因縁
「……おいおい………あれマジかよ………」
ノックスがアニムスを撃破し、ベスティロとノースを葬る様を遠くから眺めている2人の男女がいた。
「…はぁ……しばらく直属の上司だったけど、あんなにもあっさり殺されちゃうのを見ると、複雑な気分ね……」
「…話には聞いてたけど……あのノックスっつうのはシャレにならないな。あの魔術のタネについては、レイカは分かったか?」
「…さっぱり。
……ただ、アニムスを直接的に葬れるって事は、暗黒魔術の類かも。」
「…暗黒魔術…?けどあれは死者を蘇らせるって魔術だろ?それがなんでアニムスを葬れるんだ?」
「暗黒魔術は死体に魂を定着させる魔術ってのは、ヒロキも知ってるよね?」
「あぁ。前に枢機卿がそんな事言ってたな。」
「アニムスは、魂を喰らう者。実体が無いけど、あれは存在そのものが魂に近い存在だからじゃないかしら。」
「……ほう。」
「暗黒魔術は、とどのつまりは魂を操る魔術。魂に干渉する術があるからこそ、アニムスにも干渉できる。
そう考えれば、あのノックスがアニムスを屠れた理由にも納得がいくわ。」
「…そういやスケルトンもいたからな……なるほど、それなら確かにありうるか。」
「ただ、暗黒魔術であったとしても、あそこまで強いスケルトンを作るとなると、想像を絶するほど大量の魂を生贄にしたか、もしくは、古くから存在していたスケルトンに『飼い慣らし』でも行ったか…」
「離反者の中にそんな固有魔法持ちはいなかっただろ?……あ、そういえば……ズーグがウィンディアに侵攻する際、確かカイロスっていう『飼い慣らし』持ちがいたはず。」
「……そいつも裏切った可能性、か……そいつってあんなスケルトンを従えるほどそんなに強かったかしら?…ま、あたしにはどうでいいわ。」
「それもそうだけどよ、これ、教皇様が黙っちゃいないぞ。ってかそもそも、あんなバケモン相手に対策とかできんのか?」
「……まず無理よね。今残ってる12使徒全員かき集めたとしても、あのノックスとスケルトンら相手じゃ勝ち目なんか無いわ。
やるとするなら、各個撃破ってとこかしらね。」
「まあでもさ、どの道あのノックスの目的はルナってガキなんだろ?
触らぬ神に祟りなしって諺通り、わざわざ虎の尾を踏みに行く必要もないか。」
「そのあたりを良しとするかよね。」
「………たださ、1つだけ気にならねえか?」
「……なに……?」
「確か、あのノックスは13年前、ノースが『悪魔の口』にたたき落として死んだはずなんだろ?」
「……確かそう聞いてるわね。」
「気になって色々調べてみたんだけどさ、その『悪魔の口』は相当深い谷になってんだ。
それを、5歳やそこらのガキが落とされて、生きてるはずねぇんだよ。」
「……たまたま水の中に落ちたとか?」
「……仮にそうだとしても、どうも腑に落ちない。
レイカはさ、5歳のころにいきなり1人でサバイバルしろって言われて、できるか?」
「…………できないわよ。ってか、そんなの誰だって………」
「………あのノックスはさ………もしかすると……俺らと同じなんじゃねえか……?
……時期だってピッタリだ。
デュバルんとこに引き取られた『黄泉がえり組』だってそうだった。」
「………待って………それじゃあまさか………」
「……俺も色々気になって調べたんだよ。当然その『黄泉がえり組』にもな。
俺らが死んだと思われる事故で、その『黄泉がえり組』は相手側の車に乗ってた連中だった。」
「……あの事故で死んだのは……あたしとヒロキと、その『黄泉がえり組』だけじゃなかった……?」
「…13年前、ノックス少年は確かに死亡した。その少年ノックスの体に転生、ということであれば、知識も豊富だ。何も知らないガキよりよっぽど生き残れた理由としちゃあ十分じゃないか?」
「………それじゃあ、あのノックスは………」
「あぁ。俺の元先輩であり、レイカの元婚約者って可能性が高い。」