罪に見合う罰
「待たせたな。ようやっと貴様の番だ。ベスティロ。」
アニムスを葬ったノックスはそのまま地中に埋まるベスティロの元へと向かった。
その間にも衛兵がベスティロを救出せんと駆けてくるものの、格闘と魔術、弓スケルトンの前には手も足も出ない。
「き、貴様!!分かっておるのか!!これは教会への反逆行為だぞ!!ワシはこの教会の枢機卿であり、そんなワシに手を出せばどうなるか……ぎゃぁああああああっ!!」
ベスティロの言葉を遮るように、ノックスは刀で右腕を断ち斬った。
「そんなつまらん戯れ言を聞きたくてここに来たわけではない。」
ノックスはベスティロの目線にまで腰を下げ、痛みで苦しむベスティロの頭髪を鷲掴みにして無理やり顔を見合わせた。
「よくも俺の妹をいたぶってくれたな。その礼はたっぷり返させてもらいたい所だが、生憎そこまで時間がない。
それに、いくら相手が貴様であれ、無抵抗な者をいつまでもいたぶる趣味はない。」
ノックスがベスティロに告げている背後からフラフラと何者かが足が覚束無い様子で近づいてくる。
最初はノックスの気迫に飲み込まれそうになったベスティロであったが、その者の姿を見て内心ニヤリとほくそ笑んだ。
「…き、貴様、いや、貴殿の妹君とは知らなかったのだ…!それならば、『ディアナ』は貴殿に返そう!」
「『ディアナ』ではない。『ルナ』だ。
…まあいい。それより、返すとはなんだ?すでにルナはこちらの手元にある。にもかかわらず、それで取引が成立するとでも思っているのか?」
「む、無論それは承知の上だ!!それとは別に、貴殿には金を支払おう!!いくらでも用意するぞ!!1億でも、2億でも!!」
ベスティロはチラチラとバレないよう目で居場所を確認しつつ、なんとか時間を稼ぐ。
「貴様が手にした薄汚れた金など必要ない。」
「わ、分かった!!ならば、アズラエル教皇への復讐にワシも手伝おう!!枢機卿でもあるワシならば教皇へ近づくことも容易い!!」
「ほう?教会を裏切るつもり、か。それは面白い。
だが、おそらく貴様ではもうアズラエルへ近づくことはできん。貴様が出来ることはただ1つ。」
フラフラと近づく者がノックスの背後に立ち、手にはナイフを所持していた。
「………そうか………ならば仕方ない……」
ベスティロはその者が間合いに入ったことを確認した。
「……ならば………この男をただちに殺せ!!ノーーース!!!!」
ノックスの背後からフラフラと近づいていたノースにベスティロが命令を下す。
「………?………何をしているノース…!!」
が、ノースはナイフを握っているものの、いつまで経っても攻撃する意志を見せない。
「……ああ、この男なら、もう何を話しかけても無駄だ。」
「……何……!?……き、貴様、何をしたのだ…!?」
「俺は魂に干渉するスキルを所持している。その力により、ノースの魂を一時的に引き抜き、そして、ある命令を植え付けて戻した。」
「……何………貴様………何を言うておる……?」
「魂に直接刻み込まれた命令は、何者であれども抗うことは出来ん。この男ノースは、その命令を遂行するためにわざと生かしてある。」
「……ま、待て……貴様……何を命令したのだ……!!」
「さてベスティロよ、貴殿との楽しいお喋りの時間は終わりだ。
最期に1つ、貴殿に言い渡してやろう。」
ノックスがそう言うと、ノースはフラフラとした足取りで埋められたベスティロの背後へと回り込み、左腕でベスティロの首を巻きガッシリとホールドする。
目も虚ろなノースは耳元で、
「…アズラ…エル…さま……お許し……くだ……さい……」
と何度もうわ言のように繰り返しながら、右手に握っていたナイフの先端をベスティロの顬に当てる。
「や、やめろ!!何をさせる!!やめろ!!やめてくれ!!!!」
ノックスは命乞いをするベスティロを無視し、ベスティロへの最期の言葉を告げた。
「権力に溺れしトーマス・ベスティロ殿
先日お伝えしたように、貴殿がこれまでに行ってきた所業、その罪に見合う罰をお届けに参った。
ゆっくりと味わってくれたまえ。」
「…や……やめろぉぉおおおぉぉぉぉ…………」
ノックスの言葉と共に、ノースがベスティロの顬からズブズブとナイフを突き刺し、やがて、ベスティロには永遠の闇が訪れた。
ベスティロが完全に事切れた事を確認すると、ノースはナイフを引き抜き、血まみれのナイフを自身の目へとあてがう。
「ご苦労だったなノース。だが、貴様はもう用済みだ。命令を果たせ。」
ノックスがノースの魂に刻み込んだ命令は、『ベスティロを殺した後、自害せよ』という命令であった。
が、それ以外の部分はノース本人であるため、ノースは自分の意思はある。
文字通り目と鼻の先にあるナイフの切っ先が映り込み、それまでうわ言のようにアズラエルへの謝罪を告げていたノースは我に返るが、無常にもノックスにより刻み込まれた命令に体が勝手に動く。
「あ゛ぁぁあああああああ!!!!!」
(…どうしてこうなった…)
「やめろぉぉおおおおおお!!!!」
(…今にして思えば…あの男、ノックスが生きていたことだ…)
「あ゛ぁぁぁあああ……!!!!」
(……くそっ……たれ………もう………おれは………)
「………くぁ……あ…………」
(………お許しください………アズラエル…様………)
ノースは目を見開きながら、自らナイフを目に突き刺し、悲痛な叫び声を上げながらもナイフを奥までねじ込み、やがてベスティロ同様、永遠の闇へと誘われた。