ダンジョン作り
ノックスらがアステル島に帰還してから幾日が過ぎた。
あれからも島の開拓はどんどん進み、城の進捗に至っては約3割程が完成した。
ムエルテ島で収監されていた元衰弱病患者たちも活力を取り戻し、アステル島で協力して拠点作りをしている。
とは言え、ここまで早いのは、ロンメアやウィンディアの職人たちの努力もあるが、それ以上にスケルトンらが無休で働き続けてくれているおかげであった。
地下水路や道路などのインフラ整備も着々と進んでいる。
シリュウとメローネは物資調達のためのマーメイド号へと同船し、そのままウィンディアへと帰国する手筈となるはずだったが、2人の要請により引き続きアステル島での拠点作りを手伝うこととなった。
2人はノックスが進める街づくりの方針に関心しきりであったのと、整備を進める上で今度こそ役に立ちたいと懇願したためだ。
とはいえ、シアン国王へ報告するため、一旦はウィンディアに帰国することとなった。
その頃、ノックスは今日はベリアルと共に町外れへとやってきていた。
「この辺で良いじゃろう。ほれ、地魔術で洞窟を作るがよい。」
「……どれくらいの大きさでだ?」
「大きければそれだけ魔力を必要とするからのう。適度にじゃ。」
「……適度と言われてもな……なら、適当にやるぞ。」
ノックスは大地に手を翳し、魔力を練り上げる。
大地がぼこぼこと波打ち、空けた穴の分の土が盛り上がっていく。
ノックスはイメージを膨らませながらさらに魔力を注ぎ込み、地表には大量の土が隆起していた。
「……ふぅ……こんなものか……」
かなりのMPを消費したノックスだったが、それに比例して大量の土が地表を埋めつくしていた。
「……ふむ……1回の魔力でこれ程までに土を掘るとはのう……」
「…大きすぎたか?」
「…さすがにまだダンジョンとしては小さいかもじゃな。とりあえず1度中に入ってみようかのう。」
ノックスが作成した洞穴に入ると、かなり大きい空洞となっていた。
発光のスクロールを取り出して辺りを見回していた。
中には通路があり、進んでいくと大きめの空間に出る。
その空間からは2本の分かれ道があり、どちらを選んでも下へと続く道が伸びる。
横から見ると、アリの巣のように下へ下へと続きながらも各所に大きめの空間がある、というような造りである。
「このまま無闇に造り進めても崩れてしまいかねん。」
「これだけ掘ったにも関わらずまだ余裕があるとは……さすがはバケモノじゃのう……」
ノックスは小休止した後、再度大地へと手を翳して魔力を練り上げ、ベリアルも協力して先と同じ要領で大地を掘り進めていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ふぅ……こんな感じでいいか。」
ノックスはその後もアリの巣をイメージしながら下へ下へと掘り進めた。
満足のいくダンジョンに仕上げるまで3日も要してしまったが。
2人だとかなり時間がかかることから、途中から魔術師スケルトンにも協力を仰いだ。
階層で言えば10階層。
各フロアにある空間からは枝分かれする道を何本か作ったため、アリの巣と言うより植物の根のように末広がりな形状となった。
最深部へとたどり着くまでに複数の分かれ道を作ったため、正解のルートを間違えずに到達できるのがおよそ1/1000という確率となった。
ベリアルの嗜好により、不正解の道でもそうと気づかないほど奥へ奥へと作り込まれた。
おかげで大量の土が地表に盛り上がってしまっているのだが。
「……ふぅ……さすがにワシも疲れたぞ!!しかし、そのおかげでワシも大満足の仕上がりじゃ!!」
地表に戻った3名はダンジョンの出来に満足していた。
「…それで、これからどうすればいいんだ?」
「…む?なにがじゃ?」
「……なにがって……この穴をダンジョンにするんだろう?」
「おお、そうじゃった!穴を掘っただけで満足しておったわ!ガハハハハハ!!
こっからはまた膨大な魔力が必要じゃから、明日にするぞ!!」
「……了解だ。アルフェウスも良いか?」
魔術師スケルトンは「了解!」と言わんばかりに敬礼した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
3名はダンジョン予定地へと赴いていた。
後ろからはノエルたちと職人何名かも来ていた。
「それじゃあノックス、ジジイの魔石を!」
カバンから地龍の魔石を取り出した。
魔石はあの時と変わらず鮮やかなオレンジ色をしており、50センチもの大きさにノエルたちは感嘆の声をあげた。
「この魔石を核とし、この洞穴をダンジョン化させるのじゃ。」
「…具体的にどうすればよい?」
「魔石に魔力を注ぐだけじゃ。これほどの大きさなら相当量流し込んでも壊れはせぬ。」
「…ほう…」
その後、ノックス、ベリアル、アルフェウス3名が魔石を取り囲み、手を翳して魔力を注ぐ。
3名から注がれた膨大な魔力により、魔石は怪しげな光を放ち始めた。
それでも尚魔力を注ぎ続けると、魔石から陽炎が立ち上る。
「…はぁっ…はぁっ……も、もう良いはずじゃ…!」
ベリアルの合図で中断すると、ベリアルもアルフェウスもMPを消費しすぎたのか、膝を付いて肩で息をしていた。
さすがのノックスでも少々息を切らしていた。
「…ふ……普通は……ここまで……デカい、魔石を……使わんのじゃがのう…はぁ…はぁ……
……さすがは……ジジイの魔石じゃ……」
「……この魔石、とてつもない魔力を有しているな……
これをこの穴の中に仕込めばいいのか?」
「…その通りじゃ……見えないところに……仕込むんじゃぞ……はぁ……はぁ……」
「分かった。」
マジックポーションを何本か飲んだノックスと、さらに仕掛けを用意する為にノエルとアイン、それとドワーフ族とエルフ族の職人を連れて洞穴の中へと入っていった。
ノエルらは初めて見る内部の構造に感嘆していた。
やがて最深部へと到着し、ノックスは魔石を壁の中へと埋め込む。
衝撃で崩れた際に魔石が露わにならないよう、深すぎず浅すぎず。
その間にノエルらは別の仕込みを準備していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
地表へと戻ってきた所で、出入り口を地魔術で封鎖させる。
これにより、魔石に閉じ込められた魔力が停滞し、ダンジョンと化すようである。
「一体どれくらいでダンジョンになるんだ?」
「…そうじゃのう……大体、1ヶ月くらいかのう。」
「それぐらいでダンジョンとなるのか。意外に早いな。」
「本来ならあの魔石を核にしたダンジョンの場合、もっと大きくしても良かったかしれんのう。
それに、ダンジョンの大きさに比べて注いだ魔力が大きすぎるから、難攻不落のダンジョンとなるかもしれんのう!
ガハハハハハ!!」
「楽しみだな。」