気付き
薬草探しへと出かけたルナとシャロンは、拠点より少し離れた森の入口付近で薬草を探していた。
2人の様子を陰から騎士スケルトンが暖かく見守っている。
「…あ!ここにも!!……あっ!あそこにも!!」
軽くはしゃぎながら薬草を摘んでいたシャロンとは対照的に、ルナは黙々と薬草を摘んでいる。
1時間もすれば、持ってきた袋の中には薬草がギッシリと詰まっていた。
「ふぅ…結構たくさん取れたね!」
「…うん……そうだね。」
「これだけあれば、ナタリアお姉ちゃんも喜んでくれるかなぁ。」
「………そう……かな。」
「そしたらノックスお兄ちゃんも喜んでくれるかもしれないね!」
「……うん……」
ニコッと笑うシャロンとは対照的に、ルナは複雑な表情を浮かべる。
「……ねぇ、シャロン…ちゃん?」
「シャロン、でいいよー。」
「…じゃあ、シャロン。どうしてあたしを誘ったの…?」
「…え…?」
「…だって、他にも人が沢山いたし……あたしなんか誘うより、もっと役に立てそうな人のほうが…」
「……そんな事ないよ……」
「……もしかしてあたしに気を遣って、かな…?
あたしはお兄ちゃんとは違って、全くの約立たずだし…」
「……そんな事……!」
「…あたしは守られてばっかり……
…それこそ、あたしより幼いシャロンのがよっぽど……
……お兄ちゃんは何でも出来る凄い人なのに、妹のあたしといえば……」
「そんな事ない!!」
シャロンは目に薄らと涙を浮かべながら否定した。
「……ルナ様は役立たずなんかじゃないもん!!」
「……シャロン……?」
「ノックスお兄ちゃんは確かに凄いけど、甘いお菓子に目がないし、つまみ食いもよくしてる!
この前だって、後ろ髪に寝癖がついてたし!服のボタンを掛け違えてたことだってあるもん!」
「……シャロン……??」
「…あ……えっと、そうじゃなくって………その、あたしが言いたいのは……
……ナタリアお姉ちゃんも言ってた。『人には向き不向きがある』って!」
「…………」
「………あたしもね………ルナ様みたいに考えたことある。『自分なんか何の役にも立たないんじゃないか』って。
でも、ノックスお兄ちゃんだって完璧じゃない。だから……その……上手く言えないけど……」
必死に言葉で説明しようと頑張るシャロンを見て、ルナは少し表情を和らげ、シャロンの頭を撫でた。
「……ありがとう、シャロン。」
「……ルナ様……?」
「あたしに『様』なんて要らないよ。お兄ちゃんみたく、お姉ちゃん、でいいから。」
そう言ったルナは優しく微笑みかけた。
「…うん!ルナお姉ちゃん!」
「…さ、暗くなる前に森を出よっか。」
「うん!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
拠点へと戻ってきた2人は摘んできた薬草をナタリアへと手渡した。
かなりの量摘んできたことに少々驚いていた。
その後夕食となり、ルナはナタリアと一緒に食事を摂ることにした。
「ルナ様、此度の薬草採取、ありがとうございます。」
「…いえ……」
「シャロンは、何か失礼などありませんでしたか?」
「失礼も何も。あたしのほうが色々と……」
シャロンはひと仕事終えたことで上機嫌となったのか、他の職人たちとも楽しそうに食事をしていた。
「シャロンは凄く明るくて良い子だね。」
「……失礼ながら、少し宜しいでしょうか?」
断りを入れたナタリアがルナへと話しかける。
「…あの子は、私が出会ったころは喋ることもせず、痛みで泣くことも、喚くことも、当然、笑うこともありませんでした。」
「……え……?」
「……あの子は……教会の連中に姉共々捕らえられ、いたぶられ、姉を目の前で殺されたのです。」
「…そ、そんな事が……!?」
「…ノックス様に出会い、体の傷を癒してもらいましたが、喋るようになったのはここ最近の話なのです。」
「……………」
「あの子は、強いです。血は繋がってはおりませんが、私の自慢の妹です。」
ルナは雷に撃たれたような衝撃を受けた。
自分と同じ、いや、それ以上の地獄を見せられたはずだというにも関わらず、あんなにも元気に振舞っている。
それなのに、自分はどうだろうか?
兄と比べ、自分の力の無さを嘆き、自ら役立たずの烙印を押している。
それでどう人の役に立てるというのか。
兄は確かに誰よりも強く、偉大な存在だろう。
でも、そんな兄でも完璧ではない。
つまみ食いはするし、甘党だし、寝癖がそのままだし、ボタンの掛け違えだってする。
ルナは何となく、兄と比べている自分が如何に愚かだったのか気がついた。
「……ナタリアさん、今回の件ってもしかして、お兄ちゃんが?」
「……ずっと、ノックス様はルナ様の事について考えておいででしたから。」
「……わかりました……」
そう言うとルナはスっと立ち上がった。
「ナタリアさん、今、お兄ちゃんがどこにいるか分かりますか?」
「この時間なら、王城建設現場付近のテントにいるはずです。」
「わかりました。ありがとうございます!ラインハルトさんも着いてきてください!」
ルナはその後、騎士スケルトンを連れてノックスの元へと向かうことにした。




