一呼吸置く。
「……では、この名無しの国に、名を与える。
今これより、この国は『イブリース王国』と名付ける。
このイブリース王国を、皆と共に繁栄し、永遠の栄光を!!」
「「「「「はっ!!!!」」」」」
皆の反応に少々肩透かしを食らったかのようなノックスだったが、一先ず壇上から降り、来賓に来ていたロンメア国王が続いて挨拶した。
「まずはこのイブリース王国の建国、誠に喜ばしく思っておる。ノックス国王陛下に置かれましても、我がロンメア王国への多大なる尽力、誠に感謝しておる。
我が国として願うは1つ。
それは、このイブリース王国との友好関係を結ばせていただきたい。
イブリース王国が提示した理念。『自由』と『尊厳』と『義』。それは、我が国の理念にも通ずる部分であり、大いに賛同させていただく。
是非とも、このロンメア王国との友好関係を考えていただきたい。
ともあれ、今日はこのようなめでたい席に呼ばれたこと、誠に喜ばしく思っている。
イブリース王国に幸あらんことを!!」
盛大な拍手が巻き起こる。
ノックスもスっと立ち上がり、ロンメア国王へと握手した。
続いてウィンディア国王も祝辞を述べる。
とは言え、ロンメア国王のように堂々としていた訳ではなく、こちらは多少緊張しているようだ。
「…え〜……コホン。まずは、イブリース王国の建国、おめでとうございます。
このような盛大な建国式にお呼び頂き、誠に感謝しております。
ノックス陛下につきましても、我が国では沢山の助力をいただきました。
我が国が教会から攻められた折、さらには、我が息子ハーティの誘拐。
ノックス陛下の助力無しでは、我がウィンディアは滅亡していたやもしれませぬ。
その多大なる貢献に比べれば、我がウィンディアの助力など大したことではありません。
つきましては、我がウィンディア王国も、イブリース王国との友好関係を結ばせていただきたい。
友好の証として、我が国から質の良い馬を3頭、献上させていただく。
改めて、本日を迎えられたこと、誠におめでとうございます!」
こちらも盛大な拍手が送られ、ノックスも先と同様に立ち上がってウィンディア国王と握手を交わした。
2名の国王の祝辞が終わり、ノックスが壇上へと上がる。
「両陛下、ありがとうございます。
先程両陛下よりありました友好関係の申し出ですが、こちらとしても喜ばしい提案にございます。
一先ずはこのまま迎賓館へと起こしください。
沢山の食事と酒を用意しておりますので、どうぞ、ご緩りとご堪能ください。」