ベリアルv.sロウ&スカーレット
前線にいたノエルらは立ちはだかってくる守備隊を続々となぎ倒し、ようやく隔離病棟の扉まで道を拓いた。
ここに来るまでに大した手練に会う事もないことを少々訝しんでいた。
後方からはマイナたちもやってきている。
ノエルらを先行させたのは、道を切り拓くのは当然ながら、万が一敵の罠に嵌ったり、固有魔法を警戒しての為である。
「この門の先に被隔離者たちがいるのね。」
「…にしても、門番が誰もいないッスね。」
「逃げたのでしょうか…?」
「油断するなよ。例の固有魔法が本当なら、隠密して我らに浴びせかけてくるかもしれん。」
「…それもそうッスね……ただこの門、どうやって開けるんッスか?」
「俺が斬る。」
ノエルが扉を斬ろうかと双剣を構えた時、ゴォォ…という音と共に開き始めた。
扉が開き始めたと同時に即座に皆警戒し、散開して戦闘態勢へと移行する。
が、門が完全に解放されたものの、その先には誰も見当たらない。
すぐさま感知スキルで索敵を行うも、やはり誰の気配も窺えなかった。
「……誰も……いない……?」
「…俺たちを誘っているのか…?」
「…ノエル、どうするッスか?」
「…俺とナタリア、ノアで先行する。俺たちが入って何事もなければアインとモズも来てくれ。
リドルはホークと共に例の準備を。」
「それは構わんが、罠の可能性が大いにあるぞ。それでも行くのか?」
「ここであれこれ考え倦ねいても仕方ない。」
「それそもうだが……気をつけろよ。」
「あぁ。そっちは頼んだぞ。」
ノエルの指示によりナタリアとノアも同じく先行する。
門の向こうには受付があるが、そこにも人の気配は無い。
廊下にはいくつか複数の特殊なアーチが設けられ、その床には魔法陣が刻まれていた。
おそらくここに収容される者はこのアーチにて身体検査か、もしくは特殊な呪術を施されるのであろう。
魔法陣を確認するも、そこに魔力が来ていない事を確認し更に奥へと進む。
薄気味悪いほどに静かな廊下を進むと更に扉を確認した。
そこまで入った所で、後方で待機していたアインとモズへ合図を送り、その後ノエルら3人は扉を開けて奥の部屋へと入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、ベリアルはロウとスカーレット、そしてスカーレットにより下僕にさせられた守備隊相手に戦闘を繰り広げていた。
ベリアルに向け様々な格闘を仕掛けるロウであったが、時折スキを見てはベリアルからも反撃が繰り出される。
が、ロウはそれをすんでの所で回避していた。
ロウの持つ称号【拳闘士】は格闘術を大幅に底上げするだけでなく、野性的カンまでをも底上げしているのだ。
さらにロウはすでに固有魔法『強化』も発動させており、自身の力や素早さ、各種耐性をも引き上げさせていた。
「なかなかすばしっこいガキじゃのう!ちょこまかと!!」
「テメェこそ!!さっさとぶっ殺されやがれ!!」
ロウが腕に力を溜め、渾身のパンチを見舞う。
槍で受け止めたベリアルだったが、予想以上に重いパンチにより体がよろめいた。
そこへ守備隊が次々に斬り掛かった。
異様だったのは、守備隊は仲間を巻き込むことに一切厭わず、仲間ごとベリアルに斬り掛かったり刺し貫きにかかったのだ。
「…ふむ……仲間ごと斬り掛かってくるとは、もはやお主らは完全にあの女の下僕のようじゃのう…」
思わぬ攻撃を受けたベリアルは、かすり傷ではあるものの少々攻撃を貰ってしまった。
「…じゃが、悪く思うなよ。」
ベリアルは魔力を練り上げたかと思うと、自身を中心に火魔術を展開し、近くにいた守備隊が巻き込まれ一瞬にして炭と化した。
「…へぇ……やっと本気ってわけかよ?」
ベリアルの魔法を見たロウがニヤリと笑う。
「もう少しお主らと遊んでやっても良いのじゃがのう。」
そう言い放った刹那、ベリアルが消えたかと思うと一瞬のうちにロウに蹴りを見舞っていた。
咄嗟にガードしたロウであったが、重い蹴りによりそのまま吹き飛ばされる。
「…なっ…!?」
想定してはいたものの、いざそれを目の前にしたスカーレットは驚きを隠せなかった。
「ガハハハハハ!!恐れ入ったか!!」
ベリアルは自身の力に驚愕していたスカーレットを見て高らかに笑った。
吹き飛ばされたロウであったが、のしかかる瓦礫を蹴飛ばして怒りの表情で立ち上がる。
どうやらベリアルの蹴りをガードしたと同時に、吹き飛ばされる方へと自ら跳躍していたようだ。
「……テメェ……ぶっ殺してやる……!!…スカーーレーーット!!!!」
「分かってるわよ…!」
「ガハハハハハ!!咄嗟に受け身を取るとは単なるバカでは無さそうじゃのう!!ならばもう少しだけお主らの相手をしてやろう!!」
ロウは再度自身に『強化』を施し、スカーレットは残っている守備隊を集めつつ何やらブツブツと呟いていた。
その後、スカーレットが床を鞭打つと、守備隊が一斉にベリアルに斬り掛かる。
ベリアルは槍に火を纏わせ薙ぎ払い、向かってくる守備隊を次々に消し炭にさせた。
その合間を縫うようにロウが間合いを詰め、ベリアルと激しい肉弾戦を繰り広げた。
懐に入られたベリアルは槍でロウの攻撃を防ぐ。
野性的カンの鋭さ故か、時折反撃するベリアルの槍は虚しく空を斬る。
ベリアルが一旦距離を取るために魔力を練り上げようとした刹那、何者かの魔力が足元に漂う。
それを感知したのも束の間。スカーレットが
「止まりなさい!!」
と言いつつ床を鞭打ち、魔法を行使させた。
スカーレットの固有魔法『捕縛』により、ベリアルは動きを封じられてしまった。
「ぬっ!?う、動けぬ……!!?」
「…さぁて、あとは大人しく、私の下僕になりなさい!!」
スカーレットは鞭を頭上で何周か振り回した後、そのまま勢いを付けてベリアルに鞭を見舞った。




