表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】理不尽に殺された子供に転生した  作者: かるぱりあん
第16章 ムエルテ島
191/322

十字架

 リコリス司教が死亡し、リコリスが所持していた聖印を破壊すると、奴隷たちに装着させられていた隷属の首輪の効力が消え失せたのか、奴隷たちは大人しくなった。


 また、リコリスの死により衰弱させられていたノエルたちに力が戻り、急いでギロチン台に縛り付けられていた人質らを解放した。


 満身創痍のマイナたちをモズが治療し、回復したマイナたちはようやく開放された家族を抱きしめた。



「…コリン……遅くなっちゃってごめんね……!!」


「姉ちゃん……痛いよ……でも……ありがとう……」



 マイナに続いてハイゼルやセト、ヨハンナも家族や友人との再会を喜び、熱く抱擁していた。



「…キリトとホーク、お前たちの家族は…?」



 ただし、キリトとホークは家族を探すこともせず、その様子を見守っていたことに疑問を投げかけた。



「あぁ、言ってなかったっけか。俺の家族は貴族でね。みんなとは違って、見せしめにすでに処刑されたのさ。」



「俺もまあ、似たようなもんさ。ただ、貴族って大層なご身分じゃあないけどね。」


「……そうだったのか……それはすまない。」


「良いってことよ。こうやってみんなの家族が無事だったんだからさ。」


「みんな、それより早く脱出を。俺たちは地下に戻って皆を誘導するぞ。」



 ノエルがナタリアたちに指示を出して早速地下へと戻って行った。


 マイナたちも弟らを脱出させるために立たせようとするが、立つことすらままならない。


 リコリスが死亡したというにも関わらず、コリンたちは尚も『衰弱』状態だったのだ。



「司教が死んだのになぜ……!?」



 マイナたちが困惑していた所へ、無力化した奴隷たちが這いずりながら集まってきた。


 突然の事で驚き、すぐさま警戒したが、奴隷たちは戦闘の意思は無く、理性を取り戻していた。



「…おデたぢを……コロじてぐレ……」


「…モう……元には戻レない……」


「……アなたガ……俺だぢヲ…解放…じでくれタのか……あり…アリガ……とう……」


「オデたちを……殺セバ……ミンナの…衰弱……治ル……だのむ……ごろ…じてくれ……」


「……そんな……そんなこと……!!ねぇ!!ノックス様!!お願い!!彼らに治療を!!」


「……無理ダ……ソれは……たとえ……リコリス司教ガ……生きでたどシテも……だのむ………だのむ……!」


「……そんな………」


「……苦じい………早ク……解放シテ…くレ………!」



 涙を流して頼み込む元奴隷たちの元へノックスが刀を抜いて歩み寄った。



「……俺の力ではお前たちを治してやることはできん。俺に出来ることは、お前たちを苦しまずに葬ってやることしか出来ない。」


「……そレでいい………だのむ………ゴロ…じて……ぐれ………」


「………分かった………最期に言い遺す事は?」


「…教会ヲ………滅ボシて………くれ………!!」


「……任せろ……サラバだ……!」



 ノックスの背後に整列していたスケルトンらは、奴隷らに対し敬礼した。


 ノックスが奴隷たちの延髄を的確に斬り付け、奴隷たちは一切苦しむ事無くこの世を去っていく。


 去り際に、ノックスの『残存思念解読』スキルに干渉するかのように、

「…ありがとう……」

 とだけを伝えて。




 コリンたちの奪われていた力が還元され、衰弱病に罹っていた患者たちにみるみる生気が宿った。



 コリンたちは涙を流してノックスに感謝すると共に、すでに亡骸となった元奴隷たちに感謝と謝罪を述べていた。




 ノエルやスケルトンの誘導に従い、元患者たちを船に乗せる。


 船の場所については別行動していたリドルとホークらが見つけており、セイレーン号の乗組員を何名かこちらに派遣させ、出航準備を整えさせていた。



 その時、弟と共にマイナがノックスの元へと現れた。



「…本当にありがとう…弟たちを助けてくれて。」


「約束だからな。救えなかった命もあったが。」


「…さっきは…ごめんなさい……あなたに縋るしかなくて……私……」


「……………」


「ノ…ノックス…様……僕たちを助けてくれて…ありがとうございます。」


「……気にするな。そういう約束だ。」


「…僕なんかがこんなこと言うのも烏滸がましいんですけど……あの奴隷の人達は……どうしようも無かったと思います…だからその……あまり気に病まないでください。

 …僕が彼らの立場なら、きっとノックス様に同じ事を言ったと思います。」


「…コリン…だったか。」


「…え?…は、はい…」


「どんな理由であれ、俺があの奴隷たちを殺したことに変わりは無い。」


「…で、でも…!」


「だからと言って俺は歩みを止めるつもりは無い。この十字架を背負い、必ず教会の下衆共に引導を渡してやる。」


「………はは……僕なんかが軽い気持ちで…分かった風な事を言ってすいませんでした……」


「大丈夫だ、コリン。まだすぐには無理だろうが、今度はお前が姉を守ってやれ。」


「…はい…!!」



 立ち去るマイナとコリンと入れ違いに、今度は被収容者全員を船に乗せた事を確認したノエルがノックスに報告する。



「ノックス様。彼らを乗せれば、被収容者の乗船が完了します。」


「分かった。ならばすぐ出航させろ。」


「…畏まりました。

 …ノックス様はやはりこの後は…」


「あぁ。()()()()()()。そっちはノエル、お前に任せる。」


「…了解致しました…!ですが、ノックス様もどうか、お気を付けて。」


「あぁ。」



 ノエルはセイレーン号に乗り込み、ノックスらを置いて一足先にムエルテ島を後にした。




「ん〜、こんな事、教会が黙っちゃいないよぉぉ?本気で教会を怒らせる事になるよぉぉ?オジサンビビっちゃうねぇ。」


「せいぜい今のうちに勝利を噛み締めておくんだね。」


「…………………」


「アンタがいくら強かろうね、教会にもバケモンはいるんだよ!」


「……………………」


「なんだい!!何か言ったらどうだい!!」


「………………………」


「なんじゃ?うるさい女じゃのう!!」



 ノックスらの元へ、守備隊を相手にしていたベリアルが訪れた。


 まだムエルテ島には何名かの守備隊がいたのだが、彼らは知らない。

 自分たちが、わざと生かされていることに。



「ベリアルか。」


「退避も終わったようじゃしのう!そろそろワシの出番じゃろう!!」


「な、何をしようってのさ!!?」



 突っかかってくるジョアンを意にも介さず、ベリアルは全身から光を放つと龍形態へと移行した。



『ガハハハハハハ!!それではせいぜい暴れさせてもらうぞ!!!!』



 いきなり目の前にいた男が伝説の八龍へと変身したことにジョアンは驚きのあまり腰を抜かした。



 龍形態へと移行したベリアルは、そのまま収容所を(ことごと)く焼き尽くす。


 燃え盛る業火を見つめていたノックスだったが、くるりと踵を返し、ファウストらを引き連れて教国へ潜入するべく歩き出す。



「…は……ははは………火…火龍だってぇぇ?…こんなの…教会がどうとか言ってらんないよねぇぇ……」


「…由々しき事態である……実に……由々しき事態だ……」


「……そんな……教会と本気で戦争をしようってのかい……!?」


「戦いになればいいが。」



 そう言うノックスは不敵な笑みをチラリと零したが、目は笑っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ