反撃
「……何事だ?」
異変に真っ先に気付いたベスティロであったが、時はすでに遅かった。
ぴゅぅう、という風切り音がしたかと思い上空を見上げると、大量の矢の雨が降り注ぐ。
その矢は的確に衛兵たちを捉え、ノックスの戦闘に集中していた者はその矢の存在さえ知らない。
ベスティロの周囲にいた衛兵はその矢により射抜かれ、ルナを捕らえていた衛兵もまた同様に脳天を的確に射抜かれた。
「…て、敵襲……ぐあっ!!」
ベスティロが声を上げるのもつかの間。
今度はベスティロの足元から突如手が現れ、大地へと引きずり込んだ。
ベスティロを引きずり込ませた張本人がその後大地から現れると、そこにいたのは騎士と格闘、そして魔術師スケルトンであった。
現れた三体のスケルトンはその後、ベスティロの首飾りの聖印を引きちぎり、握り潰した。
上陸したスケルトンは、ノックスらが立てた作戦通り、3体のスケルトンらは地中を魔術で掘って進み、弓は陸から接近し、ノックスの邪魔立てをしている者を弓で射殺していたのだ。
それによりアニムスに注がれていた総魔力量が減り、苦しみ始めたのだ。
現れた騎士スケルトンはさらにルナの首に装着されていた隷属の首輪を剣で断ち切り、ルナは無事に保護された。
「……な、なんだと…!?スケルトンだと…!!?」
「おいおい!!どうなってやがる!!」
「…そっちよりこっちだ!!このノックスを…!!」
ノースらの注意が一瞬逸れた隙を見逃さず、ノックスはすでに仕掛けていた魔術を行使する。
「『砂粒縛・磔』!!」
それにより、ノースらの体内から結晶化した砂の粒子が体を突き破り、十字架の如く4人を磔にする。
4人は痛みの余り絶叫していた。
「……くっ……このっ……!!」
ライラが無詠唱により魔術でノックスを攻撃するも、さっきまで息絶え絶えだったハズのノックスは平然と魔障壁で防御する。
「悪いがさっきまでのは演技だ。にも関わらず、貴様らが勝ち誇っている様は滑稽で危うく笑いそうにもなったが、今は怒りでそれどころでは無い。」
ノックスは澄ました表情をしていたが、目の奥からは凄まじい殺意を宿らせている。
「俺の家族だけじゃない。貴様らがこれまで魔族に行ってきた数々の仕打ち。その代償は単なる死だけでは片付けられん。」
ノックスは魔力を練り上げ、磔にしたノース以外の3人をさらに上空へとせり上げた。
「…て、てめぇこのやろう!!下ろしやがれ!!」
「な…何をする気だ…!!?」
「…このっ……!!」
ライラは諦めずに魔術を放つも、ノックスの魔障壁により無駄に終わる。
「貴様だけは特別だ、ノース。貴様には、極上の恐怖と絶望を届けてやる。」
磔にされ動けないノースをギロリと睨みつつ、ノックスは魔力を増幅させた。
「これは俺の考案した魔術の中でも極めて残虐な魔術だ。普段はどんなモンスターであれ使うことを禁じていたが、貴様にはとくと見せてやる。」
ノックスは上空に掲げた3人に向かって右手を翳す。
「喰らえ。『砂粒縛・霙』!!」
膨れ上がった魔力が解き放たれ、3人の元へと駆け巡る。
途端に3人を磔にしていた砂粒が再度3人の体内に引き戻り、内側から膨張する。
膨れ上がった肉体により服が裂け、内圧に耐えられなくなった眼球が飛び出す。
一気に膨れ上がった体に3人は断末魔をあげ、やがて膨張に耐えられなくなった肉体は爆発四散し、周囲には血と肉片が降り注いだ。
その光景を遠くから見ていた野次馬は恐怖でパニックを起こし、顔にへばりついた肉片を見て気絶する者までいた。
「…なっ……レナント……ライラ……ワイルズ……!!」
悍ましい魔術を見せつけられ、仲間であった3人が一瞬で見るも無惨な肉片へと変えられた光景をただ見ていることしか出来なかったノースの顔から血の気が引く。
「さて、次は貴様の番だ。」
ノースはこの時、自分の行いについて後悔した。
自分が決して怒らせてはならない人物を怒らせてしまったことを。
その男が操る魔術に、なんの抵抗も解決策も見い出せないことを。
その男が仕掛けた罠にまんまと嵌ったのは自分たちである、ということを。
その男の手のひらでいいように転がされていたことを。
ノースは恐怖で顔が歪み、カチカチと歯を震わせ、みっともなく小便を垂れた。
「…た……頼む…………こ、ここ、殺さ…ないでください……」
「寝言は寝て言え。」
冷酷な一言を放たれたノースが見た光景は、ノックスが自身の頭に手を翳し、
「『抜魂術・虚』!!」
と言い放つ光景であった。
その後、ノックスは、暴れ狂うアニムスへと向き直る。
弓スケルトンによりアニムスへと魔力を注いでいた司教や司祭がある程度射殺されており、すでにアニムスは自身の姿を保てなくなっているようである。
悲鳴にも似た叫びをあげ、巨大であった肉体はかなりと萎んでいた。
「貴様を召喚させている者らを始末すれば片付きそうだが……ふむ。貴様は魂を喰らう怪物のようだな。
物は試しといこうか。」
そう言うとノックスは自らアニムスの口の中に手を突っ込んだ。
いきなり口に手を突っ込まれたことでアニムスの身体中にある目がギョロりと一斉にノックスを睨む。
噛み切りそうとしたのもつかの間、ノックスはすぐさま腕を引き抜くと、アニムスは糸が切れた人形のように脱力し、そのまま消滅した。
そして、ノックスの手にはアニムスの魂が引き抜かれていた。
「これが貴様の魂か。見た目通り、醜悪な姿をしているな。」
アニムスの魂はノックスに鷲掴みされながらも、「みーー」とも「きーー」とも聞こえるような金切り声をあげて暴れていた。
手のひらに収まるサイズのそれは、ぶよぶよの肉の塊から無数の手が生え、いくつもの目と口がそこら中にあり、ノックスの言うように醜悪な見た目であった。
ノックスは一思いに握りつぶし、無数の残滓となって霧散した。