孤独
恐怖。
あたしの心は恐怖でいっぱい。
両親の記憶はあまりない。
あたしがまだ幼かったころ、お兄ちゃんが刺されて谷に落とされた。
何度もその光景が夢に出る。
あたしが泣き叫んで、お兄ちゃんを助けようにも、あたしは取り押さえられ助けに行けない。
夢の中で、血まみれのお兄ちゃんが現れる。
『なんで助けてくれなかったんだ?』
そう言って夢に現れる。
ノースやレナントが、怖くて震えているあたしを見て高笑いをしている。
地獄だった。
怖くなって飛び起きても、そこでもあたしはまだ地獄にいた。
ベスティロはあたしを度々連れ回した。
『勇魔大戦活劇』という悪趣味な劇を見せつけるために。
捕らえられた魔族が無理やり魔王を演じさせられ、無惨に殺される劇。
嫌というほど見せつけられた。
『教会に仇なす者。魔族。魔王。そいつらはこうやって無惨に殺す。』
観客はそれを見て歓声をあげる。
その劇中で、ベスティロは忌まわしい何かを召喚したりもした。
『アニムス』とかいう名前の、得体の知れない者。
禍々しい見た目通り、魔王役の人は無惨に捕まり、殺された。
屋敷の中でもあたしに自由など無かった。
存在を秘匿され、名乗りたくもない名を名乗らされた。
もうあたしには生きる資格など無く、人形のように心を殺すしかないと。
そう思っていた。
お兄ちゃんが助けてくれたあの日。
薄れる意識の中、レナントらが殺され、ノースがベスティロの頭をナイフで刺し貫いた。
こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
現実のお兄ちゃんは、夢の中とは違って優しくて強くて、暖かかった。
あたしはこの13年間、何も出来なかった。
ただ怖くて震えて、奴らの言いなりになるしか無かった。
お兄ちゃんはこの先、たくさんの仲間と共に教会を滅ぼすらしい。
ざまあみろ。
教会員なんて全員皆殺しになればいい。
…………
……あたしは……
……あたしは何をしてるんだろ……
ベスティロに奴隷としていいように飼われ、怖くて震えて……
その上、助けてもらったお兄ちゃんに、ただ任せるだけで………
あたしを気遣ってくれてるのか、お兄ちゃんは何も言わない。
いや、もしかしたら、戦力にもならないあたしなんて、もはや蚊帳の外なのかもしれない。
騎士スケルトンはずっとあたしのそばにいる。
名前は…確か…『ラインハルト』…だっけかな。
正直最初は骨だけのスケルトンが恐かった。
でも、ラインハルトさんはあたしをずっと見守ってくれてる。
お兄ちゃんの部下の人達も、みんなあたしなんかに気を遣ってくれる。
こんなあたしのために。
お兄ちゃんは凄い。
本当に凄い。
たった1人であんなにも強くなっただけじゃなく、たくさんの人から慕われてる。
ベスティロの屋敷ではあたしはずっと孤独だった。
他の使用人からも、あたしは存在そのものを疎まれていた。
そんなにあたしが嫌いなら殺してくれればいいのにって。
そう思ってた。
いざこうして助けてもらったけど………
お兄ちゃんはあたしに構ってる余裕なんか無い。
周りの人たちだってそう。
あたしのことを、まるで腫れ物を触るかのよう。
……そりゃそうだよね。
お兄ちゃんは凄い。
でもあたしは違う。
結局あたしはここでも
独りぼっちなんだ。