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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第18章 拠点作り
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凱旋帰国

 セイレーン号はそのままアステル島へと向けて出発した。



 ルナが伏せている病室を護るよう騎士スケルトン(ラインハルト)が付きっきりになってくれた。


 特段ノックスが指示したわけではないが。



 ややもすればベリアルが起き出し、「腹が減った」と騒がしくなったりもした。



 同じく病室で伏せっていたジェラートであったが、簡単に食事を済ませたかと思いきや、

「すぐにでも頭の中の情報を整理したい。」

 と切望したため、作戦会議室を借り、紙にありったけの情報を書き連ねていた。



 本当はルナともっと話しておきたいと考えていたノックスであったが、ルナの心に刻みつけられた恐怖はまだ癒えておらず、しばらく様子を見るしか無かった。



 他の面々は、ノックスがサントアルバ教国でどうだったのかをヨハンナが説明していた。



 ただ、『砂粒縛・霙』という悍ましい魔術の説明の際には船の揺れも相まってか嘔吐していた。




 ともあれ、セイレーン号はその後も順調にアステル島へと向けて進み、2週間足らずでアステル島へと無事に到着した。




 急拵えで作られた港には拠点作り班が出迎えており、ノックスらの戦いを労い、凱旋帰国となった。



「ノックス様、さぞお疲れであろう。ルナ様の救出も無事に完了し、一同、心より安心しておる。」


「ありがとう。早速だが、ルナを休ませる場所はあるか?」


「もちろんだ。さ、こちらへ。」



 ローシュに促され、一同はアステル島へと案内される。



「ノックス様ーーー!!お待ちしてたよーー!!」



 と一際大きな声を張り上げ、ノックスに抱きつこうとルミナが駆け寄ってきた。


 が、それを遮るかのように横から姫スケルトン(フィオナ)が現れ、ルミナより先にノックスへと抱きついた。



「んなぁぁ!!あたしのノックス様をー!!」



 横取りしたフィオナに猛抗議したが、フィオナは構わずノックスに抱きついたまま離れようとしなかった。



「…フィオナも、ルミナも。ご苦労さま。

 ……そろそろ離れてくれ。」



 ノックスの言葉でようやく離れてくれたフィオナだったが、ルミナは諦めずに抱きつこうと機会を伺っているようである。



「…ジェラート殿。こちらが前に話していたルミナだ。」



 その気配を察知していたノックスはすかさずジェラートにルミナを紹介した。



「おぉ……!!…では…あなた様が……!!」



 ジェラートは自身の癌を取り除く薬を開発したルミナに向けて目を煌々とさせ、ルミナの手を取って涙を流して感謝した。



「ありがとう…!!ありがとうよ…!!あなた様のおかげで俺は生きながらえた……!!

 ありがとう……!!!!」


「ふぇっ!?な、なに急に!?あたしがなんかした!?」


「あなた様は命の恩人だ…!!ありがとう…!!」


「ちょ、ちょちょちょっとぉ!?一体なんの話!?……ってノックス様ぁ!?」


「そういうことだ。」


「そういうことってどういうことぉぉ!!?」



 訳も分からずにいきなり感謝されていることに戸惑うルミナを尻目に、ノックスらは先を急ぐことにした。




 テントがいくつも張られており、王城予定地には基礎が打たれていた。


 その中のとりわけ大きいテントに入り、一先ずここでルナの療養が行われた。


 ノックスはその後ローシュの案内で島の状況を確認する。



「…城は後でも構わんと言ったのに……」


「ハッハッ。そうは言われても、皆ノックス様のためにと頑張っておるのだ。特にスケルトンは休むことなく尽力してくれておる。」


「……それでここまで……」



 王城の基礎の大部分がほとんど終えており、1階部分にはレンガが組み敷かれ始めていた。


 他の街並みにも住居や店となる家がいくつか基礎部分が組み上がっていた。



「例の仕掛けは上手くいきそうか?」


「あぁ。見てもらうのが一番であろう。着いてきてくれ。」



 ローシュに案内されるまま着いていくと、そこは地下道を掘り進めている出入口であった。



「予定通り、王城や住居を取り囲むよう円形に掘り進めておる。後々マジックパウダーの交換をしやすくするため、いくつか小分けにした筒を仕込んで参ろうかと。」



 マジックパウダーとは、残念女店長ルミナが発明した物質で、魔術を閉じ込め、任意のタイミングで発動させる事のできる代物である。


 このマジックパウダーにはノックスが発動させた魔障壁を封じており、万が一敵の襲撃があった場合、即座に魔障壁がぐるりと王城や住居を取り囲み、防御するようにと拵えたものだ。


 その為、この魔障壁の通り道となる地上には建物を置かないよう、目印が打ってある。



「マジックパウダーは足りそうか?」


「計算通りだ。予備にするマジックパウダーまで用意することは出来なかったが…」


「となると、またベヒーモスを狩るしかないか。そう簡単に出会えればいいが。」


「それと、この島だが…少々面白い事が分かったのだ。」


「…なんだ?」


「ベリアル殿とノックス様が戦闘し、この島の大地を熱して冷まし、均した、と。」


「…ん?あぁ、そうだが?」


「その際、眠っていた鉄が所々で魔鉄と化しておる。それだけでなく、ノックス様の魔力をふんだんに蓄えた土のせいか、作物の成長が異様に早いのだ。」


「…そうなのか…」



 ローシュが指さした方を見やると、植えられた小麦が既に芽吹いていた。



「続いてはこちらだ。こちらが下水道となる。」



 先程案内されたマジックパウダーの地下道より更に下を通るように、大きめの地下道を作っていた。



 さらには、各家庭で排出される汚水がアクセスしやすい様、下水道はあらゆる所に張り巡らされていた。


 汚水は下水道を流れながら、そこらに仕込んでいる『浄化』を付与した魔石の効果により浄化され、海へと流す仕組みになっていた。



「…しかしながら、なぜわざわざ汚水を浄化させるのか…そろそろ、お教えいただきたい。」



 この世界の汚水はそのまま海や川へと垂れ流すのが主流であり、汚水が環境に与えるダメージについては考慮されない。


 どれだけ汚水を流そうとも、海という膨大な水で希釈されるため、気にも留めないのだ。



「自分たちで汚した水は自分たちで綺麗にする。水が汚染されれば、特にこんな島国では死活問題だ。」


「……それは分かるが……使用する水にのみ『浄化』を行えばよかろう?」


「ダメだ。俺たちがここに暮らすことで、少なからず生態系に影響を及ぼしてしまう。海で希釈されるとは言え、それは巡り巡って近い将来、必ず自分たちにツケが回る。」


「…ほう……」


「例えば、知らず知らずの内に汚水が混ざり合い、人体にとても有害な物質へと変質する可能性もある。

 ローシュは、川の水はどこからやって来て、それがなぜ飲める水か分かるか?」


「……ふむ……一般的には雨が降り注ぎ、それが高い山から流れている。飲めるのは……蒸留されている、もしくは、濾過されているから、かのう。」


「その通りだ。では、その雨を降らせるための水源は?」


「……海…じゃな……」


「そうだ。この島国は周りを海で囲われている。当然この島に降らせる雨は、近海の海から発生した雲が運んでくれる。

 すぐに、とは言わないが、海が汚染されれば、降り注ぐ雨によって人体だけでなく自然にも牙を剥く。」


「な、なるほど…!!そのためであったのか…!!

 ……いやはや……ノックス様はどこでそのような知識を……

 このローシュ、目から鱗が落ちたわ……」


「この国を何年、何十年、何百年と続けていくには、長い期間を見据えてある程度設備を整えておきたい。

 後からこの設備を取り入れるとなると、それこそ大掛かりな工事が必要になる。」


「ハッハッハッ!!さすがはノックス様だ!!

 ……しかしながら、この『浄化』下水道システム。これはどこの国も見習うべきことかもしれんのう……」



 この異世界にて、世界で初めて環境に配慮した国作り、その第1歩がここから始まった。

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