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【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第17章 救出作戦
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死の病

「目的は達した。引き上げるぞ。」



 ベスティロを始末し終えたノックスらは、サントアルバ教国から撤退するため移動を開始する。


 隷属の首輪からの雷撃で意識を失っていたルナを騎士スケルトンが丁寧に担ぎ上げ、ノックス先導のもととある場所へと向かう。



 そこは、ベスティロ邸を地下通路で繋いでいた例の空き家だった。



 空き家の中にはジェラートが居たが、衰えた体力のせいで疲れ切っていた。



「…ノックスさんか……ゴホッゴホッ……!!」


「ジェラート殿、待たせたな。」


「……とんでもねぇ気配が消えて、ノックスさんらが現れたってことは……ベスティロのクソ野郎は……」


「安心してくれ。ベスティロもノースも始末した。」


「……ほ……本当に……やってくれたんだな……!!ゴホッゴホッ!!あ、あんたが……ノックスさんがベスティロを……!!ゴホッゴホッ…!!」


「ジェラート殿、落ち着け。体調が良くないようだな。」


「…し…心配にゃあ、及ばねぇ……しかし…あんたも律儀だな……さっさと引き上げりゃあいいものを、わざわざ俺に報告なんざしに来るとは……」


「当然だ。この作戦も、全てジェラート殿の情報あってのことだ。」


「…そりゃあ、ありがたいねぇ……ゴホッ……ゴホッゴホッ!!」


「……ジェラート殿……?」



 久々の運動で衰えた体力に響いたのもあるかもしれないが、ジェラートの容態はそれだけではないようであった。


 咳込んだ際に吐血したのか、手には血が滲んでいる。



「…ハァ……ハァ……こりゃあ俺も……無理が祟っちまったなぁ……ゴホッ……」


「待ってろ。」



 ノックスはすぐさま医療魔術を試みるも、ジェラートの容態に変化は無かった。



「……回復魔法じゃ無理だ……俺ぁ癌でな………あのベスティロがくたばる様を見れただけでも……神様ってのがあんなら……跪いてでも感謝したいところさ……ゴホッゴホッ!!」


「……癌……」



 ノックスの医療魔術がいかに優れていようとも、ケガならともかく病までは治せない。


 とりわけそれが、外部からのウイルス性の病気ではなく、癌であるならなおさらだ。



「……ジェラート殿……」


「……ククク……そういう顔をしなさんな……俺ぁあんたに感謝してる……さぁ、死に体の俺のことなんざ置いといて、あんたらはさっさと……撤退を………」


「……しかし……」


「……まだそう簡単にゃあくたばらねぇさ……俺自身の体は、俺自身がよく分かってる……さぁ……早く撤退を……」



 このままジェラートの言うように自分たちだけで撤退するべきなのか、それとも連れていくべきなのか。


 連れて行ったとしてどうする。


 彼を治療するには、外科的な手術が必要である。


 それに、癌ともなれば、他の臓器に転移している可能性も大いにある。


 何か治療法は無いのか。



 ノックスが思考を加速させ、何か手立てはないかと探る。


 こんな時、大抵のRPGならエリクサーのような万病にも効く薬草でもあれば、などとも考える。


 外科的な治療が必要なら、ノックスが回復魔法を掛け続け、その傍ら患部を切除するか。


 ……いや、それではおそらくジェラートの体力が持たない。




 色々と思考を加速させていたノックスは、1つの可能性に思い当たる。




 いや、それですら今のジェラートを治せるかどうかの保証も無いのだが。



 ノックスは少ない可能性ではあるものの、試す価値はあると判断し、カバンから1本の小瓶を取り出した。



「ジェラート殿、これを飲め。」


「……な……なんだそりゃあ……?……ポーションか……?」


「これはとあるエルフ族が作ったハイポーション(試作)だ。癌に効果があるかは分からんが、試してみる価値はある。」


「…ハイポーション……だと…?……ククク……魔王様が、そんな貴重なモンをこんな俺に…?ただ、ハイポーションであれども癌は……」


「いいから、飲んでみてくれ。」



 ジェラートは差し出されたハイポーションの小瓶の蓋を開け、ノックスの顔を見やる。


 ノックスは静かに頷くと、ジェラートはその小瓶を一思いに煽った。



 液体がゴクリと喉を通ると、ハイポーションは忽ちジェラートの体の隅々に行き渡る。



 効果はすぐに現れた。



 ジェラートの顔色には生気が戻り、ジェラートの体を蝕んでいた癌は立ち所に綺麗に消え去った。



「……な……なんだってんだこりゃあ!?さっきまで苦しかったのが嘘みてぇに……!!……痛みまで……消えてやがる……!!!!」



 その光景を目の当たりにしたヨハンナは驚きのあまり膝から崩れ落ちた。



「…す……すごい………癌を………治したなんて………し、信じられない………!!」



 それも無理もない。



 この世界に体の内部を見通すMRIのようなものは存在しない。


 それゆえ、一度癌と診断されれば、即ちそれは『死の病』を意味する。



 残念女店長ルミナは、紛れもなく天才であったのだ。




 癌が消え失せ、体調を取り戻したジェラートはすぐさま立ち上がったかと思うと、ノックスに土下座した。



「ありがとう…!!…こんな……こんななんの取り柄も無ぇ俺のために貴重な薬を……!!

 それだけじゃねぇ!!あんたはベスティロを葬ってくれた!!この恩は、俺が一生掛けて返させてもらう!!」


「俺達も、ジェラート殿の情報が無ければ足踏みをしていた。礼を言うのはこちらだ。ありがとう、ジェラート殿。」


「勿体ねぇ…!!勿体ねぇ……!!」


「ジェラート殿、俺たちとともに来るか?」


「……え……?」


「教会側の調査が進めば、いずれはジェラート殿にたどり着いてしまう。それでもこの国で身を潜めて暮らしたいのなら構わないが、俺は貴殿を受け入れたい。」



 ジェラートは顔をあげると、ポロポロと大粒の涙を流した。



「……本当に……本当にいいのか……?俺など、何の役にも……」


「自分を卑下するのは辞めてくれジェラート殿。貴殿の情報収集・分析力は並外れている。これから作る俺の国に、貴殿が欲しい。」



 『貴殿が欲しい』


 その言葉を聞いたジェラートはまた涙を流す。


 ジェラートは震える手を握りしめ、袖で涙を拭った。



「…そこまで言われたんなら断る理由が無ぇ。微力ながら、俺もあんたの国作りに協力させてもらおう……改めて、宜しくだ。ノックス様!!」


「こちらこそ宜しく頼む。ジェラート殿。」



 ジェラートはノックスと力の限り固い握手を交わした。



「さて、では引き上げるぞ。」



 一行は転移のスクロールの上に並び立ち、魔術師スケルトンが魔力を流すと、忽ち一行はその場から消え去った。

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