それぞれの思惑
サントアルバ教国での戦闘を終え、ルナの奪還に成功したノックスたちは転移のスクロールを使用して一時ムエルテ島へと戻っていた。
ベリアルは派手に暴れたようで、ムエルテ島は無惨にも瓦礫の山と化していたが。
その後ベリアルは暴れ疲れたのか、ノックスの転移先付近で腹を出して豪快に寝ていた。
「……また派手に破壊したな……」
「……ここはムエルテ島か……?……ククク……随分と様変わりしたようだな…」
「そういえば先に断っておけばよかったな。」
「…何がだ…?」
「ジェラート殿の荷物だ。あの地下室に置きっぱなしだろう。」
「それについては問題ねぇ。あそこにある情報は全部この中にあるさ…」
ジェラートはそう言いながら自身の頭を指さした。
「…それに、万が一教会の連中が強引に地下室にでも入ろうもんなら、建物が崩れる仕掛けになってんのさ。」
「……見るからに崩れかけていたのはそういう訳か。ならばこのままアステル島へと向かおう。」
「…どうやって向かうつもりだ…?」
「こちらだ。」
ノックスはカバンから別の転移のスクロールを取り出して床へ広げる。
その後、寝転がっているベリアルを小脇に担ぎあげた。
そうして一行は再度転移のスクロールの上に立ち並び、魔術師スケルトンが魔力を注入して一瞬のうちに消え去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ムエルテ島から離れ、停泊していたセイレーン号では、ノエルらはノックスの帰りを今か今かと待ちわびていた。
「チッ…付いて来たはいいものの、ほとんど役に立てずだったじゃねえかよ……情けねぇ……」
そう悪態をついたのはシリュウである。
空から援護していた鳥人族とは対照的に、竜人族は海から侵入し港を制圧するという任務に従事していた。
善戦したものの、数で勝る守備隊にやや押され気味だったところを、同じく海中からやってきたスケルトンたちのおかげで港の制圧に成功したのだ。
その後ホークとリドルが現れ、停泊してあった輸送船を確保し、逃げてくる守備隊から輸送船を守っていた。
ホークとリドルはその後、ノックスらが教会から引き上げる際の転移用スクロールを設置し、前線へと戻っていった。
「役立たずってんならアタイもだヨ……大見得切って着いてきたってのにサ……」
「…嘆いていても仕方ない。己の実力不足を知らされたのは、お前たちだけではない。」
「…ノ…ノエルさン……」
「……力を付けたと思い込んでいたが、結局俺はノックス様の手を煩わせてしまった。スケルトンが助太刀に来てくれなければ…俺は……」
「………俺からすりゃあアンタも相当にやるのになぁ………それでもまだまだ井の中の蛙だってことかよ…」
「……訓練あるのみ……か。」
「……改めて礼を言わせてもらうわ。今回の件、本当にありがとう。」
自身の無力さを嘆いていた所へ、マイナが皆を引き連れてシリュウたちの元へとやってきた。
「……アンタらにものっぴきならねぇ事情だったってのは承知の上だったけどよぉ、正直ここまでの事になってるたぁな……ま、役には立てなかったが。」
「そんなことは無い。役立たずというのならば、それは俺たちのほうだ………
あなた方の協力があったからこそ、家族とこうやって無事に再会することができたんだ。」
「…そう言ってもらえれば、ウチらも多少は…心持ちが軽くなったヨ…」
皆が集まって反省会をしていたその時、甲板に用意していた転移用のスクロールが発光し、その中からノックスたちが現れた。
「ノックス様!!よくぞご無事で!!」
「ノックス様!?」
「ノックス様が戻られたわ!!皆に知らせて!!」
「そのままでいい。皆ご苦労だった。積もる話もあるだろうが、一先ずルナを。」
騎士スケルトンが丁寧にルナを抱え込んだまま、一同は船室の療養用のベッドへと足を運ぶ。
小脇に挟んだベリアルも一緒に別のベッドへと横たえた。
「ルナ様を無事救出することができたのですね。」
「あぁ。皆のおかげでな。」
「あ、あの……ルナ様のご容態は……?」
「単に気を失ってるだけだろう。しばらくすれば意識も戻るはずだ。」
ルナの回復を見守りたい所だったが、ノックスは皆を労い、特に癌が消え去ったとはいえ、痩せ細ったジェラートも同じく療養用のベッドへと横たわらせた。
その後、簡単に報告を済ませた。
「…ということは、ようやく仇敵を討てたわけですか…!」
「…それだけじゃないわ。教会の枢軸とも言える枢機卿を一人討ち取った…!
…誠に素晴らしい戦果であります…!!」
「マジパネェッスよ!教会の中枢で暴れて、それでいて目的を果たしちゃうんッスから!!」
「……いい事ばかり……という訳でもない。」
沸き立つ一同とは違い、ノックスは落ち着いた表情で続けた。
「これから教会との全面戦争に突入というわけだ。12使徒はまだあと7人。奴らが呼び出したアニムスというような得体の知れない者。
今まではサントアルバだけを相手にしていたが、教会も今後、加盟国にも呼びかけ、連合を成して攻めてくることもありうる。」
「……ま……まぁでも、ノックス様なら……」
「アイン。いつまでもノックス様に頼りきりというわけにはいかんだろう。ノックス様不在であろうとも、我々だけでも戦えるよう訓練する必要がある。」
「…なればこそ、一刻も早くアステル島での拠点を早く完成させなければなりませんね。」
ノックスの言葉を受け、皆の表情は様々である。
アインはなにか落ち着かないような顔をしたり、ナタリアとモズは決意を滾らせた顔、リドルは何か考え込んでいる表情。
ただ、ノエルは皆とは違い、何か思い詰めた様な表情をしていた。
その時、会議室の扉を叩き、入室してきた船員から報告があがった。
「キャプテン!!ルナ様が目覚めましたです!!」