『交換』
「くそっ!!コイツら…!!」
「魔族風情が…!!」
数で勝る守備隊であったものの、ノエルとナタリア、ノアの3名は守備隊を圧倒していた。
その3名に注力していると今度はアインとモズから魔術が飛んでくる。
が、さすがに守備隊もやられっぱなしという訳にもいかず、後方で控えていた魔道部隊が隊列を組んで詠唱を行い、魔力を一気に練り上げる。
「…おっと、あれはやばいな。ホーク!」
「…あれか。任せな!」
ホークが魔力を練り上げ、すかさず固有魔法『交換』を発動する。
魔道部隊がノエルら3名に向けて巨大な火魔術を撃った瞬間、応戦していた守備隊が一斉に距離をとる。
が、ホークの固有魔法により、ノエルら3名は他の守備兵と入れ替わった。
突如入れ替わられた守備隊は自身に何が起こったのか混乱したが、次の瞬間には巨大な火が目を覆い尽くし、一瞬の内に全身が炎に包まれて炭と化した。
突然場所を入れ替えられたノエルたちも同様に混乱したものの、すぐに状況を飲み込み攻撃を再開させた。
「面白い魔法だな。俺の動きに合わせて随時発動できるか?」
「ふむ……ま、物は試しってことでやってみるかい?」
「了解だ!」
その言葉を皮切りにリドルが前線へと参加した。
リドルは手始めに手薄な場所に攻め入り、次々と来る守備隊を相手取る。
元々使用していた武器を斧からハルバードに変えたお陰で間合いが格段に伸びている。
リドルが目でホークに合図すると、ホークはすぐさま『交換』を使用しリドルと守備兵の位置を変えた。
敵味方の位置がいきなり変わったことに当初は戸惑いはしたもののすぐ適応し、ホークもまたリドルの動きに合わせ互いの位置を交換する。
ノックスの目論見通り、リドルとホークの組み合わせは絶妙であったようだ。
「…ははっ…コイツはすごいな…!」
ホークの交換に慣れたリドルは、面白いほどに戦闘がスムーズに進むことに笑みを零した。
そしてそれはホークも同じく、リドルが面白いほど敵をなぎ倒す光景を見つめていた。
「はっ…俺の固有魔法も捨てちゃいけないねぇ……ここまで型にハマるとは……」
やがてリドルはノエルらのいる前線に合流した。
その間にも次々と守備隊が現れる。
死体の山が築かれつつあったのだが、息も絶え絶えな守備兵がヨロヨロと起き上がり、ナイフを片手にナタリアの背後へと近づく。
いち早くそれに気付いたノエルがナタリアに声を荒らげるも、大勢の守備隊の怒号により掻き消される。
守備兵がナイフを振り上げ、まさに刺そうとするその刹那、リドルが守備隊の背後からハルバードで袈裟斬りにした。
「背後ががら空きだぞナタリア。」
「…リドル!?…い、いつの間に……
……ありがとう……おかげで助かったわ。」
いきなりリドルが背後に現れ驚いたが、遠くにいたホークが親指を立てていたのを確認し、何が起こったのかを把握した。
リドルはナタリアの背後に忍び寄る守備兵を俯瞰ですぐさま捉え、ホークに目で合図をし、その近くの守備兵と場所を入れ替えたのだ。
ナタリアの無事を確認したノエルは一安心していた所へノアが近寄った。
ノアはもっと暴れたくてうずうずしているかのようである。
「フッ…良いだろうノア。思い切り暴れてこい!」
「ミャウ!!」
ノエルに了解を取ったノアは眉間にシワを寄せ、体に力を滾らせる。
そして目にも止まらぬ速さで戦場を駆け抜けたかと思うと、通り抜け際にいた守備隊の喉を鋭い爪で掻っ切っていった。
「ミャウ!!」
「ひ、ひぃぃ!!な、なんだあの化け物…!!」
恐慄き尻込みした守備隊に向かって容赦なくノアが的確に喉を掻っ切ってゆく。
「あ、アレって…ノ、ノアちゃんなの!?」
「あらら、まーた速くなってるッスねぇ。」
後方支援にいたモズがノアの豹変ぶりに驚きを隠せなかった。
ノアはその後も速度を緩めることなく守備隊の合間を縫うように駆け抜け、先と同様に次から次へと喉を掻っ切っていく。
「ノアに遅れを取るなよ!!ナタリア!リドル!!」
「オーケーよ!」
「了解だ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…やれやれ…張り合いの無い奴らばかりじゃのう。」
ノエルたちを置いて1人敵陣の奥深くへと入り込んだベリアルは、待ち構えていた守備隊を続々と薙ぎ倒すも、あまりにも実力の差がありすぎて退屈しのぎにすらならないことを嘆いていた。
その実力の差をまざまざと見せつけられた守備隊は戦々恐々とし、もはや戦おうとする者すら見当たらない。
「ふん。戦闘意欲の無い軟弱者をいたぶる趣味はない。さっさとここから消え失せるが良いわ!」
ベリアルの言葉に守備隊は手にしていた武器を捨て、蜘蛛の子を散らすかのように一斉に逃げ出した。
が、何やら乾いた音がパァンと鳴り響いたかと思うと、逃げ出していた守備隊の足が一斉に止まる。
「あらあら、敵を目の前に逃げ出そうだなんて、そんな臆病者はいらなくてよ?」
「はぁぁ…!ようやっと暴れられるぜぇ!!」
引き返してきた守備隊の後ろから、2人の男女が現れた。
1人は真紅のドレスに身を包み、ツバの広い帽子を被っている。
そこから靡く髪は炎のような緋色をしており、手には鞭を所持していた。
もう1人は両手にトゲのついた手甲を着け、両足にも同様の物が見て取れる。
顔は鋭い目付きに三白眼。好戦的な顔つきをしていた。
12使徒のスカーレットとロウである。
「…ほう?お主らは此奴らとは少し違うようじゃな。」
「こんな奴らと一緒にするんじゃねぇよ。それよかテメェか?ノックスってのは?」
「…ふむ。そうだと言ったらどうするのじゃ?」
刹那、ロウは一瞬でベリアルの懐に入り込んでパンチを見舞った。
「ハハッ!!そうと決まりゃあぶっ殺すまでだ!!」
ベリアルはロウのパンチを槍で受け止め、激しい金属音が鳴り響いた。
「…いきなり攻撃を仕掛けてくるとはのう。せっかちな奴じゃ。」
「ちょっとロウ!1人勝手に出しゃばらないで頂戴!!」
スカーレットが憤り、床に向けて数回鞭を打った。
それを合図に先程まで戦々恐々としていたハズの守備隊が落とした武器を再度手に取り、目の色を変え、ベリアルに向けて一斉に攻撃を仕掛ける。
どういうわけか、守備隊の強さが格段に上がっており、また、連携力にまで磨きがかかっている。
スカーレットの称号である【調教師】の効果により、守備隊はもはやスカーレットの従順な下僕となり、スカーレットの思い描く通りの手駒と化していた。
「おいおい!スカーレット!!俺まで巻き込むんじゃねぇ!!」
「アンタが勝手に飛び出すからよ。分かっていると思うけど、コイツはあたしらで共闘しないと勝てないわよ?」
「チッ!!邪魔だけはするんじゃねぇぞ!」
「それはこっちのセリフよ坊や。」
「坊や呼ばわりすんじゃねぇ!!」
「なんじゃお主ら。共闘するにしても仲が悪いようじゃのう。もっと仲良くせんと、ワシに勝つことなど天地がひっくり返っても出来んぞ?」
「上等だ…ぶっ殺してやる…!!」
「はぁ…仕方ないわね。なら、その目でとくと拝ませてあげるわ。アタシ達の実力を。」