v.sファウスト&ジョアン&ヨーク
建物内へと侵入したノエルたちは、注意深く辺りを捜索していた。
罠を警戒してアインとモズを後から来るよう指示していたのだが、ここまで待ち伏せされていたり呪術が発動したりなども無く、逆に異様なほどの静けさがかえって不気味さを感じていた。
『なぜ誰もいないのか。』
口には出さずとも、多少の不安と焦りが入り交じる。
奥へ奥へと進む3名、その後ろに2名。いくつかの扉を抜けると大広間に出る。
異様なほど静まり返った建物内には静けさ以上にさらに異様な光景が目に映る。
というのも、ここは本来の名目は『衰弱病を治療するための隔離病棟』であるはずだ。
にも関わらず、患者を収容する部屋には重苦しい扉に堅牢な鍵が備え付けられ、まるで監獄の様相を呈していた。
大広間から廊下へ出て、部屋を1つずつ丁寧に確認していたノエルたちの所へ、後ろから駆けつけてくる者がいた。
マイナ、ハイゼル、セト、キリトの4人である。
「お前たち…ノックス様と同行していたのでは?」
「そのノックス様が許してくれたのよ。あなた達と合流して弟らを探せってね。」
「外に12使徒が現れ、ベリアルさんが相手している間に探すのを手伝え、ってさ。」
「そうだったのか……ならまずはこの階を。一通り探し終えたらさっきの広間にある階段の前で合流しよう。」
ノエルの提案にマイナらも賛同し、アインとモズとも合流して1階の捜索を手分けした。
建物内の通路は患者が逃げ出しづらくするためなのか、妙に入り組んだ形をしている。
部屋を1つずつ確認するも、やはり人っ子一人見つかることは無かった。
ただ、共通して言えることは、部屋はどれも床にホコリが積もっている訳では無く、『最近まで使用されていた』ということだ。
手分けして1階を捜索していた一行だが、ついに誰と出会うでもなく階段前へと合流した。
「…まさか誰もいないなんて……」
「本当にここに収容されてるんッスよね?」
「間違いない…ハズだ…」
「まあ、部屋はどこも最近まで使われていたわよね。」
「…と、言うことは……」
全員が一斉に階段下を眺める。
自分たちが襲撃した時点から、患者たちを地下へと誘導させたのか。
はたまた、自分たちの襲撃を見越して患者たちをこのムエルテ島から移送させたのか。
「……ともかく、下へ行くしかないな……」
「また俺たちは後から行く感じッスか?」
「地下に居ればいいけどね…ここまで人員を割いたのに収穫無しってのはさすがに。」
「…すまんな……我らがリームスにさえ見つかっていなければ……」
「…謝らなくていい。いまさら後悔したとて致し方の無いことだ。」
「…あ…あの………」
皆が議論する最中、モズがおずおずと口を開いた。
「…なんだ、モズ?」
「…変なんです……」
「……?」
「変…って、何がッスか…?」
「この建物に入ってから、建物の外にいる人の気配が感知出来なくて…」
「あぁ、それなら俺も感じたッスね。」
「おそらく建物の外装にはそういう感知系スキルを遮断する仕組みが組み込まれているせいなのだろう。」
「……だったら……尚更、変だと思いませんか…?」
「……ん……?何が言いたい……?」
「……そうか……確かにおかしいわ……!」
黙って聞いていたナタリアがハッとした。
「どういう事だ?」
「建物の扉、あたしたちが外にいるのを分かってて開門したのよね?」
「ん?そりゃそうッスね…」
「……!!」
「……そうか……中から外にいる者の気配が窺えないのなら、誰かが外から開けるしかない。」
「…あ……そうか………え?でも外には俺たち以外誰も……」
「そうなんです。あの時はあたしたち以外誰も居なかったハズなんです。」
「……固有魔法か!!」
『ごめいさぁぁつ!いや〜、裏切り者がいたせいですぐに見破っちゃったようだねぇぇ!』
突然の声に全員が驚き、声がした方向へと一斉に見やる。
すると、『透明』を解除したのか、3人の男女が姿を現した。
真ん中の男が左右2人の肩に手を置き、同じく透明化させていたようだ。
「ん〜、案外早くにバレちゃったねぇぇ。本当ならその階段を降りたオタクらの背後からズブリといく作戦だったんだけどねぇぇ。」
「だから早く殺っちまいなって言ったのにさ。」
「って言ってもさぁ?こいつらなかなか警戒心が強いからさ。」
「…ここでバレるなら同じではあるまいか。」
「あれれぇ?ヨークまでジョアンと同じく俺を責めちゃうわけぇぇ?オジサン傷ついちゃうなぁぁ。」
「冗談はそこまでにしておきなファウスト。さっさとこいつらを片付けちまうよ。」
「あいよ。だけど数的にちぃぃと不利だよねぇぇ。下から応援来てくれると助かるんだけど。」
「貴様ら、ここにいた患者は下に居るのか?」
「ん〜、居るよぉぉ。でも会える保証はないけどねぇぇ。」
「ならばここは俺とナタリア、それとアインとノアで引き受ける!モズ、お前はマイナたちと共に下へ行き、弟らを探せ!」
「あれれぇぇ?たった3人と1匹で俺たちの相手するってわけぇぇ?オジサン舐められてるぅぅ?」
「…舐められているならばそれでもよかろう。そのほうがやりやすかろう。」
「あたいはどっちだっていいさね。久々に魔族を殺せるなんてね。」
「早く行け!」
「…分かったわ…あなたたちも気をつけて!!」
「こっちはあたしが全力でサポートします!!」
マイナたちはモズと共に地下の階段を下り、ノエルらにこの場を任せた。
後ろ目にそれを見送ると、改めてファウスト、ヨーク、ジョアンの3人を睨みつけた。
「いいのかいファウスト?あいつらを行かせちゃっても。」
「あんまり良くないねぇぇ。ま、あっちは司教サマがなんとかしてくれるさ。」
「…ほう……やはりこの先には司教がいるのか。」
「そうだよぉ。ま、オタクらにゃあ関係の無いハナシだけどねぇぇ。」
「さっさと殺っちまおうぜファウスト!」
「うむ。我らの仕事をさっさと終わらせたほうがよかろう。」
「それもそうだねぇぇ。オジサン張り切っちゃおうかなぁ。」
「…いくぞ!!」
ノエルの合図と共に、アインが早速火魔術を放つ。
が、ヨークがそれを難なく魔障壁により防いだ。
「んん〜!若者は血の気が多いねぇぇ!……ありゃ?」
アインの火魔術を皮切りに、すでにノエルらは散開し、ノエルとナタリアは両サイドから斬りこみにかかっていた。
ナタリアが振り下ろした薙刀をジョアンが鎌で受け止め、ノエルの双剣はファウストのナイフで受け止められた。
動きを止められた2人に向けて、今度はヨークの放った雷魔術が襲いかかる。
アインがすぐさまそれを感知し、魔障壁を展開させて防御した。
その時、ファウストの背後から忍び寄っていたノアが音もなく襲いかかる。
ファウストは力を込めてノエルの剣戟を押し返し、反転して襲いかかってくるノアの攻撃をいなしつつ蹴りを見舞った。
吹き飛ばされたノアだったが、空中で身を翻して受け身を取る。
「んん〜、これは一筋縄ではいかなそうだねぇぇ。」
「…思っていた以上に戦えるようではある。」
「ちょいとばかし時間が掛かりそうだねぇぇ。」
「もういいかい?あたいもそろそろ本気になっても?」
「そうだねぇぇ。そうしないとこの若者たちを殺せなさそうだもんねぇぇ。オジサンも本気出しちゃおうかな。」
ヨークが自分たちに向けて付与を施し、ジョアンとファウストは改めて戦闘態勢へと移行した。
ノエルらも同じく付与を施し、改めてファウストらと対峙する。
「…俺達も本気でかかるぞ。いけるかノア?」
蹴りをもらったノアだったが、「いける」と言わんばかりにファウストを睨みながら「フーーーッ!!」と威嚇した。
こうして、ノエルらとファウストらの第2ラウンドが始まった。